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売ろうと思わない。売りたい相手を徹底的に理解する―自著を13000部手売りした売れっ子ライターに学ぶ営業の秘訣

はじめに

どんな職種であれ、仕事ができるといわれている人には優れた営業スキルがある。それは誰かの課題を見つけ、それを深く理解し、その課題解決にふさわしい提案をし、最終的にその提案をお金に換えることのできる能力だ。そこで今回は「女の運命は髪で変わる」「書く仕事がしたい」などの著書で知られるライターの佐藤友美さん(以下、さとゆみさん)に、「売るための営業術」というテーマで話を聞いた。

これまで手掛けた61冊のうち約半数は自身の持ち込み企画

さとゆみさんはテレビ制作会社勤務から文筆業に転向したのち、20年以上もの間ライターとしての仕事を続けてきた。現在では、エッセイやコラムの執筆、メディア出演や講演、セミナー主宰などにも活躍の場を広げている。また、ビジネス書や実用書の著者にインタビューをして聞き書きをする書籍ライターとして、年間10冊前後の書籍を担当。これまで手掛けた61冊の書籍のジャンルは、美容系、ビジネス系、教育系と多岐にわたる。
一般にライターの仕事と聞くと、受注を待つだけの受け身の仕事というイメージを持つ人も少なくないだろう。しかし、さとゆみさんの仕事の仕方は全く異なる。これまで本になった61冊のうち、実に29冊が自身による持ち込み企画なのだ。
「出版社に企画を売り込む時には、私は必ずその出版社に合った著者さん2人分の企画書を2パターン、つまり合計4パターン用意します。そして、アポをとった担当者の方と『最近どうですか?』『今どんな本を作っているんですか?』といった雑談をしながら、どこにどんなニーズがあるかを探ります」。

話すより聞く。聞いて情報を集める

 まず雑談をしながらクライアントのニーズを探る。その上で準備した4パターンの企画から合いそうなものを選び、内容を口頭で伝える。企画書は見せないことも多いという。反応がよければ企画書は見せずに持ち帰り、後日、相手の希望に沿う形にブラッシュアップしたものを送る。だから話すより聞くことが重要。聞いて情報を集め、相手の本質的な課題をとことん考える。「売り込む」ということは、実はよどみなく話すのとは真逆の行為なのだ。話さなければならない場面でも長く話す必要はない。実際、さとゆみさんの場合、エレベーターの中での数十秒のトークで企画が決まるということも少なくないそうだ。

自著を13000部手売り

一方で、売ろうとしているものを好きになることも重要とさとゆみさんは言う。
「私は自分が本当に良いと思っているものを売るのはすごく上手いです。自分の「女の運命は髪で変わる」を13000部手売りしたんですよ。出版社の人に『政治家さんでもそんなに売った人いないですよ』と言われました(笑)」。
「女の運命は髪で変わる」は日本初のヘアライターとしての実績から生まれた、さとゆみさんのヒット作だ。日本で初めて女性の髪の大切さを語ったエッセイとして話題となった。この本を13000部も手売りした時のルートは自身の講演活動だった。たとえば美容院の経営者30名のセミナーでは、講演後に300冊を売り切った。
「別に売ろうと思って売ってはいない。もちろん売りたいという気持ちはあります。でもそれよりもむしろ、講演を聞きに来てくれた人は絶対読んだほうがいいと思っている。だから、買っていただいた時は『この本を手に入れて本当に得しましたね!』という気持ちになります。逆に、買わない場合には『え、なんで買わないの?もったいない!』とガチで思います(笑)」。

売れるためには「腹落ち」が大事

本当に良いと信じているものであれば、顧客が買うべきだと素直に思うことができる。結果、自分の言葉に説得力が増し、売ろうとしなくても売れる。しかし、普通の企業の営業職の場合、必ずしも自分が納得していない商品やサービスを売らなくてはならない場面も多いのではないだろうか。
「もし自分が納得していない商品を売らなければならなくなったら、私ならその商品を良いと感じているお客様に取材して、できるだけ多くの情報を集めますね。自分が納得していなくても、その商品を支持している人たちの思いを代弁することはできると思うから」。
売るべき商品やサービスを自分がどう思っているかは別として、「腹落ちすること」が重要だとさとゆみさんは言う。そのためには商品の良さをとことん理解する。だから徹底的な取材が不可欠なのだ。

営業力は課題発見能力だと耳にするようになって久しい。だが、実際には多くの人が自社の商品やサービスについて、納得する以前に、知識を身に着けることを優先してしまう。そして、その知識を余すところなく顧客の前で披露したくなってしまう。まずは顧客を見ること。耳を傾けること。本質的な課題は何かを考えること。そして商品の良さを腹落ちするまで理解すること。これが営業職で成功するための秘訣といえるだろう。

【佐藤友美(さとうゆみ)プロフィール】
テレビ制作会社勤務を経て、ライターに転向。ビジネス書から実用書、自己啓発書からノンフィクションまで、幅広いジャンルの著者の書籍を執筆。「1本仕事が終われば、2本企画を置いてくる」というアグレッシブさで、これまで数多くの持ち込み企画を出版化。ライター希望者のための講座では、書く以外に必要な企画提案のノウハウも惜しみなく伝授し、人気を博している。

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実はこれ、第一期の「さとゆみビジネスライティングゼミ」の課題として取り組んだインタビュー記事です。読み返すともう少し突っ込んで話を聞くべきだったとか、ばっさり削ってしまった部分もうまく料理できたんじゃないかとか、反省点が多々あります。半年後ぐらいにまた読み返してみたいと思います。どうしてこのゼミに参加しようと思ったのか。それについては、さとゆみさんとの以下の対談記事でもお話させていただきました。


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