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「Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔」を読みました

今年2024年5月20日、台湾に新政府が誕生するにあたり、政務委員(デジタル担当/IT大臣)を任期満了で退任したオードリー・タン(唐鳳)

IQ180の天才。トランスジェンダー。台湾史上最年少で政務委員に就任。ハッカーであり、詩人。そんな彼女も、ひとりの人だ。

彼女の魅力は、圧倒的な知能と人間力。
過去の辛い体験を、本人の力に昇華している。

1.彼女はハッカー

ハッカーは、探求心から難題を解決する人。

パソコンのセキュリティを破るなどの犯罪者は、ハッカーではない。クラッカーとかブラックハッカーと呼ばれる。ハッキングは、新たな発想や技術で新たな価値を生み出し、社会を変える行為。

【ハッキングの3つの特徴】
 ・遊び心
 ・知性
 ・探求精神

【ハッカーが追及する世界観】
「権威やビジネスの枠組みを放棄し、誰もがパソコンやネットワークに無料で自由にアクセスできる人権を持つことで、リアル世界のあり方を改善し、進歩を促す」

彼女がしていることは、すべてハッキングなのだ。

2.天才もつらいよ

彼女の時間管理の秘訣は「ポモドーロ・テクニック」。25分間集中して、5分休憩。それを繰り返す方法。私も、この本をその方法で読んでみた。

25分間だけ読むと思うと、集中できる。そして、休憩時間の5分が案外長く感じる。時間は伸び縮みする。不思議だ。

ただ、凡人の私には、ポモドーロ・テクニックを約4回繰り返したあたりで、集中力が切れた。天才のことは、凡人の私には想像しても分からないけれど、記憶力や理解力などの情報処理能力はもちろん、集中力を維持する精神力やペース配分なども長けているのだろう。

天才に見えている世界は、凡人には理解しにくいのがもどかしい。凡人の理解を越えた思考で、より良い世界を見通せているとしたら、天才側だって絶対もどかしいだろうな。

日本語訳は出ていないけれど「Gifted Grownups(大人になった天才たち)」には、監獄の中の約2割の人が、もとは大変優れた能力を持っていたけれど、家族の無理解や、学校生活での挫折などにより、社会に失望し、不登校になったり、犯罪に巻き込まれたり、犯罪を犯したり、追い詰められて自殺したりと、周囲との軋轢を抱えながら人生を過ごしてきた元天才児たちの様子が書かれている。彼女はこの本を実現してはならない予言として読み、自らを戒めるために中国語に翻訳した。天才には天才の苦悩や闇があるのだ。

3.透明性とチーム(国民)の力

彼女は、政府が万能だとは考えず、人々が適切な方法で政府の運営に参加して双方が協力できれば、よりよい統治が実現すると考え、透明性を大事にして、さまざまな情報を開示した。政府のあり方に過剰なまでの透明性を持たせることで、政府がどのように運営されているのかを知り、参加したり意見を述べる方法を知ることで、国民は政府への請願をできるようになると考えていたから。そして、さまざまな人が参加してアイデアを出すことで、よりよいものを創り出せるというチームの力を彼女は知っているから。

最近の記事を見ると、特殊詐欺やフェイクニュースへの対応が不十分だと、彼女の指導力不足を批判する声があったみたい。新型コロナウイルス感染症の対応は評価されていたけれど、日々新しい問題は起こり、その対応に不備があれば、批判されてしまうのか。

でも、それは、台湾国民が政府の動きをしっかり見て、問題点があれば、改善を訴えるという、政治参加への意識と仕組みができたと捉えれば、彼女が考えていた「市民が提案、国民が参加」の状態でもある。国民が政治を自分に関係のあることだと認識し、参加することは、国をさらにより良くすることだから。

それでも、なんだか切ない(情に流されてはいけないね)。

4.余裕とユーモア

フェイク情報や噂、デマは広まるのが速い。政府の情報であれば、信頼性は高いとはいえ、フェイクか本当か、それを見極めるのが難しい。

焦ったり、不安や怒りなどの感情によって冷静さを失っていると、判断を誤りやすい。心を落ち着かせる方法を持つ。時間の余裕は、精神的な余裕を生む。ユーモアを交える余裕を持つ。

ユーモアをもって本当の情報を発信すれば、国民の不安や怒りを解消し、デマよりも速く本当の情報が伝わる。ユーモアを加えると、単に事実を明らかにするよりも効果的に伝わるらしい。楽しくて、おもしろい、喜びにつながる行動は、人々をつなげる。

5.share & enjoy(シェアして楽しむ)

情報を拡散したいときは「ACEの3原則」が効果的。

「Actionable」:参加しやすさ(簡単で、短いなど)

「Connected」:つなげる(友達や有名人の真似をすることでつながっている感覚になれる)

「Extensible」:変えられる(基本を真似しながらも、自分のアレンジも加えられるとブームを生む)

