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経済の流れを変えるための10個の課題 UCISL, updated ed. Nov.2017

(解題) 欧州では様々な高等教育機関で経済の持続可能性sustainabilityの方策を学ぶための大学院のコースと研究機関が立ち上がっている。
 こうした資本主義の持続可能性についての危機感は、日本の高等教育機関ではあまり見られない。日本では米国の株主資本主義を正しいとするファイナンス論の影響が、教育や研究の場を長年席巻してきた。本来このようなファイナンス論に対抗するはずの左派的な立場の金融論の学者の間にも、この株主資本主義論の影響は顕著である。おそらくそれを受け入れることが資本主義の限界を主張するには都合がよかったからであろう。
 日本の高等教育が欧州でのこの動きに乗り遅れている今一つの理由は、経済学・経営学・金融論といった基礎的な学問の理論構成を、最終的には大きく変更する必要があるからではないか。たとえばそもそも企業とは何か、といった極めて初歩的なレベルの議論を、社会的な責任がある存在として企業を捉える立場から書き直す必要があると考えられる。
 そのため欧州で発達した持続可能性金融(sutainable finance)の議論は、日本では環境庁のサイトなどに一部反映しているだけで、現在でも高等教育の現場に影響を与えていないのではないか。
 しかしソビエトロシアの崩壊のあと、経済制度の選択について、計画主義的社会主義への幻想もまた崩壊したと考える。そして、私有財産を基礎とする市場経済制度を選択するという合意が残された。そのうえでその運営の仕方について、株主資本主義ではなく、持続可能性を重視してステークホルダー資本主義を選択することが、欧州だけでなく米国でも様々な論者によって指摘されるようになっている。→新しい資本主義
 日本の高等教育や、金融論研究の世界はこうした世界的な動向に鈍感であるように感じられてならない
 指摘されている株主資本主義の問題は大きくは二つ。一つは、所得・富の分配の不均衡の拡大である(なおもう一つ債務金融への依存という論点もある)。もう一つは地球の温暖化に代表される、自然(大きく言えば地球という環境の制約、生態系)の制約を株主資本主義は無視しているのではないか、ということである。
 もう一つ忘れてはならない論点は、政治制度における民主主義である。その内容として言論・出版の自由、選挙による代議制度。多数党による行政府の運営。経済制度におけるステークホルダー資本主義と、政治制度における民主主義との組み合わせが、合意として残されている。先ほど述べた株主資本主義への批判は、こうした政治面での民主主義があって始めて、裏付けられるという考え方が背景にある。言論・出版の自由が守られれば、人々が合理的な判断を行うという前提がそこには含まれている。
 以下のケンブリッジ大学で出された教科書は資本主義の持続可能性について政治家、金融機関、事業者の役割と課題を提起している。2015年に最初に出版され2017年に改定版が出されている。このうち金融機関について主張されていることは、金融機関は持続可能性について役割を果たせるし、果たすべきであるということである(福光)。

University of Cambridge Institute for Sustainable Leadership, Rewiring the Economy. Ten tasks, ten years.  July 2015, updated Nov.2017.  要約 2022年11月22日閲覧

要約 地球の経済発展は、人の一生の質と数十億の人々の状態wellbeingとを改善した。しかし不平等は深まり、争いと治安insecurityが共通の関心になり、生態系が乱され、資源は枯渇し、温暖化ガスは高まっている。これらの傾向は、共同社会、環境、事業、そして長期的経済発展に有害detrimentalである。(しかし)もし単純な手段が持続可能な発展との協調にため取られるなら、このようである必要はない。
経済指導者のための10個の課題
政府 ①正しく物事を測定し正しい目標を設定する。政府は社会と環境の進 
    歩のため大胆な目標を設定でき、経済がいかにそれらを提供できる
    かを跡付ける新たな測定法を採用できる。
   ②より良い結果を支持する誘因をもたらす。政府は、環境的社会的目
    標を追求し、持続可能な事業モデルを支持するために、規制と財政
    政策を用いることができる。
   ③社会的に有用な革新を推進する。政府は、核となる維持可能性の目
    標に向かう革新のため、推進者や誘因を生み出すあらゆる機会を使
    うことができる。維持可能な事業を例示しそれらを可能とすべきで
    ある。
金融 ④資本が長期で活動することを保証すべきである。資本投資家は、彼
    らの受益者の利益のため、経済において長期的に社会的に役立つ価
    値の創造を推進するように、その影響力を用いて、貨幣からより多
    く求めることができる。
   ⑤事業活動の本当のコストに従い、資本の価格を付ける。資本の提供 
    者と彼らを規制する者は、共に資本コストに社会的環境的リスク要
    因がいかに反映するかを考察できる。
   ⑥金融構造を、維持可能事業に更によく使えるように革新する。金融
    仲介機関は、とくにその影響力と創造力とを、社会の利益に奉仕す
    る事業に資本の流れが増えるように使うことができる。 
事業 ⑦組織された目的、戦略、事業モデルで一致する(align)。商業的文
    脈の中で、地球が設けている自然の限界のなかで、人々の生活を改
    善するものとして、事業(の目的、戦略、事業モデル)を明確に立
    てる。
   ⑧証拠に基づいた目標、手段、透明性を用いる。事業は、証拠に基づ
    いて大胆な目標を設け、正しく物事を測り、進展を報告すること
    で、維持可能な将来に貢献できる。
   ⑨慣行や決定に維持可能性を随伴させる。事業は、その組織的な慣行
    や決定の作成にあたり、新たな思考方式を伴わせることができる。
   ⑩変化に参加し、協力し、推奨する。事業はその影響力を、共同社会
    に参加すること、そして維持可能な事業への人々と政府の意欲を高
    めるために行使できる。


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