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民主主義の不可欠性:中国とロシア 2022/04/12

 民主主義とここで言うのは、言論・出版の自由、少数意見の尊重のもとでの多数決主義といった内容を指す。少数意見の尊重には、少数意見であっても党派を結成して自説を普及することを妨げられない、つまり少数党派の政治活動の自由の保証も含んでいる。ロシアや中国が、民主主義でないとされるのは、言論・出版の自由、少数意見の尊重、少数党派の保護が不徹底だからである。選挙制度で直接選挙であるか、立候補の自由が確保されているか、投票が無記名で本人の意思で公正に行われているかなども問題として指摘される。現在、ロシアではプ-チンが、中国では習近平が、それぞれ異例の長期政権となっているが、それが少数党派の政治活動の自由を認めた民主主義的な選挙を経た結果なのかが問われている。
 では民主主義の徹底はなぜ必要か。
 経済の面からも民主主義の徹底は必要だとされることがある。その理由は、技術革新を妨げるからだと指摘される。その例証として中国が引き合いにだされる。超大国になりつつある中国について、中国が民主主義において徹底していないゆえに、技術革新で遅れを取ることになるという仮説がある。―しかし本当にそういえるのか。経済活動と民主主義との関係については、まだ少し考える必要がある。
 たとえば、技術的に正しい方向に一挙に行くには、中国の集権型システムにも効率的な面はある。たとえば、環境問題で、再生可能エネルギーの利用を中国は極めて大規模に進めている(脱炭素を目指す中国 Reuters, 2021.5.23)。目に見えるものとして、中国を侮れない証拠の一つに科学技術論文の量と質の高さがある。科学技術・学術政策研究所が作成している昨年2021年の科学技術指標によれば、中国の順位は論文数で米国に次ぎ世界2位(日本は4位)、引用の多寡を考慮した論文数で世界1位(日本は10位)である。中国の科学技術の水準を侮るべきではないし、中国が技術革新で世界をリードする可能性は十分にある。
 cf. 今年(2021年)の科学技術指標 Science Portal News 2021.8.17 
 なおロシアは技術系人材の育成では、優れている。ただし就労環境に課題があり、こうした人材の海外流出に悩んでいるとされる。
 cf. 技術系人材が輩出するロシア Jetro 2020.12.4

 経済の面と民主主義との関係の議論(経済活動にとって民主主義の徹底は不可欠といった議論)は、正直に言えば、経済から政治が距離を取る限り、根拠付けは不十分に見える。では民主主義が不徹底である中国の弱点は何だといえるだろうか?今中国で、コロナ対策での失敗の修正が問題になっている。中国はゼロコロナを目指して、都市封鎖など経済活動にもかかわる強権的な政策をすすめてきた。この政策にはかつて、「さすがに中国だ」「中国だから実現できる」と羨望の声さえあった。ところがオミクロン株にウイルスが置き換わって以降は、withコロナに政策転換できないことを「失敗」と指摘する声が増えている。つまり集権型システムの問題は、政治のトップが判断を間違えたときの「失敗」の修正にあるのではないか。問題点や批判を押し殺す体制は「失敗」の修正を遅らせるのではないか?
 ロシアによるウクライナ侵攻については、侵攻を実行する前に、実行した場合の問題が正確に分析されていなかったことが、そもそも問題だと指摘されている。ウクライナ侵攻で得られる利益、不利益を冷静に分析することが行われていなかったので、プーチンは開戦したのではないか。たとえば軍事的に初戦で勝利できなかったのは、ウクライナ側の戦闘力を過少評価していたことによる。またウクライナ侵攻により、さらに残虐行為により、ウクライナの人々のロシアを離反する気持ちは強まり、ウクライナの人々の独立意識は却って高まった。この結果は、プーチンの誤算の最大のものだろう。
    民主主義というのは、政策決定者に、少数者の意見を封じないことで政策決定者は批判にさらされ、半面、為政者にとっても政策の問題をすみやかに発見しやすいシステムでもある。徹底した民主主義でないことが、中国とロシアという二つの国の将来を閉ざしているというのは、主として政治の意思決定における失敗の修正の遅れとして現れるものだと考える。中国について、それはゼロコロナ政策の失敗として、ロシアについてそれは、ウクライナ侵攻の失敗として、今表面化しているのではないか。

    見出しは「井の頭公園」の「井の頭池」。以下は井の頭池のたもとでみつけた「山吹」。

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