見出し画像

「学問とお金を仲直りさせる」計算式/大学院生と中高年のファンを結ぶ

佐藤ひろおです。会社を休んで早稲田の大学院生をしています。
三国志の研究を学んでいます。

note経由で声をかけあい、あおたまさんとzoomで雑談しました。
・似たような本を読んでいる
・休職中である(あちらは産休・育休)
・あと1週間で復職する
という境遇の共通点があって、しゃべってみたいと思いました。

こんな記事を書いている方です。
質問されたのが、ぼくが、「学問とお金を仲直りさせたい」と言っているけれど、それって何??というクリティカルな問題。

正規雇用と研究予算は市場が悪い

大学院に進学するひとは、経済的に苦戦しがちです。学問を志すひとが、経済的な問題を解決するときに、
・大学教員として正規雇用される
・文部科学省などから研究費を獲得する
は、「できたらベスト」だけど、競争が激しすぎる。現に、この2つの道は大学院生や卒業生の全員が目指しているけれど、お金が行き渡っているとは言えない。
たとえば、人口500人の町の全員が丸坊主なのに、町のなかに美容室が100店舗あるような状態。過当競争です。

一般企業に入ると、偏差値が40ぐらいでも、なんやかんやで生きていける。「働かないおじさん」にも、市民権があります。研究者を目指すと、偏差値65でも危うく、70でも苦戦する。需要と供給のバランスが狂っており、「市場が悪い」としか言えない。
※偏差値が高ければよいというものでもない。※「働かないおじさん」を放置することは社会・会社・当人にとって不幸だけれども。

ぼくは政治家や官僚、大学経営者ではない。「正規雇用のポストを増やすべきだ」「研究予算を増やすべきだ」といった大きな対策を唱えても、それは妄言です。

ぼくが思うに、学問をするひとがお金を得る方法は、
自分が学問で得た知見を「お金を払ってでも聞きたい」というひとに伝えることだ、と思います。めちゃくちゃ当たり前ですけど、これを踏み外すと、意味が分からなくなります。

実家が裕福だとか、個人で資産を蓄えたとか、割のいい副業があるとか、それらを勘定に入れるのは、とりあえず辞めましょう。※現状はこれらの「学問以外の収入」によって大学院生の学問が成り立っているか、さもなくば窮状に陥っているですが(返済が必要な奨学金、長時間バイト)。

キーワードは、「単価*数量」だと思ってます。
順番に書いていくので、聞いて下さい。

大学の非常勤講師では新卒に満たない

ざっとGoogle検索すると、大学の非常勤講師は、1コマ(90分や100分)の授業をすると、1万円がもらえるそうです。
(直接、見聞きした情報をここには反映しません)

1週間に5コマを担当したら、わりと「準備が大変」で「さまざまな大学や学部を飛び回っている」感じになりますが、単価1万円*5コマ*15週間*前・後期=150万円です。年収150万円……。カラい。
1週間に10コマを担当するのは、限界を突破しているし、そこまでコマ数を持っている先生の話を聞いたことがないが、それでも年収300万円。20代ならまだしも、40代・50代になっても、新卒の給与に届きません。

そもそも、大学の非常勤のコマを担当できるか否かは、当人の実力に加えて、それこそ、天の時・地の利・人の和が必要です。世が世ならば、天下統一できるような素質と幸運をすべて兼ね備えても、年収が150万円とか200万円です。
制度全体を論じる準備はありませんが、これでは、「学問とお金は、きわめて仲が悪い」と言わざるを得ません。

youtuberとして食っていく方法

現代において、「私の話を聞いて下さい」というとき、youtubeは、便利な道具です。月収30万円が欲しいとしましょう。
30万円*12ヶ月=年収360万円。ようやく新卒の給与に並びます。

youtubeの動画を1回再生してもらい、広告収入の単価が0.4円とします。単価は、動画の分野、広告主の種類、時期、契約内容によって変動するようですが、「桁数は間違っていない」数字で仮置きします。
※フェルミ推定では「桁数が正しい」ならば、許される。

1ヶ月に30万円ほしかったら、30万円/0.4円/回=75万回
1週間に2本、動画を出すとしたら、月に出せる動画は8本。これ以上、多くの動画を出すと、品質が落ちるだろう。疲弊する。あまり大量に動画を投下したところで、視聴者がすべてを見終わることができないから、月に8本が限度でよいでしょう。
8本の動画で75万回再生を目指すのだから、1動画あたり10万回再生。

チャンネル登録者10万人超え(いわゆる「銀の盾」保持者)では、これは難しい。肌感覚としては、チャンネル登録者が20万人~30万人の強者になって、1動画あたり10万回再生を安定的に目指せる。
「銀の盾」の2倍の視聴者を継続的に獲得して、ようやく月収30万円が見えてくる(かも知れない。知らない)。かなり無理。

数量を絞って単価を上げていく

月収30万円を目指し、20万人から気に入ってもらうには、「広く浅く、聞きやすい」を目指す必要がある。これは、コンテンツの劣化、発信者の退廃・手抜きではなくて、市場の摂理です。
「万人受け」するものは、エンタメ要素が強い。
かつ、見やすいように、手の込んだ編集が必要だ。

