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ウィーンが君を待っている/Ep.2 キャプテンやす兄


登場人物

正美…大樹の母。美容師。
やす兄…正美のパートナー。
大樹…ナチョスの大学からの友達。
ブライアン…ナチョスの大学の交換留学生。



あらすじ

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大学1年生の時に共に寮生活した交換留学生のブライアン。
半年間の共同生活の後帰国した彼が、
わたしの卒業式に合わせて約1ヶ月の日本旅行に来た。
関西旅行の間、私とブライアンは東大阪にある大樹の実家に泊まらせてもらった。
これは、ほとんどが事実の5人の旅行のお話。

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2023年3月22日 キャプテンやす兄
@AWAJI ISLAND


出られたらいいね、と言っていた時間は間近だった。
すでに彼らは起きていて、リビングで談笑していた。

何だか申し訳ない気分になったが、左を見ると栗色の髭を蓄えた白人がいびきをかきながら赤ん坊のような顔で寝ていた。少しホッとした。

朝の挨拶を済ませると、テレビでは、WBCの決勝戦が放送されていた。

「ファールと三振って一緒?」

無邪気な顔で、大樹がやす兄に野球のルールを聞いた。
やす兄は面倒臭さがることなく大樹に説明した。

「えっ、今、一点入ったん?」

一喜一憂するトーンで、正美がやす兄に状況を聞いた。
ただのファールだったし、一点は元から入っていた。
やす兄は面倒臭さがることなく正美に説明した。

「日本、優勝!!!」

優勝を5人で分かち合ったが、ルールを理解し、集中しながら楽しんでいたのは、きっと僕とやす兄だけだっただろう。

ブライアンは過去に野球経験があるが、僕にはとてもそう思えなかった。
僕らが試合に夢中になっている横で、彼は一球ごとにリアクションを取っていた。わかりやすいアメリカンリアクション。
日本を応援しているというよりも、アメリカと審判に茶々を入れているようにしか見えない。

僕は正直、鬱陶しさを覚えてしまった。徐々に彼の言動に反応せず流した。
素直に鬱陶しさを見せられるほど、ずっと同じ時間を過ごしてきたのだ。

そしてやす兄は、私とブライアンの関係よりもずっと長く大樹と正美との関係を続けている。
たとえ心の内で面倒臭いと思っていても、答えを返せる優しさは、きっと愛なんだろう。


とっても綺麗な光景だった。
目の前は黄と青と緑で埋め尽くされ、平穏を遮る音は何もない。
その場所で僕たちは、思い思いにカメラを構えたり、構えられたりした。そこは、時間の流れを遅く感じさせた。淡路島、良いところだったなぁ。

この日の目玉、ふぐを食らうべく、僕たちは菜の花畑を閉園の音楽と共に離れた。

フロントガラスは、夕暮れに照らされる山々を映し出す。
くねくねと曲がりくねった蛇のような道は、田舎にいることを強く実感させる。

気がつくと、僕とやす兄以外の3人は車の揺れに心地よさそうに揺られていた。

私も眠ってしまうと、やす兄を一人にしてしまう。
運転手以外の眠りは、運転手の眠りを誘う。
そして何より、一人で運転するのは寂しい。

今や、〈宇宙船こせ兄号〉の乗組員五人のうち三人は、ミッション道半ばで息を引き取った。ミッションの成功させ、乗組員の息を吹き返らせることができるのは、私とやす兄ただ二人。自分は起きているということをアピールすべきだろうか。
あれ。だめだ。意識が遠のいていく。車内が心地よすぎる。
瞼が重力に従うように、ゆっくりと瞳を覆う。

ここは、どこだ。他の乗組員たちが私より先に目を覚ましていた。

〈宇宙船こせ兄号〉の前の看板には、目的地〈HAL.基地〉(春吉)の文字。

遂に、キャプテンこせ兄は、一人でミッションを成し遂げたのだ。
ああ、なんてことだ。
ありがとう、やす兄。
ごめん、やす兄。
ふぐおいしかったね、やす兄。








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