「学問とお金を仲直りさせる」計算式/大学院生と中高年のファンを結ぶ
佐藤ひろおです。会社を休んで早稲田の大学院生をしています。
三国志の研究を学んでいます。
note経由で声をかけあい、あおたまさんとzoomで雑談しました。
・似たような本を読んでいる
・休職中である(あちらは産休・育休)
・あと1週間で復職する
という境遇の共通点があって、しゃべってみたいと思いました。
こんな記事を書いている方です。
質問されたのが、ぼくが、「学問とお金を仲直りさせたい」と言っているけれど、それって何??というクリティカルな問題。
正規雇用と研究予算は市場が悪い
大学院に進学するひとは、経済的に苦戦しがちです。学問を志すひとが、経済的な問題を解決するときに、
・大学教員として正規雇用される
・文部科学省などから研究費を獲得する
は、「できたらベスト」だけど、競争が激しすぎる。現に、この2つの道は大学院生や卒業生の全員が目指しているけれど、お金が行き渡っているとは言えない。
たとえば、人口500人の町の全員が丸坊主なのに、町のなかに美容室が100店舗あるような状態。過当競争です。
ぼくは政治家や官僚、大学経営者ではない。「正規雇用のポストを増やすべきだ」「研究予算を増やすべきだ」といった大きな対策を唱えても、それは妄言です。
ぼくが思うに、学問をするひとがお金を得る方法は、
自分が学問で得た知見を「お金を払ってでも聞きたい」というひとに伝えることだ、と思います。めちゃくちゃ当たり前ですけど、これを踏み外すと、意味が分からなくなります。
キーワードは、「単価*数量」だと思ってます。
順番に書いていくので、聞いて下さい。
大学の非常勤講師では新卒に満たない
ざっとGoogle検索すると、大学の非常勤講師は、1コマ(90分や100分)の授業をすると、1万円がもらえるそうです。
(直接、見聞きした情報をここには反映しません)
1週間に5コマを担当したら、わりと「準備が大変」で「さまざまな大学や学部を飛び回っている」感じになりますが、単価1万円*5コマ*15週間*前・後期=150万円です。年収150万円……。カラい。
1週間に10コマを担当するのは、限界を突破しているし、そこまでコマ数を持っている先生の話を聞いたことがないが、それでも年収300万円。20代ならまだしも、40代・50代になっても、新卒の給与に届きません。
そもそも、大学の非常勤のコマを担当できるか否かは、当人の実力に加えて、それこそ、天の時・地の利・人の和が必要です。世が世ならば、天下統一できるような素質と幸運をすべて兼ね備えても、年収が150万円とか200万円です。
制度全体を論じる準備はありませんが、これでは、「学問とお金は、きわめて仲が悪い」と言わざるを得ません。
youtuberとして食っていく方法
現代において、「私の話を聞いて下さい」というとき、youtubeは、便利な道具です。月収30万円が欲しいとしましょう。
30万円*12ヶ月=年収360万円。ようやく新卒の給与に並びます。
youtubeの動画を1回再生してもらい、広告収入の単価が0.4円とします。単価は、動画の分野、広告主の種類、時期、契約内容によって変動するようですが、「桁数は間違っていない」数字で仮置きします。
※フェルミ推定では「桁数が正しい」ならば、許される。
1ヶ月に30万円ほしかったら、30万円/0.4円/回=75万回
1週間に2本、動画を出すとしたら、月に出せる動画は8本。これ以上、多くの動画を出すと、品質が落ちるだろう。疲弊する。あまり大量に動画を投下したところで、視聴者がすべてを見終わることができないから、月に8本が限度でよいでしょう。
8本の動画で75万回再生を目指すのだから、1動画あたり10万回再生。
チャンネル登録者10万人超え(いわゆる「銀の盾」保持者)では、これは難しい。肌感覚としては、チャンネル登録者が20万人~30万人の強者になって、1動画あたり10万回再生を安定的に目指せる。
