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「優良なドライバーが報われ、より強い物流を構築するSaaS」を顧客起点でアメリカで作った話

タイトルは僕たちがアメリカでやっている事業ビジョンです。
.sfty(ドットセーフティー)(https://www.dotsfty.com/) はドライバーの生産性に関わるあらゆるソフトウェアのデータを統合し、Driver Creditを構築することにより優良なドライバーが報われ、より強い物流インフラを構築することを目指しています。

Driver credit 構想の概念図

まず著者の自己紹介をさせていただきます。
2017年にMomentumというアドテク領域の不正検知SaaS企業を創業し、3年でKDDIグループにM&Aされる経験をしたのちに、米国で2021年に現在の企業を創業し、約3.4億円($2.5M)を調達しました。その後、ドライバー向けヘルスケアサービスから、ドライバーの生産性向上SaaSへとピボットしました。

ピボットした背景は、顧客インタビューを通じてヘルスケアへのマインドシェアはドライバー、マネージャーともに低く、川の流れが遅すぎることがわかったためです。一方でテクノロジーでドライバーのエンパワーメントをしたいというビジョンに多くのドライバーマネージャーが関心を持ってくれました。インタビューする中でどれほどワークフローに課題があるか語る姿を見て、この領域の課題解決で何かできることがあると感じ、カスタマーを変えずに解決すべき課題を変えてみようという意思決定をチームで行いました。

このNoteではそれ以降、僕たちがどんなインサイトをみつけ、どのように事業へ昇華させたか、こと細かにシェアしようと思います。今後の起業家がピボットから次の事業の種をつかむ際の参考になれば幸いです。

ピボットの過程としては翻ると、以下に整理できました。

Step1. インタビューを通じてワークフローの記述
Step2. 理想の業務アウトプットに対して最も乖離している部分の特定(課題)
Step3. Step2の解決のみを目指すMVPでのパイロットテストを通じて実データ、実ワークフローの中でバリューの検証
Step4. バリューに対して設定した金額をもとに営業の検証
Step5. 生み出されたプロダクトをビジョンへ昇華

ピボットのステップ

なおこの過程を進めるにあたり、Burning needsを見つけるためのフレームワークとしてAutify CEOの近澤さんのブログ・Podcastを参考に進めました。非常に練度の高いフレームワークを作ってくださった近澤さんにこの場を借りて感謝いたします。

「パフォーマンス下位1%のドライバーが燃料の10%を消費している」ことを把握できてないマネージャー


Step1, 2で、2ヶ月間で70-80人程度のドライバーのマネージャーにインタビューを実施する中で僕たちが特に意識したのは、明日業務ができるレベルにワークフローを整理する点でした。定常的なもの、イレギュラーなものを全てMiroで図示しながら検証を行い、定量的に時間やコストがどのように使われているかについても漏らさず聞くようにしました。

ドライバーのマネージャーとは具体的には、Ops Manager, Fleet Manager, Safety Manager などの職種の方々にリサーチしました。

MTG終了後に毎回ホワイトボードに書き出してMiroに書き起こしてました

何度も仮説を立てては白紙にもどす作業はチーム全体にかなり負荷の伴うものでしたが、一緒にやりきってくれたチームに感謝しかありません。

ワークフローから抽出する課題について、狭いけれど特定の顧客群には存在する固有のユースケースにしようと考えていました。米国の物流領域のソフトウェアには年間1.5兆円が投資される一方で、G2に数百のソフトウェアがリスティングされるほどの細分化された市場であり、中途半端なユースケースであればすでに関連する領域で解決されている可能性が高いためです。

インタビューを経て、僕たちの定義した初期ペルソナと課題は下記の通りです。

<ペルソナ>

  • 100-1000人のドライバーを抱える会社(運輸/建設/石油/飲食/廃棄物管理/交通/小売)

  • Ops Manager, Fleet Manager, Safety Managerの専門職種(社内に専門の担当者として1-2名が在籍する状態)

  • ドライバーの業務モニタリングとトレーニングを定常業務として行っている

  • 担当者がドライバーの業務モニタリングに2つ以上のSoftwareに定常的にサインインし業務を行っている

<課題>

  • リアルタイムなドライバーの業務効率PDCAが実現されていない

  • 走行データ/燃料購買/勤怠管理/メンテナスetc.のデータは社内の別々のシステムにサイロ化されている

  • マネージャーは複数のデータをタイムリーに評価することが難しいと感じている

  • ドライバーはリアルタイムに業務フィードバックされていない

これらの課題がマクロな事象として、ドライバーの低い業務パフォーマンスにより、 運送業界全体で毎年数十兆円単位のコスト増につながっていることも定量的に想定できました。

  • 燃料費の 53% 上昇 (21兆円) - アイドリング時間/スピードの増減/空走行

  • 車両維持費の16% 上昇 (6兆7500億円) - 定時点検もれ/車両のだぶつき

  • 保険料の 2.3% 上昇 (7500億円) - 不注意な運転による事故

Aha momentを感じた瞬間。「このドライバー重大な過失事故を起こして直近解雇したドライバーだ。このデータをみてたらもっと早く気づけたのに」

課題を解決するためのMVPは下記を開発し、その上で実データを連携してくれるパイロットカスタマーを8社集めテストを開始しました。

MVPの機能は下記に絞り、それ以外の色々なものは全く作らない状態で進めました。

  • 2以上のソフトウェアのデータを統合できる

  • イベントの重要度によってトレーニング、通知が最適化される

  • 業務端末と連携によりドライバーが日ごろ見る端末でPush通知ができる

パイロットカスタマーがバリューとして感じてくれたポイントは下記です。

  1. 運転によるインシデント、スピード違反等でしか可視化できていなかった低パフォーマンスなドライバーの兆候を燃費、車両点検、コンプライアンスを含めた複合的な指標で評価できた

