「グランメゾン東京」に学ぶ、経営におけるアートの役割とチーム論

はじめまして。カナダでラーメン屋の経営・コンサルティングをしているヒロシです。

なにか新しいことを始めてみようと思い、はじめてnoteを書いています。
今日は、人気ドラマ「グランメゾン東京」を経営、とりわけアートの重要性とチーム論という視点から読み解き、グランメゾン東京がどのようにミシュランの三ッ星を取るに至ったか、という事を書いてみたいと思います。

「グランメゾン東京」とは

すでにご存知の方も多いと思いますが、TBS「日曜劇場」で昨年の10月から12月に放送された、木村拓哉さん主演のテレビドラマです。
キムタク扮する一流フレンチシェフの尾花夏樹が、グランメゾン東京というフレンチレストランに、ミシュランの三ッ星を取らせるべくスーシェフとして奮闘する、という内容となっています。

最終回の平均視聴率が16.4%とかなり人気のドラマだったようで、僕も普段はテレビを見ないんですが、これは久々にハマりました。
というのも、自分も飲食店を経営しているので、「わかるなぁ。」と感情移入してしまったというのもありますが、実はこのドラマ、経営という視点から見るとまた違った楽しみ方が出来ることに気が付いたからなんです。

という事で、ネタバレもありますが、ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。

経営とは「アート」と「サイエンス」と「クラフト」が混ざり合ったもの

まず前提として、ヘンリー・ミンツバーグという経営学者が提唱した、経営の概念を押さえておく必要がありますが、彼の主張によると、経営とは「アート」と「サイエンス」と「クラフト」が混ざり合ったもの、と言えます。
そしてこのミンツバーグさん、MBAを否定してこれからは「アート」が経営を牽引していくのだ、という少し過激な主張を展開しています。近年、話題になりました、「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」(著:山口周)という本も、この主張を土台としていて、非常にわかりやすく解説されているので、少し長いですが引用します。

「アート」は組織の創造性を後押しし、社会の展望を直感し、ステークホルダーをワクワクさせるようなビジョンを生み出します。「サイエンス」は、体系的な分析や評価を通じて、「アート」が生み出した予想やビジョンに、現実的な裏付けを与えます。そして「クラフト」は地に足のついた経験や知識を元に、「アート」が生み出したビジョンを現実化するための実行力を生み出していきます。(中略)
「アート型」だけでは、盲目的なナルシストに陥り、アートのためのアートを追求する、つまり本物のアーティストになってしまいます。「クラフト型」だけでは、経験に根差したことだけを認め、新しいことにはチャレンジしないため、イノベーションは停滞するでしょう。そして「サイエンス型」だけでは、数値で証明できない取り組みは全て却下されてしまうため、ビジネスから人間味が失われ、ワクワクするようなビジョンは生まれないでしょう。つまり、この三つの要素は、バランスよく、かつ機能的に組み合わせられていなければならない、ということです。

もう少し砕けた言い方でタイプ別にまとめてみましょう。

「アート」の役割
こんなものがあったらいいな、というモノやサービスを作ろう!と、強烈なビジョンを打ち立てたり、ゴールを設定したりして、ワクワクを伝播させ、周りを巻き込んで新しい未来を思い描く人。たった一人になっても、諦めずに困難に立ち向かうリーダータイプ

「クラフト」の役割
知識や経験則に従って、「アート」が打ち立てたゴールにどうやったら到達できるかを現実的に考え、模索し、実行する人。大胆な発想やイノベーションよりも、手堅く無難に、コツコツと物事を前進させる現場の職人タイプ

「サイエンス」の役割
「アート」が打ち立て、「クラフト」が形にしたモノやサービスが、どれほどのニーズがあるかや、どれくらいで収益可かするかなどを、データを元に予測、判断するアナリストや、ニーズを元に戦略を立てるマーケタータイプ

となります。

そして一連の主張は、サイエンス寄りのファクトベースマーケティングによってないがしろにされがちなアート感覚こそが、経営において非常に大事なのである、という結論に集約されていくのですが、このあたりの話は、先ほど引用した山口周さんの著作に詳しく書いてありますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。

それでは、「グランメゾン東京」の登場人物が、どういったタイプのプライヤーなのかを見ていきますが、ミンツバーグの主張の重要なポイントを、もう一つだけ押さえておきます。

それは、経営とは「アート」と「サイエンス」と「クラフト」が混ざり合ったもの、という表現からもわかるように、チームの中での個人の役割が、この3つのどれかに明確に固定されるわけではなく、流動的であるということです。これは、個人の中にあるアート、サイエンス、クラフトの資質も同様です。
どういうことかと言うと、まず個人の中にアート、サイエンス、クラフトの要素が混在していて、それが変化したりすることがあるということ。そして個人が所属するチームがどういったタイプのプレイヤーで構成されているかで、個人の役割が変わったりもする、ということです。