この手法を使うと、相手に大きな負担をかけずに、行動してもらいやすい。すべての人が、自分の力でまわりの人や社会に影響を与えることができる。

6.ざっくりした合意をもとに、取り組む

立場の異なる人たちと、ひとつの目標を達成する為に、役割分担をして取り組む時(協働)には、異なる意見を進んで理解する人がいることが大切。異なる意見の相手に対し、説得ではなく、相手の立場をより深く知り、その立場から別の人と口論ができるくらいまで全面的にその考え方を理解する。

徹底的に理解し、攻防を放棄して、両者が共に勝つ状態にしなければ、お互いに納得できる共通言語に達することは難しい。

「一番文句の多い人は、その問題についてはプロという場合もある。そうした人たちの意見を取り入れられれば、より良いサービスを提供できる。」

多くの知恵を集め、さまざまな利害関係者の見た事実や感じ方を終結させ、これをベースに議論を進める。なぜ自分がこう考えるのか、なぜ相手がそう考えるのかとその理由を考える(批判的思考)。討論の際に相手がどう感じるかに配慮する(ケア的思考)。もっと独創的な考えができるかどうかに踏み込み、自分らしいものを生み出す(創造的思考)。最終的にはみんなに利益のある多元的な解決法を探し出す。

問題解決の方法は1つじゃない。

「ざっくりした合意」を探し出す。
満足ではないにせよ、みんなが受け入れられること。

投票で結論を出さず、専門性をもって問題を解決する。完敗も完勝もなく、対話しながら討論をして、それぞれが受け入れ可能な結果を出す。

7.美味しい食べ物は、とっても大事

食べ物はイノベーション(改革)の触媒。食べ物が美味しければ、次も人は来てくれる。食事をしながらおしゃべりをする。そのおしゃべりから多くの知恵が生まれる。経費の大部分を食べ物に費やしてもいい。

オンラインの交流でも、同じものを食べるなどの工夫をすると、仲良くなりやすい。異なる空間にいても、同じものを食べたり、同じものを使うことで、意識的に同質性を作ると、気持ちを分かちあいやすい。

8.そのひとをみる

彼女の成育歴や活躍はどれも印象的だけど、なによりも、バラバラだった3つの自分が1つになり、心を取り戻した事が素敵だった。

24歳の時、女性となった彼女。両親は「それで人生が幸せになるなら、私たちは必ず応援する」と答え、友人たちも暖かく支えてくれた。彼女は2016年に台湾内閣に入閣する時、性別欄には「無」と記入した。

台湾は、アジアで初めて同性婚を法制化した地域だ。また、原則夫婦別姓であることも今回はじめて知った。台湾にも偏見は存在していたけれど、2019年に同性婚特別法が成立した。同性婚特別法制定の為に、法律の精神は「結婚不結姻」へと発展し、結婚から姻を抜いた。婚は2人の個人を結ぶ。姻は2つの家族を結ぶ。結婚は、家を結ぶものではなく、シンプルに個人2人を結ぶものとなった。台湾にとって同性婚の法制化は、素晴らしいソーシャルイノベーション(社会問題を解決する取り組み)を起こした。

オランダはドイツに倣い、身分証明書の性別記載欄を廃止すると2020年に宣言した。公的な身分証明書で第三の性を選べる国は、ドイツ、オランダの他にも、デンマーク、マルタ、オーストリア、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、インド、ネパール、バングラデシュ、パキスタンなどがある。

したいことをするのに、性別はいらない。
「ジェンダーフリーは、性別による不平等を解消するきっかけになる。」

9.いま、する

未来に変化が起こることを願うなら、いま小さな変化を起こす必要がある。今日の変化を試みなければ、明日の変化は起きない。こうありたいという未来を見定めたら、まず自分をこうなりたい自分に変える。

「クリエイティブであれ。」

独創的な発想や表現を、創造し続ける。いつも自分のアイデアについて考えていれば、誰かの意見に時間を浪費する必要はなくなる。

10.できることを、する

彼女と私は、同い年。社会への影響力と貢献度は比べ物にならないけれど、彼女も私も社会の為にできることをしてきた。どんな小さなことでも、誰もが社会に貢献している。私も、あなたも。

自分の天才的な才能をどう思うか、と問われた彼女は、こう答えた。

「天才とみなされない多くの人々には、自分にしかない輝きがある。天才とみられる多くの人には、自分にしかない闇がある。どちらも素晴らしく、美しい。存在すべきはIQよりもこの美である」

自分の凡人さや、できないことを卑下するよりも、自分にしかない輝きを生かす。小さなことでいい。できることはある。ひとりでやるのではなく、チームで動くことで、より価値あるものを創造できる。

いま、自分にできることをしよう。

オードリー・タン、IT大臣おつかれさまでした!
これからの活躍も応援しています!

「Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔(アイリス・チュウ、鄭 仲嵐:著/文藝春秋/2022年)」

おわり

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