大学の非常勤講師は、その場で90分間ぽっきり、ライブで話せば終わり。時間的な拘束は、意外と少ない。※準備=勉強は、どのみち頼まれなくても日々やっている前提。
youtubeの場合、編集作業が発生する。どこまで編集するかはチャンネル運営の方針によるが、より多くの視聴者を獲得するなら、10分や15分の動画で、数時間以上を投下する必要がある。これも、動画公開の本数を制約する条件になる。外注するお金なんか、ないですしね。

せっかく学問で身につけた尖った知見があるのに、20万人に受け入れられるように、気安い内容にまで抽象化し、編集によって見やすいように加工するのは、学者となじまない(と思う)。
その証拠と言ってよいのか分からないが、学問系を思わせるyoutubeの成功者は、多くの場合、学者じゃない。教養のある事業家や経営者、いまでは学問の世界から足を洗った卒業生、予備校の先生、プレゼン強者など。

ぼくの感覚として、「内容を薄めるならば、わざわざ自分がやりたくない」という意固地なところが研究者にはあると思われる。既存の世間のコンテンツでは満足できず、自分で研究をしようと思ったぐらいなので。

youtubeは、続けていくうちに、ガチの内容の専門性・分かりやすさで勝負する必要がなくなり、「出演者の人間関係」「空気感」を愛好し、「挑戦するプロセス」を見守るファンがつくことがあるだろう。
しかしそれは副産物だ。「学問をやるひとが、食っていくため」に、最初からそこを目指すというのは、違う気がする。※頑固ですみません

20万人に気安く愛される動画を、月に8本、継続的に出すのは、現実的ではない。※例外的にできるひとは、もちろんいるだろうが。

とりあえず、「月に8つのネタをしゃべる」という前提を据え置きで(専門で研究しているならば、それぐらいはネタがあるとする)、単価*数量を変更していったら、どうでしょうか。

・0.4円で20万人に聞いてもらえる発信
・4円で2万人に聞いてもらえる発信
・40円で2千人に聞いてもらえる発信
・400円で200人に聞いてもらえる発信
・4000円で20人に聞いてもらえる発信

どういうプラットフォームを用いるか(オンラインかオフラインか)、課金(お金を回収する)方法をどのように設計するのか、どのようなサービスに乗っかるのか、ダイレクト課金か否か、仲介者・協力者との取り分の比率は??など、詰めるべきところは無限にあるでしょう。
ここでは、とりあえず、
「単価*数量」に着目して、「youtubeよりも単価を上げて数量を減らす」というタイプの情報の授受が、この社会にもっとあってもいいのでは?とぼくは言いたいのです。

youtubeで20万人に撒き餌をしなくても、1回の講義・プレゼンで、「400円で200人」もしくは、「4000円で20人」の聞き手=お客様を集められる、という話し手は、大学院に埋もれているのではないか。

思考実験で金額の基準としたyoutubeが成り立っているのだから、工夫次第で現実的なのではないか。
少なくとも、桁数は外していないだろう。

たとえば昆虫の研究をしているひとが、不安定な立場の非常勤講師であり、食っていくのに苦労する……というとき、「もと昆虫少年」「もとムシ博士」のおじさまたちを相手にして、濃密なトークを定期的に提供すれば、「もと昆虫少年」「もとムシ博士」のおじさんたちは毎回、千円札を喜んで出してくれると思うんです。
仕事の都合で昆虫から遠ざかっているけれど、心はまだ少年、というひとたち(中高年)に満足して頂くように、内容を尖らせるのです。

現状、「人生を賭けて学問をしているひと」と「その学問分野のファン」の接点が、まだまだ希薄だと思うんです。
これが、大それた言い方をするなら、社会的な課題。
※個人的な見立てですが!!

「その分野のマニアックなファン」が、数十人単位で存在する分野があるだろう。たった数十人でいいんです。彼らのうちで経済的に少し余裕があるひとが、研究者から話を聞く代わりに、数千円を払う。
これぐらいの距離感(金額の規模)でやりとりができたら、大学院生や卒業生は、正規雇用・競争的な予算の獲得以外にも、生きていく道が柔軟に開けるのではないか。

……みたいなことを考えていて(まだ考えているだけ!)
とりあえず当面、ぼくは大学院生として(修士課程2年生なので)自分の研究のスキルを高めたいと思っているところです。同時に、いくつかトライをしていて、「400円で200人」「4000円で20人」って、荒唐無稽な数字ではないと思っているところです。少なくとも桁数は合ってると思います。

「学問とお金の問題」って何??
と、あおたまさんに聞かれたから、
「まだ考えたくなかった」し、「まだ言いたくなかった」ぼやぼやした構想ですけど、言語化してみました。自分で書いてても、よく分かりませんけど、言ってみること、言っていくことが大事だと思います。

ぼく自身が、研究者としては駆け出しですけど、会社員でもあり、お金の管理と事務作業のノウハウは備えているので、だれか一緒にやっていただけると嬉しいです。緩募の二歩手前です。事業がしたいのかは不明。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?