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【緊急対談】映画『ジョーカー』大ヒット記念「最高にハッピーで、最高にサッド」


『ジョーカー』大ヒット記念ということで、本日はN○Kのスタジオ○ークに、映画評論家の宇田川ケンさんにお越しいただきました。軽いネタバレがございますので、十分ご注意ください。


--宇田川さん、こんにちは。

「こんにちは。ふぐ、えぐ、ふぐっ」

--いきなり泣きながら笑っているようですが、大丈夫でしょうか?

「ごめんなさい、緊張すると笑ってしまう体質でして。ノック、ノック。もう大丈夫です」

--ではあらためまして、ジョーカーとは、どんな映画なのでしょうか?

「良識派には受け入れられない映画というものがあります。反社会的な映画ですね。古くは『時計じかけのオレンジ』とか、ちょっと前なら『トレイン・スポッティング』を上げてもいい。そして、今回の『ジョーカー』だ。私は『ジョーカー』を見て、涙が流れた。かんたんに言ってしまえば、社会的弱者がテロリストになる話だ。常識人には受け入れがたいストーリ。地上波では放送できないだろう。そもそもR15+だしね。CMも流れないから、本来この映画を見てほしい層には届かないかもしれない」

--本来、見てほしい層というのは?

「ジョーカーと真逆の世界にいる人たちだ。たとえば、生まれたときからそこそこ裕福で、家庭環境も悪くなく、大したいじめにもあわず、大学に入り、企業に入り、少なくない額の年収をもらい、結婚し、子供を授かっている人たちだ。流行りの言葉で言えば、よくマウンティングしてくる人たち、社会の上層部にいる人たち、つまりカースト上位の人たち。そういった人たちは、たとえこの映画を見ても、なんだか怖いホラー映画ぐらいの感想しか持たないだろう」

--ジョーカーは上映前から物議を醸していました。

ジョーカーに感化されてテロが増える、と欧米社会は懸念している。覆面をかぶって映画を見ることを禁じたり、警備体制を強化したり、アメリカの映画館は特に警戒しているらしい。残念だけど、この映画を見て呼応する人たちはいるだろうし、テロは起こるかもしれない。トランプ大統領のいるアメリカを想起する人も少なくないだろう。でも映画の最後で、トッド・フィリップス監督は、テロを防止するためにあるシーンを、余計と思われるシーンをあえて入れている」

--どんなシーンなのでしょうか?

すべてをおとぎ話にするシーンだ。今まであったことを、茶化して、冗談だと思わせる、現実世界に引き戻させるシーン。トムとジェリーみたいな馬鹿げたドタバタを挿入して、一番最後にTHE・ENDを入れた。あれは、推測するに、この映画を危険だと判断した映画会社の上層部が、挿入を指示したんだろう。それまでの流れとはまったく真逆の、まったく必要のないシーンだからだ。ジョーカーが誕生するシーンで終わっていたら……みんなジョーカーになって映画館を出てしまうからだ」

--あの、最後のジョーカー誕生のシーンは、鳥肌が立ちました。

わけのわからない涙が流れる、映画史上、とても、とても美しいシーンだよ。あのシーンで終わっていたら、とんでもない映画になった。とても、とても危険な映画になった。だから、余計なシーンをあえて追加して、見た人全員を強制的に現実に引き戻した。そのうちディレクターズカット版が出たら、違うラストが見れるかもしれないね。それこそ、どうしようもなく危険で、美しいラストだ」

--暗いシーンが多いのに、美しいという印象を持ちました。

「全体を通して、画面は夜と雨がメインで、照明が暗くて、陰鬱な場面が多いのに、なぜか、ジョーカーはいつも美しい。一級のオペラを見ているような感動がある。彼は素晴らしいダンサーだ。2時間をほぼ一人の俳優で魅せている。こんなすごい映画はない。10年で、いや20年で1本の傑作だよ。ホアキン・フェニックスは最高の俳優だ。もしアカデミー主演男優賞を彼に与えないのなら、ハリウッドもそこまでだってことだ」

--ホアキン・フェニックスは、あのリバー・フェニックスの弟だそうですね。

「ああ、『スタンド・バイ・ミー』で有名になった彼の弟だ。スタンド・バイ・ミーって言っても、ドラえもんじゃなくて、スティーブン・キングの方ね。原作も面白いからおすすめ。分厚いけど。リバー・フェニックスは若い人は知らないだろうけど、超絶色気のある俳優でね、でも23歳でヘロインとコカインのダブル摂取で夭折している。そのリバー・フェニックスが、幼い弟に向かって言ったらしい」

--なんて言ったのでしょうか?

おまえは俺よりも有名な俳優になる、と。弟はまだ俳優ですらなかった。単なる子供だった。そんな弟に対して、スタンド・バイ・ミーで一躍有名になったリバー・フェニックスが言ったんだ。おまえは俺よりも有名になる、と。事実、あれから数十年たって、ホアキン・フェニックスは、当代随一の名優になった。誰も彼の代わりはできない。ディカプリオもブラット・ピットもトム・クルーズもジョニー・デップも。彼の演じたジョーカーは公開初日でもはや伝説になった。20年で、いや30年で1本のとんでもない映画だ」

--『ジョーカー』とはつまり、どんな映画なのでしょうか?

最高の闇、最高の光、を同時に併せ持つ映画だ。最高に汚くて、最高に綺麗な映画だ。最高にハッピーで、最高にサッドな映画だ。主演のホアキンの演技がまさにそう。ジョーカーは笑いながら、ずっと泣いている

--宇田川さん。そろそろ時間となりました。最後に、ひとこと。

しのごの言わず全員見てほしい。暴力シーンが嫌ならそこだけ目を背けて見てほしい。背けられない現実が、社会が見て見ぬ振りしてきた現実が、そこにはある。話足りないので、ホアキンさんがアカデミー賞取ったら3万字評論を書きます!」

--本日のゲストは宇田川ケンさんでした。宇田川さん、ありがとうございました。最後に銃とか出さないでくださいね。

「ドキッ! ふぐ、えぐ、ふぐっ!」



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