散文詩『野良猫の腹』2019.9.19



野良猫の腹に触れるとき、
それは対人恐怖症の、鮫肌の脆い心臓
を握る、あの瞬間に似ている。
指に細い針金が食い込み、来るな、と
哀れな体勢、怯え威嚇し吠える声帯、
ぼくら、とは一切、いえない。
繋がらないまま癒えず、傷は艶やかと、
手当を、助けを、求めて彷徨う、飯。

気持ちがいい。撫でられるのは。

旨い食い物を寄越す汚れたうで、
その手で何度、なにを殺してきたんだ。
ぼくらとは、ぼくらとはきっと、
恐ろしい化け物。触れる程、傷付きあう、
柔い、毛の生えた腹。無防備な、
指を第一関節まで沈めると、それはもう
しあわせな、つながり。

繋がり、たくない。この、人殺し。
一突きすれば弾ける、ひげにあらわる、緊張。
いやだ、やめてください。

うずめられた温い指の、毛の境い目を、
さら、さら、と撫でる。細血管。
ぼくらの、ぼくらになりたい。対人恐怖症は、
傷つきやすい野良猫の腹。傷つけあう。
繰り返す、鮫肌の心臓を握られたい、柔い
毛の生えた無防備な、柔い、腹。



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