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持続可能性金融の枠組み-リスクから機会への転換 Aug.2017

(解題)オランダのエラスムス大学で、2017年8月に電子出版された本書は、持続可能性金融(sustainable finance)の問題を、リスクとして環境問題を認識して、リスクを回避する第一段階。ステークホルダー主義を採用し、環境を考慮する第二段階。さらに持続可能社会を目指して積極的に投資する第三段階と三つの段階に分けて説明している。また金融の社会的役割として、資産の配分機能を重視している。こうした枠組みは魅力的であるが、第二段階から第三段階に移るところで、短期から長期へと、また利潤より社会や環境を重視する価値観の転換があるとするところに、むつかしさを感じる。価値観が変わるというのは実は大きな問題。しかも問題は、金融機関の投資がすべて第三段階に移るわけではないこと。異なる段階にある投資を併存するなか、それらを統一的に評価することが可能か。統一して評価するときに、何を基準に置くか。みんなが第三段階の価値観なら問題ないだろうが。現実は会計基準など企業や投資家を拘束するルールは、なお第二段階なのではないか。それでも持続可能性金融はワークする、つまり実現できるだろうか?社会全体の価値観そしてルールが変わらないと、つまり社会そのものが第三段階に入らないと、持続可能性金融を広げることはむつかしいのではないか?
 やや面白く感じたのは、四半期報告からの脱却、役員報酬のありかた、忠実株など、経営の短期主義を克服する手立てのところ。株主保護の観点からいえば、四半期報告の脱却は暴論にみえた。(福光)

Dirk Schoenmaker, From Risk to Opportunity: A Framework for Sustainable Finance, Rotterdam School of Management, Erasmus University, Aug.2017

要約 伝統的金融は金融的成果に焦点を合わせ、金融部門を社会とは別のものとみなしている。(実際は)金融部門は社会の一部であり、金融は環境と一体である。対称的に、持続可能性金融では、金融的報酬、社会的報酬、環境的報酬は、組み合わせられていると考える。我々は、狭量な株主モデルから、広いステークホルダーモデルへの移行に焦点を合わせつつ、維持可能性金融のための新たな枠組みを提供する。
 本書は、社会が直面している持続可能性への挑戦を説明することから始めている。環境(問題)の前線では、気候変動、陸地の減少、生物多様性の喪失、そして自然資源の枯渇が、地球システムを不安定化し、地球(に住む人々)の将来の生存可能性を脅かしている。加えて、貧困、飢饉、健康への配慮の欠如は、多くの人が、最小限の社会的標準以下(の生活)で過ごしている徴候である。持続可能な発展とは、現在と将来の世代が、彼らが必要とする食糧、水、健康への配慮、そしてエネルギーと言った資源を、地球システムに無理強いせずに持つべきだということである。持続可能で包摂的な経済に向けての変形を導くため、国連は持続可能な発展のための「2030年の課題2030 Agenda」を開発した。それは行動の変化を求めるものである。
    なぜ金融は持続可能な発展に貢献すべきなのか。金融制度の主たる役割は資金を最も生産的用途に配分することにある。金融は、持続可能な会社と事業とに投資を配分する上で主たる役割を演じられるし、かくして低炭素の循環経済への転換を加速できる。持続可能性金融は、いかに金融が、経済、社会そして環境に相互に作用するかを考える。配分において金融は、持続可能な目的間のトレードオフ(対立)において戦略的決定を支援する。加えて投資家は、自身が投資する会社に影響力を行使できる。長期投資家は、持続可能な慣行に向かうことを会社に指図できる。最後に金融は、価値目的のためのリスクの価格付けを得意にしており、そこで炭素排出の気候変動への衝撃といった環境問題固有の不確かさを取り扱うことを支援できる。金融と持続可能性とはともに将来を見ている。
 過去数十年以上、持続可能性金融に関する思考は様々な段階を経てきた(表1を見よ)。焦点は、短期の利益から長期の価値の創造に次第に移ってきている。本書はこれらの段階を分析し、持続可能性記入の新たな枠組みを提供している。金融そして非金融の会社は、伝統的には利潤の最大化を主たる目的とする株主モデルを採用している。持続可能性金融の最初の段階(表1における持続可能性金融1.0)は、金融機関が健康に大変良くない影響があるもの(例 タバコ)、国際関係あるいは環境や野生の自然世界にとても有害な影響があるもの(例 クラスター爆弾、クジラの狩猟)に関わる会社への投資を避けることである。幾つかの会社は、環境への考慮をステークホルダーモデルに含めることを始めている(持続可能性金融2.0)。我々は株主モデルとステークホルダーモデルとの間の緊張を強調したい。政策決定者は、株主志向の会社がステークホルダー志向の会社を買収することを許すべきだろうか。あるいは、持続可能性でより前進している会社を保護すべきだろうか。
 もう一つの発展のカギは、リスクから機会への移動である。金融企業は、リスクの観点から、持続可能でない会社を(投資あるいは融資から)避けることから始めた(持続可能性金融1.0と2.0)。先端を走る企業は、今ではますます多く(の資金)を、持続可能な会社や、より広汎な地域社会にとり価値を生み出す事業に、投資している(持続可能性金融3.0)

表1 持続可能性金融の枠組み
タイプ       作られる価値  要素間の順位   視野
持続可能性金融1.0  株主価値    F > S and E   短期
持続可能性金融2.0  ステークホルダー価値    T = F + S + E   中期
持続可能性金融3.0  共通善価値   S and E > F   長期
F=金融価値 S=社会インパクト  E=環境インパクト T=全体価値

 本書はまた、短期主義や集団として活動できないなど、持続可能性金融を採用を阻害するものを注視している。短期主義に対抗する可能な解決(策)には、長期志向の報告の構造(四半期報告からの脱却)、役員への支払い構造(前払い報酬、不正があった時の返済を定めたクローバック規定)、投資成果の視野(四半期ごとの基準からの脱却)、そして長期投資家へのインセンティブ(例 忠実株loyalty shares:訳注 長期保有されている株を忠実株として追加の議決権を与えるなどの優遇措置を取ることを指している)。長期投資家のための忠実株(制度)は、投資後保有戦略に対するだけのインセンティブではない。それは投資している会社に(長期的に)加わることengagementへの報酬でもある。こうすることで、会社役員と投資家の視野は次第に一致して長期に焦点を合わせるようになりうる。
 企業の努力の不足に対して、政府は市民の集計された長期的、社会的、環境的な選好を、適切な規制や税制に翻案すべきである(例 有効なカーボン税)。金融はこのような政策が間もなく起きることを予測し、投資決定のための今日の価値決定に予測値を統合するものである。
 (以下略)


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