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#10 『天才を考察する』 デイヴィット・シェンク

人の能力は遺伝と環境のどちらが重要なのか。


副題「『生まれか育ちか』論の嘘と本当」の意味

「生まれ」、すなわち遺伝的な要素の影響が大きいことが、科学的に証明されたのか?
と思い手にしました。

読むと、遺伝の要素だけではなく環境が影響するという意見でした。一般的には遺伝で決まるという認識が強いということでしょう。

確かに、
「私たちの子だから、勉強はできなくても仕方ない」
という発言を未だに耳にします。

著者の主張はこんな感じ。

我々一人ひとりの才能や知能は、それぞれの遺伝子によってあらかじめ決められるわけではない。むしろ、時間とともに発達する。遺伝子の違いは確かに重要な役割を演じるが、遺伝子だけが複雑な特徴を決めるのではない。じつは、遺伝子と環境は相互に作用するのであって、その動的プロセスに対しては、自分で完全にコントロールすることはできないものの、大いに影響を及ぼすことができる。

「遺伝」だけでも、「環境」だけでもなく、「相互作用によって変化していく」という考え。この冒頭の主張だけで、ワクワクします。

環境の影響

影響は、知能だけではありません。なんと、身長や筋肉のつき具合など、身体的な特徴にまで影響を及ぼします。

比較的低身長な民族は、その食生活や病気、気候などによって、高身長になることを妨げている場合が確認されています。

逆に高身長の人が多い環境で育つと、高身長になります。
食習慣なども影響しているらしいですが。

それなら知能はもっとわかりやすく、環境が影響しそうに思います。

知能は、受胎のとき、あるいは子宮の中で組み込まれる素質ではなく、遺伝子と環境の相互作用で発達する技能の集合である。知能の高さが生まれた時から決まっている人はいない。知能は伸ばすことができる。自分の本当の潜在知能を余さず活用している成人は極めて少ない。

知能の高さは、生まれた瞬間に決まっているわけではなく、生まれた瞬間(もしくは胎児の頃?)から、どんな環境下で成長したかに拠る、と。

にも関わらず、
「あの子は、生まれながらに野球の才能を持っていた!」
とか、
「両親が東大卒だから、子どもも優秀なんだ!」
という、意見が散見されるのは、そういう神話に頼る方が、精神的に楽だからでだそうです。

納得。

「環境」とは、「育て方」

誰だって、今の自分と成功している誰かの差が、努力の差とは認めにくいものです。親のせいにした方が楽ですし。
だから、「親ガチャ」という言葉が流行るのですね。

でも、育て方一つでよい環境にも、よろしくない環境にもなり得ます。
むしろこっちの方が「親ガチャ」要因は強いんじゃないかと。
つまり、「どの親の遺伝子をもらったか」より、「どの親の作った育成環境で育ったか」の方に影響されている。

人は自分が育てられたように、我が子を育てるケースがとても多いです。
自分が育った「子育て環境」をベースにして我が子に環境を用意します。すると、親と似たような能力の子に育つ可能性が高くなります。
よって、「生まれ」で決まるような錯覚を起こすわけです。

学歴の高い親の子が学歴が高くなる傾向にあるのは、そういう仕組みからです。

我が子は別人格として、我が子にあった教育を模索したり、同じ轍は踏ませないと思っている家庭の子は、子が親を超えることが少なくないです。

我が子を天才に育てる方法

信じること
抑えつけず、支えてやること
着実に、粘り強く失敗を受け入れる

子育ての指針。
どれも簡単じゃないからこそ、これを子育ての各場面で徹底すれば、子どもは変わっていきそうな考えです。

本の構成も面白くて、前半200ページが、著者の主張で、後半200ページはその根拠が後ろから書かれています。

最後に、戒めとなるような一節。

教師は、どんな教育法を用いるにせよ、最初の一歩で説明を理解し損なう生徒に対し、それ以上の進歩は不可能だなどと決めつけてはいけない

そうです。
「決めつけ」が最も怖いのです。
子どもは、日々変わります。心も頭も体も成長します。
変わると信じられるかどうかで、かける言葉はかわってくるはず。

「天才になるには?」というおもしろい章もあるので、ぜひ読んでいただきたいおすすめの本。教育関係者は必読だと思います。絶版っぽいですが。

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