  2. イベントドリブンなトレーニングの自動化によってマネージャー、ドライバーの時間が削減できた

  3. 低パフォーマンスなドライバーをトレーニング、マネージャーにエスカレーションすることで燃料/メンテナンス/保険コストを節約する余地が十分にある

このバリューをもとに、十分な市場があるのか、競合に対して優位性があるのかを検証しました。

バリューに基づいたボトムアップの市場規模は1650億円と算定でき十分な市場があることを確認できました。
対象顧客数 950万人のドライバー x ドライバー 1 人あたり年間 120 ドル (年間 763 ドル 燃料 + メンテナンス + 保険コストの節約に基づく)

バリューベースで競合を考えると下記のようにHorizontal, Verticalが整理できました。(Vertical SaaSではレガシーな企業と競合することが多く、同じ機能ではなくて、同じバリューを持っている競合を見た方がいい場合が多いと考えています。)

Horizontal : LMS(学習支援)ソフトウェア
Vertical: ドライバートレーニング(オフライン・オンライン)

Horizontal, Verticalな競合どちらもドライバーの業務データと連動ができず、トレーニングを自動化することができないため、同じバリューを提供できないと判断できました。

Step4はいざ営業です。このプロセスはパイロットの顧客の有料契約への転換であり、新規顧客への営業でもあります。
僕たちは既存の顧客の有料契約への転換率を50%以上の目標にすえており、リリース後1ヶ月で、下記のような進捗を達成することができました。

  • 1000人規模のドライバーを抱える会社の子会社での有償契約

  • Nasdaq上場企業とのパイロットで良好な結果が出た上で、契約締結進行中 

  • シリーズDの物流スタートアップとのパイロットで良好な結果が出た上で、契約締結進行中

この副産物として、同業界で経験豊富なセールスをHead of Salesとして獲得することができました。(過去には大手通信会社Verizonで物流向けソフトウェアの販売に携わり、ドライバーのセーフティー向上のためのARR$50MのSaaS企業でHead of Businessを直近で務めていた人物です)

最後の問い。今なのか?自分が取り組むべき課題なのか?

Step5のビジョンを策定を通じて、僕はこの課題に取り組むべきだと決めたました。その理由は、勤勉なドライバーが豊かになるために働きたいというビジョンを夢見てるのは僕らだけだと感じたからです。

他の会社は端的に表現すると、物流の最も貴重なアセットを車両だとみていますが、僕たちは人だと考えています。いろいろな物流業界のアメリカの起業家と話しましたが、車両ではなくドライバー、データそのものではなく、データを起点にした行動変容に注目している起業家はほとんどいないと感じました。

僕たちは、優良なドライバーを増やす仕組みづくりを全方位で構築していきたいと考えています。
以下は成し遂げたいことの一例です。

  • 高実績のドライバーは車両メンテナンス不備が少ない、事故発生が少ない、ことが証明できれば

    • 高実績を出しているドライバー群の自動車保険加入を有利に交渉できる

    • 車両リースをする際に、有利に交渉できる(リース車両の残存価値が高まるので)

  • 低実績のドライバーを解雇することで、下記が可能になる

    • コンプライアンスの遵守

    • 車両メンテナンスコストの維持

    • 自動車保険料の調整

    • ガソリン代のセーブ

    • 給与・ボーナスの再分配

このビジョンが自分にとってやりがいがあると感じられた時にピボットの最後のステップが終わりました。そして、ここまででピボットをやり切った流れの紹介は終わりです。

ピボットをやり終えた後日談としては、ピボットする前のヘルスケアサービスを営業していた時には全くと言っていいほど吹かなかった風が吹いてきました。
下記はローンチ後に一例として体感したものです。
ローンチと同時に大手の車載ソフトウェアプラットフォームと接続できたり、お客さんが喜んでデータをシェアしてくれるようになったり、数万ドライバーを抱えるエンタープライズ企業からインバウンドが来るというのが、2週間足らずで起こりました。風向きが変わったと感じられました。

真面目なドライバーの給与が米国で最高峰のソフトウェアエンジニアの給与を超えるような世界が物流の発展に寄与すると思っています。
これからのマクロなトレンドとして、AIがナレッジワーカー以外の働き方を変えるチャンスはどんどん大きくなっていくと思います。労働集約モデルの産業ではまだAIの本格利用はこれからです。僕たちもその潮流を担うプレイヤーになり、次世代の物流の発展を促すことを目指しています。

あとがき

今回の創業に至る経緯としては、前回創業したMomentumをM&AでExitしてしまい伸ばしきれなかった一番の学びとして大きな市場で戦うことの大切さを知りました。だからこそ米国の大きな市場で深い課題を解決したいと挑戦を行っています。
アメリカのGDPの5%(日本のGDP換算だと15%に匹敵)を担う、物流産業の課題は大きくて深いものです。

これは以前のNoteにも書きましたが、今でも強く信じているのは、起業家の強さは、課題解決の時間軸を長く捉えられる力だと考えてます。5年のものさしで事業を計っている人と、20年のものさしで高い山を狙っている起業家は最終的に到達地点に大きな差が出ると考えています。
人生で2回目の起業としてチャレンジしている今回は、常に長いものさしを意識して闘っていこうと考えています。

今回はピボットの過程で再現性があると考えられるものを中心に書きましたが、その他にもどのようにピボットする意思決定をどのように自分自身で整理したか、チームにどのように意思決定を伝達したか、など多分に感情的な部分も含まれるドラマがありました。もしそのような話が興味ある方はお気軽にFacebook のDMか、tak@dotsfty.comまでご連絡ください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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