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変革を指揮するリーダーが知っておくべき生存と繁栄のデュアルシステム

変革の必然性

海外駐在に関わらず、辞令を受けて新しいポジションに就く際、
在任期間中に自らの手で何かを変えたいと思う人は多いのではないか。

これは2つの意味でとても自然なことだ。

1) 変革こそが価値

欧米の映画で社員が突然解雇になり、そのままセキュリティに連れていかれるシーンを見たことがある方は多いと思う。

これは暗に「引き継ぎ」という文化が無い事を示している。

離任する側は自分がいなくなった後に興味を持たないし、
後任も前任の仕事をそのまま引き継ぐことに価値を感じない。

それは前任と何か違うことをすることが自身の価値であり、
会社からもそれを求められていると理解している
からだ。

これは前任の成果を意味もなくゼロベースに戻すという意味ではなく、
いい部分は認め残しながら、改善の余地がある部分をどんどん見直していくという意味だ。

そういった意味で、変革や挑戦を自身の存在意義に掲げ、
情熱を燃やすマネジメントの皆さんとお話するの時はいつも心が躍る。

一方、前任の業務を引き継ぎ運用していくことを目標に掲げている、
もしくは目標という目標を持っていない方にお会いすると、
勝手ながら少し心配になってしまう。

2) 加速度的且つ構造的な環境変化

日系企業における異動のサイクルは一般的に3~5年間だろう。

3~5年あれば世界は劇的に変わり得る。

直近で一番わかりやすいの例はコロナによる環境変化だが、
コロナ以前から劇的な変化は起きている。

例えば世界のデータ流通量は2010~2020年の10年間で32倍になっており、
2025年までに90倍に増える
と予測されている。

Statista : "Volume of data/information created, captured, copied, and consumed worldwide from 2010 to 2020, with forecasts from 2021 to 2025"

上記グラフの通り、一年で起きる変化の幅がどんどん大きくなっている。

ここからデジタル戦略の重要性が加速度的に高まっていることが分かる。

また、構造的な世代交代の影響も顕著だ。

これまでマネジメントポジションの多くを占めていた
ベビーブーマー(1947-1964年生まれ)は既に多くが一線を退き、
次のX世代(1965-1980年生まれ)に経営のバトンを渡している

その象徴が最近のトヨタ自動車のトップ人事だ。

豊田章男氏(ベビーブーマー:1956年生まれ)は、
佐藤恒治氏(X世代:1969年生まれ)に世代を超えてバトンを渡した。

同時に既に総人口の3割を占めるZ世代(1997-2012年生まれ)が、
2025年までには全労働人口の3割程度を占め、
企業や消費者市場に新しい価値観を吹き込む
と予想されている。

これらの事から、旧来の前提を元に最適化された前任の仕事を
そのまま維持することは、外部環境と自社の立ち位置のギャップを広げ、
相対的に自社のポジションを低下させることが分かる

これが「現状維持=衰退」と言われる所以だ。

変革を阻害する3つの要因

口で言うのは簡単。

頭ではわかっている。

しかし、実現するのは難しい。

それが、変革だ。

ちなみに、変革とは「革=皮」を「変える」と書く。

つまり、脱皮をし新しい姿に生まれ変わることを指す。

そんなもの簡単な訳はない。

リーダーシップやチェンジマネジメントの領域の第一人者である
ジョン・P・コッター氏は、著書の中で変革の3つの阻害要因を挙げている。

1) 人間の生存本能

人間には生まれつき生存本能がある。

これから起こりうる変化が自身の生存を脅かす可能性を検知したら、
無意識に「闘争・逃走反応」が出る

変革期に登場する反乱分子の存在は、脳科学的には至極自然と言える。

2) 現代型管理手法の限界

依然として幅を利かせているピラミッド型組織や予算管理の手法は、
元々産業革命後に生まれたものだ。

変化のスピードが遅く予測可能性が高い環境下で、
効率性の追求や安定性の確保を目的に開発されたトップダウン型の構造だ。

その組織構造や管理手法自体を変えずに変革の必要性を叫ぶのは、
毎日糖質・脂質たっぷりの食事を子供に与えながら、
口では痩せろと言っている様なもの
だ。

3) 安定期のマネジメント vs 変革期のリーダーシップ

安定期に求められるマネジメント手法と、
変革期に求められるリーダーシップは大きく異なる。

異なるだけでなく、相反する場合が多い。

例えば、安定期は規律を重んじ、
マネージャーが中心に組織を統治することが機能するが、
変革期にはあえてコントロールを手放し、
現場の草の根的な活動を尊重し変革の機運を高めることが重要
になる。

これは個人レベルだけでなく、組織レベルにも当てはまる。

全社的な変革や海外事業の拡大の必要性を叫ぶ一方で、
本社が海外現法に権限を渡さず、10万円単位の投資まで本社にお伺いを
立てなければならないというケースをたまに聞く。

これはやりたいことを自らの手で阻害している良い例と言える。

生存と繁栄を両立させるデュアル・システム

ちなみに、決してマネジメントが不要という意味ではない。

上場企業が投資家に対して色々な数字をコミットした瞬間、
それを達成するための予算管理や内部統制が必要になる。

また、業界によっては安定的にオペレーションを回すことが
顧客の信頼を獲得することにもつながる(例.医療、物流)。

つまり、生存のためには最低限マネジメントやコントロールが必要となる。

一方で更なる繁栄を狙った戦略的な取り組みには、
リーダーシップを通じ情熱を持って大勢の人を巻き込み、導く必要
がある。

変革を促進するマネジメントは、これらを両立するために
目的や対象領域によって複数のシステム(デュアルシステム)を
運用するという選択肢を持つことが肝要
となる。

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