「銀の盾」の2倍の視聴者を継続的に獲得して、ようやく月収30万円が見えてくる(かも知れない。知らない)。かなり無理。
数量を絞って単価を上げていく
月収30万円を目指し、20万人から気に入ってもらうには、「広く浅く、聞きやすい」を目指す必要がある。これは、コンテンツの劣化、発信者の退廃・手抜きではなくて、市場の摂理です。
「万人受け」するものは、エンタメ要素が強い。
かつ、見やすいように、手の込んだ編集が必要だ。
せっかく学問で身につけた尖った知見があるのに、20万人に受け入れられるように、気安い内容にまで抽象化し、編集によって見やすいように加工するのは、学者となじまない(と思う)。
その証拠と言ってよいのか分からないが、学問系を思わせるyoutubeの成功者は、多くの場合、学者じゃない。教養のある事業家や経営者、いまでは学問の世界から足を洗った卒業生、予備校の先生、プレゼン強者など。
ぼくの感覚として、「内容を薄めるならば、わざわざ自分がやりたくない」という意固地なところが研究者にはあると思われる。既存の世間のコンテンツでは満足できず、自分で研究をしようと思ったぐらいなので。
20万人に気安く愛される動画を、月に8本、継続的に出すのは、現実的ではない。※例外的にできるひとは、もちろんいるだろうが。
とりあえず、「月に8つのネタをしゃべる」という前提を据え置きで(専門で研究しているならば、それぐらいはネタがあるとする)、単価*数量を変更していったら、どうでしょうか。
・0.4円で20万人に聞いてもらえる発信
・4円で2万人に聞いてもらえる発信
・40円で2千人に聞いてもらえる発信
・400円で200人に聞いてもらえる発信
・4000円で20人に聞いてもらえる発信
どういうプラットフォームを用いるか(オンラインかオフラインか)、課金(お金を回収する)方法をどのように設計するのか、どのようなサービスに乗っかるのか、ダイレクト課金か否か、仲介者・協力者との取り分の比率は??など、詰めるべきところは無限にあるでしょう。
ここでは、とりあえず、
「単価*数量」に着目して、「youtubeよりも単価を上げて数量を減らす」というタイプの情報の授受が、この社会にもっとあってもいいのでは?とぼくは言いたいのです。
youtubeで20万人に撒き餌をしなくても、1回の講義・プレゼンで、「400円で200人」もしくは、「4000円で20人」の聞き手=お客様を集められる、という話し手は、大学院に埋もれているのではないか。
思考実験で金額の基準としたyoutubeが成り立っているのだから、工夫次第で現実的なのではないか。
少なくとも、桁数は外していないだろう。
現状、「人生を賭けて学問をしているひと」と「その学問分野のファン」の接点が、まだまだ希薄だと思うんです。
これが、大それた言い方をするなら、社会的な課題。
※個人的な見立てですが!!
「その分野のマニアックなファン」が、数十人単位で存在する分野があるだろう。たった数十人でいいんです。彼らのうちで経済的に少し余裕があるひとが、研究者から話を聞く代わりに、数千円を払う。
これぐらいの距離感(金額の規模)でやりとりができたら、大学院生や卒業生は、正規雇用・競争的な予算の獲得以外にも、生きていく道が柔軟に開けるのではないか。
……みたいなことを考えていて(まだ考えているだけ!)
とりあえず当面、ぼくは大学院生として(修士課程2年生なので)自分の研究のスキルを高めたいと思っているところです。同時に、いくつかトライをしていて、「400円で200人」「4000円で20人」って、荒唐無稽な数字ではないと思っているところです。少なくとも桁数は合ってると思います。
「学問とお金の問題」って何??
と、あおたまさんに聞かれたから、
「まだ考えたくなかった」し、「まだ言いたくなかった」ぼやぼやした構想ですけど、言語化してみました。自分で書いてても、よく分かりませんけど、言ってみること、言っていくことが大事だと思います。
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