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経堂のリアルなお店でお酒を買う。素敵なワインに出会うコツ:入るのに勇気のいるワインショップ「Anyway Grapes」

「アルバリーニョ?」

それは、1週間ほど前のこと
 ブドウの品種はいったいどれくらいあるのだろうか?ワイン専用のものだけでもどれくらいあるのだろうか?カベルネ・ソービニオン、ピノ・ノワール、シラー、テンプラリーニョ、、、指を折っても片手で足りる人が大半だろう。ワイン天国の入り口で戸惑う可南子が初めて聞いたとしても、別に不思議ではない。
「リアス・バイシャスは雨が多い地域で、海からのミネラルが白ワインに独特の味わいを与えているんです」
店員の説明を聞いて、その人が答える前に
「リアス式海岸の由来となった場所ですよね」
と、割り込んでいく可南子。その時、どうしてそうしたか、自分でも驚いた。引っ込み思案であまり自分を出さないと、いつも同僚に言われていたのだ。

「よくご存じですね。雨の多い地域です。リアス・バイシャスで作られ始めたハウスワインが、品質の良さを買われてDOCを取り、今では徐々に世界に広まっています」
 お店の人がそう説明すると、
「日本に似ていますね。最初は、新潟県のカーブドッチという生産者がつくったワインに魅かれて、本場のものを飲みたくなりました」
 その人は、そう、話した。
 初めてなのに、不思議に昔から知っているように気になった可南子は、その人が手にしている“ワイン試飲会”の申込書をぼんやり見ていた。
 時々、何とか、会話についていくように普段の可南子からは考えられないほど、一生懸命、会話に入っていった。時々、店員さんが可南子にも質問をしてくれたのも助かった。やはり、ネットショップやコンビニでは味わうことのできないリアルな買い物の楽しさ。自分で調べたら分からなかったことも教えくれる、偶然の賜物。

そういえば1時間ほど前
 その店を見つけたのは偶然だ。
 50mほど先の中華料理の『彩雲水』に行く途中で見つけて、食事の後に立ち寄った。大きな看板もPOPな広告も無く、小さなお店の案内が町内の盆踊りの告知のように張られていた。青山の路地に入ったところにある大人のバーのような入り難さ。さらにお店が地下にある。

「そうそう、ここに来る途中にワインショップがあった気がする。ワインがいいんじゃない。帰りに寄ってみよう」
 共通の知り合いが結婚して、新居にみんなで遊びに行く時に、何を持って行こうかという話になった時に、上海ガニのつまんだ手をウーロン茶で洗いながら、同僚がそう言った。そうして、行動派の同僚と2人で恐る恐る地下へと降りて行ったのだ。

 店員さんと話をして、“南アフリカの赤とスパークリング”を買った。知り合いの旦那さんは、結構、ワイン好きらしいという話をしたら、店員さんが
「じゃ、ニューワールドで、変化球を投げてみましょう」とセレクトしてくれた。
 “そういえば、家の近くのワインショップで買うテーブルワインも南アフリカのシラーだったな”、そう思いながら、可南子は代金を払った。袋を受取り帰る途中、そっと試飲会のチラシを入れた。

そして、1週間後。
「あら、この前、アルバリーニョを買ってた方ですね」
 試飲会の当日、可南子はさりげなく、そして、ドキドキしながら声をかけた。
「おや、また、お会いできましたね。今日は色々、教えてください」
「こちらこそ、試飲会は初めてなので」
 お互い一人で来ていたこともあり(同僚にはナイショだ)、好きなワインの話や試飲の感想で会話は弾んだ。説明してくれる店員の方も交えて、たわいのないワイン談議に花が咲く。”巨大なワイングラスは香りを楽しめて良いのだけれど、最後の一滴を飲む時に、のけぞるような格好になりがちぃ~”、”イタリアワインの3B政策。バローロ、バルバレスコ、そして、あと一つは?⇒バルベーラ・ダスティ!”。スタンディングで飲んでいたためか、かなり、いい気分になっていた。何種類の試飲をしただろうか?気分よく、店を後にして、向かった駅のホームでLINEを振り振りしてIDを交換した。

きっと、1年後、、、、、

“本当は、あなたに会うために試飲会を申し込みました”
その人は、急行に、可南子は各駅停車に乗り、その日は分かれた。祖師ヶ谷大蔵に向かう電車の中で、無意識に、左手の薬指をなぞりながら、
そう、正直に打ち明ける日はいつか来るような予感がした。
鼻の奥に残ったアルバリーニョの爽やかな香りが、それを確信に変えた。

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