そしてこのポイントこそが後々、物語をおもしろい方向に転がしていきます。

グランメゾン東京のプレイヤーの役割

まず前提として、このドラマに出てくる料理人は、皆が一様に一流の料理人です。ということは、すでにみんながある程度、職人としてクラフトの要素を持ち合わせています。そのうえで、実はグランメゾン東京のチームはサイエンスに大きく偏っています。

実際に主要な登場人物の一人一人の特徴を見ていきましょう。

早見倫子(鈴木京香)
グランメゾン東京のオーナーシェフ。食べるとその料理の素材と調理工程がわかる「絶対味覚」という類まれなる能力の持ち主。後述する相沢を引き抜くために時短勤務を提案したり、普段から従業員の厳しい労務環境を嘆いたり、さらに経理などのオーナー業もこなす。

絶対味覚の性質と、ビジネスオーナー業 → サイエンス型

京野陸太郎(沢村一樹)
かつての尾花の先輩シェフ。尾花の料理の才能を目の当たりにして己のシェフとしての限界を感じ、ギャルソン(給仕)に転向。グランメゾン東京オープンに向けて金策に走ったり、事業計画を立てたり、施工業者や食品卸業者の対応まで幅広く業務を抱えている。予約の管理や、従業員との契約書を作成したり、倫子のサポート役として経理・総務も担っている。

経理やデータ管理 → サイエンス型

相沢瓶人(及川光博)
かつて尾花や京野と同じレストランで働いていたが、SNSを駆使したWeb料理研究家に転向し、ウェブレシピの貴公子と呼ばれるほどの人気を博す。高級食材は消費者から敬遠されるため、ありふれた日本の食材を取り入れるなど、マーケターとしての感覚も優れている。期間限定でグランメゾン東京の立ち上げに関わる予定だったが、そのままグランメゾンで働くことになる。

Web料理研究家としての性質、優れたマーケター感覚 → サイエンス型

後述する尾花夏樹と平子祥平を抜いて、上述した3人がサイエンスに偏っているのがお分かりいただけたでしょうか。

それでは尾花と平子についても見ていきましょう。

尾花夏樹(木村拓哉)
料理に関しては誰よりも強いこだわりを持ち、どんな犠牲もいとわない型破りな天才シェフ。人間的に欠ける部分もあるが、誰よりもミシュランの三ッ星に執着するグランメゾン東京のスーシェフ。「難しいから面白いんだろ?」と周囲の反対を押し切ってマグロ料理に挑む。

三ッ星への執念、マグロ料理のチャレンジ → アート型

平子祥平(玉森裕太)
かつて尾花の見習いとして働いていた。仕事が早く、「彼がいると厨房が安定する」と評されている。余った食材を使ったまかないは「ケチケチ料理」と揶揄される。ビュッフェレストランの最年少の料理長から、グランメゾン東京のライバル店「gaku」のスーシェフに抜擢され、物語の最後にグランメゾン東京のスーシェフとなる。

厨房の安定化、食材ロスの低減 → クラフト型

さて、主要人物の特徴を見てきて、グランメゾン東京がサイエンスに偏ったチームであるということがお分かりいただけたかと思います。

そしてこのドラマは、キムタク扮する尾花が圧倒的な行動力でチームを固め、ワクワク感や熱量でグランメゾン東京を潰そうとするフードライターのリンダ(冨永愛)の心に訴えたりして、物語が展開していきます。つまり尾花なしでは物語が進行しないと言っても過言ではないほど、「アート」の要素は経営において重要な役割を持ちます。それでは「アート」が欠けたチームはどうなってしまうのか、という点について、今度はライバル店「gaku」を例にとって見てみましょう。

ライバル店「gaku」のチームの変遷に見る「アート」の重要性

グランメゾン東京を目の敵にして三ッ星を狙う「gaku」もまた、アートとサイエンスとクラフトのバランスの上に成り立っています。

まず、複数の飲食店を展開するオーナーの江藤(手塚とおる)は、金にモノを言わせたり、汚い手を使ったりしてグランメゾン東京にいちいち邪魔をしてくる、バリバリのサイエンス型のオーナー。そしてそれを良く思わないのが、かつて尾花や京野とともにシェフとしての修業を積んでいたアート型のシェフ丹後(尾上菊之助)。脇を固めるのが、先述したスーシェフの平子という構図です。

しかしgakuではオーナーの江藤、つまりサイエンスの暴走により、アートを担う丹後を追い出してしまいます。平子はグランメゾン東京に行ってしまい、新たに雇い入れたシェフ、スーシェフに騙され、江藤は全てを失ってしまうのです。
アートを欠いたgakuは一度は没落しますが、義理堅いシェフ丹後は、江藤のもとに戻り、もう一度gakuを立て直そうと申し出、かつてのスーシェフ柿谷も戻り、柿谷はクラフトとして機能し始めます。
江藤は丹後に触発され、それまでの行いを恥じ、金ではなく熱意で人を動かすようになり、アート、サイエンス、クラフトがバランスよく回り始め、再びグランメゾン東京を脅かす存在となるのです。

このようにして、サイエンスがアートに寄り添い、物事の判断軸として損得や論理的なメソッドを用いるのではなく、真偽、善悪、美醜といった判断軸を持ち、感覚的に真・善・美を追い求めることが、ビジネスにおけるアートの役割の神髄と言えるのです。

なぜグランメゾン東京はミシュランの三ッ星を取れたのか?

