散文詩『ハエトリグモ』2019.9.22



寂しい匂い。朝焼けを恨む必要はない、と、
ハエトリグモが言った。
朝玄関を出て、彼に感謝するのは、
自室の中へ、寂しいとやってくる小バエを、美味しそうに食べるのに面する、罪悪感。
謝る必要はない、と言った。

この朝の匂い、学校、満員電車、
バス停に佇む亡霊のような、乾いた空が、
落ちてくる想像をした。
蜘蛛の糸がたれてくるのを、誰かに譲り、
善意に包まれ、救われる想像をする。
それが、この匂いの、正体だと思った。

雨が降る前に、洗濯物を干すと、
濃縮される、どうしようもない水の薫香、
洗い流される食器のような、無機質な
夜明けから、ハエトリグモと一緒に、
また朝へ向かおうと約束をした。
彼は、朝焼けの窓に張り付いていた。



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