それでは、バランスの取れた宿敵gakuを押さえ、サイエンスに偏ったグランメゾン東京がミシュランの三ッ星を取った要因はどこにあるのでしょうか。

ミシュランの選考が始まる直前、尾花はアート全開で、全員の反対を押し切って、マグロ料理に挑むために、自分の代わりに引き抜いたばかりのクラフトの平子をスーシェフに昇格させます。
さらに、サイエンスのオーナーシェフ倫子に対して、「そんなに心配なら自分でマグロに代わる魚料理をスタンバイさせとけ」と焚きつけます。それで火が付いて覚悟を決めた倫子は、全員が納得する魚料理を、尾花のマグロ料理よりも先に完成させます。しかし、尾花だけは何も言わずに、再びマグロ料理に打ち込みます。これまで二ッ星止まりだった尾花には、「フレンチの禁断の食材でマグロを出せば三ツ星の壁は破れる」という算段があったのです。

しかし、尾花の「三ッ星を取るためにはマグロ料理を出さなければいけない」という主張は、アートの発想というよりは、目的と手段が逆転してしまった誤ったサイエンスの発想に陥った致命的な判断と言えます。

結果的に尾花は、皆が納得するマグロ料理を完成させるのですが、選考直前で、倫子は「自分の魚料理でいく」という決断を下し、尾花は怒ってグランメゾン東京を辞めてしまいます。倫子の決断の理由が、「こっちの方が美味しいと思ったから」という感覚に身をゆだねた判断である事も、重要なポイントです。

そしてミシュラン三ッ星の発表会場にて、すべては尾花の思惑通りだった事が明らかとなり、グランメゾン東京はミシュラン三ッ星という快挙を手にするのです。

倫子は発表会場のステージ上で、「情熱をもって向き合う、最後まで諦めない、自分を信じる」という言葉に続いて、料理は「政治家のように世の中を変える力を秘めています。芸術家やアーティストのように感動を生み出すことだって出来るし、医者や弁護士のように人を救うことだって出来る」と語ります。サイエンスに偏った倫子でしたが、これはもう明らかに立派なアーティストのステートメントです。

もうお分かりですね。サイエンスに偏ったグランメゾン東京でしたが、アートを担っていた尾花が抜けて、そこに倫子がサイエンスからアートに転向して尾花の穴を埋めて、尾花によって据えられたクラフトの平子と、サイエンスの相沢が両脇を固め、グランメゾン東京の厨房はバランスの取れたチームとなり、サイエンスの京野がギャルソンとしてチームをサポートするという完璧な布陣が出来上がっていたのです。

ドラマ「グランメゾン東京」から学べること

さて、ここまで「グランメゾン東京」を通して、アートの役割と、チームのバランスの重要性を見てきましたが、僕たちはこの物語からどんなことを学べるのでしょうか。そのカギは、ミンツバーグの主張の重要なポイント、個人の中のアート、クラフト、サイエンスの要素は変化しうるし、チームの編成によって、個人の役割は変化しうる、という点にあります。

実際のビジネスにおいて、プロジェクトごとにチームを招集する場合など、その構成員のタイプを見極めて、その時々で上手に立ち回れるオールラウンダーの人なんかがいますが、要はそういうことで、もっと言うと、意識的にどの役割を担うかを自分で決めることで、かなり恣意的にこの資質をコントロールすることが出来ると僕は思っています。
つまり、チームの編成を良く見極め、そのチームに偏りがないか、足りない部分はどこかという事をまずは把握し、自分が足りない役割を担うと決めるだけで、あなたはそのチームに好循環をもたらすキーマンになれる可能性があるのです。

またこのドラマは、キムタク扮する尾花がプロジェクトリーダーとして、チームの目標達成までの成長戦略をデザインしていく物語、とまとめる事が出来ます。もしあなたが経営やマネージメントの立場にいるのなら、チームの要員の役割をよく見極め、偏りがあった場合には、それぞれに正しい役割を割り振って、バランスの取れたチームを作り、成長戦略を立てていく、ということも出来るかもしれませんね。

終わりに

長文にも関わらず、ここまで読んでくれた方々、(そんな人いるのかな。汗)、本当にありがとうございました。
はじめてnoteでしたが、いやー思ったよりも大変でした。でも、書いていて思考の整理になったのがすごく良かったですし、何より楽しかったです。もしこれを参考にしていただいて、誰かの役に立てるなら、それはもう本当に感無量です。

これからも出来るだけ、ビジネスの事、マネージメントや経営の事、趣味の音楽や子育ての事なんかも書いていければと思っています。
あ、カナダの事や海外生活の事なんかも書ければいいな。

それではまたお会いしましょう~

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