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#2 『モチベーション3.0』ダニエル・ピンク

「内発的動機づけ」
この言葉に初めて出会ったのがいつかは、忘れてしまいました。でも、仕事の中で強烈に意識し始めた時期は覚えています。
それは、『モチベーション3.0』を買ったとき。ハードカバーの初版が2010年7月6日だから、その頃のこと。

参考文献として挙げられている本を、片っ端から読んでいくと、より内発的動機について学ぶことができるという意味でも、バイブルみたいな本。

従来の動機づけとは

モチベーション1.0:生理的動員
モチベーション2.0:外的要因

前者は、生きるために飲んだり食べたりする動機。
後者は、外部から与えられる報酬や罰によって発動する動機。いわゆるアメとムチ。その欠点は、

【アメとムチの致命的な7つの欠陥】
1,内発的動機づけを失わせる
2,かえって成果が上がらなくなる
3,創造性を蝕む
4,好ましい言動への意欲を失わせる
5,ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する
6,依存性がある
7,短絡的思考を助長する

いまだに学校をはじめとして、教育現場で使われる「アメとムチ」。
最近、福岡の久留米で、担任が1年生の椅子を取り上げて、立ったまま授業を受けさせたり、ひざをついて給食を食べさせたというニュースがありました。その罰の理由は、椅子を机の下に入れなかったからだとか。(それだけ!)

「アメとムチ」の典型だけど、教育に携わっていて、この言葉を使っていたら、不勉強を疑った方がいいと思います。

「モチベーション3.0」は、第三の動機づけで「内発的動機づけ」です。自分の内面から湧き出る「やる気!」のこと。「やりたくてやっている」「自分のためだと思ってやっている」こと。

カーネギーメロン大学のエドワード・デシが、

ある活動に対する外的な報酬として金銭が用いられる場合、被験者はその活動自体に本心からの興味を失う

と、前2つの「従来の動機づけ」では、やる気が持続しないことを確認しています。報酬によって、短期的に人のモチベーションを向上させることはできるが、長期的にはモチベーションが失われる恐れもあるのです。

子どものやる気についても同じだと思います。
「勉強したらお菓子あげるよ」
というのは、外発的な動機づけ。

一瞬はがんばるかもしれないけれど、学習習慣を形成することはできません。むしろ、お菓子をあげないと学習をしない子になる恐れもあります。さらに怖いのは、学習の中にある「学ぶことの楽しさ」を感じ取りにくくなることです。
これが、「ごほうびで釣るのはよくない」と言われる理由です。

効果的なご褒美

課題を終えた後に、思いがけず具体的な見返りが与えられた場合、その報酬は、その課題を遂行しなくてはいけない理由として認識される可能性は低く、したがって内発的動機づけに有害な影響を与える可能性は低い。

最初から、「勉強したらお菓子をあげる」と言わず、勉強をがんばった後に、「がんばったね。はい、お菓子」とあげると、モチベーションは減退しません。

ちょっとした違いだけど、大きな差を生む対応です。

うちの塾ではポイント制でガチャが引けるようになっています。主に宿題をするとポイントが貯まっていき、一定数たまるとガチャが引ける仕組みです。
ガチャを引くと中に宝石が入っていて、宝石の色に分かれた箱の中から文具をもらえるという仕組み。

これだけ間接的にいろいろはさむと、動機づけがマイナスに触れることはないようです。つまり、「宿題やればペンもらえる」という直接のつながりがありません。
また、ガチャというランダム性が絡んでいるので、何か目的のものをねらうこともできません。

ポイントが貯まるのをうれしそうにしている子は多いです。でも、もらえる商品のために宿題をするという子はいない。ポイントが貯まることが、少しだけ宿題をポジティブにしている感じはありますが、そのくらいです。貯まったらラッキーくらいの子が多いです。

がんばりを認められるから、いいかなと思ってやっています。

内発的動機になるポイント1:「自律性」

まず、大切な要素の1つが「自律性」です。自らが選んで学習しているという状態を実現すること。

でも、「学習する? しない?」と聞いてしまうと、「しない」を選択する子が多いでしょう。
そこで、やるかやらないかという選択肢ではなく、やることは決定していて、「何をやるか」「いつやるか」の部分で選択させてあげるとうまくいきやすいです。
質問の仕方で、「自律性」が発揮されるかどうかが決まってきます。

1日に1時間は学習をするのは決定。その1時間を使って、「国語をやる? 算数をやる?」みたいな感じです。
また、やる内容は決まっているが、学習時間は自由裁量を持たせるだけでも違います。

内発的動機になるポイント2:「熟達」

自信があるというだけではなく、より向上していく気持ちを持っていることが大切。そのためには、自分自身の能力はもっともっと進化していくと信じる気持ちを持っているか、また、痛みをともなっても成長していこうとしているかが問われます。
これが「熟達」です。

昔、元メジャーリーガーのイチローさんがインタビューで目標をきかれていました。おそらく、インタビュアーは「首位打者」とか「優勝」とかを期待していたのでしょうが、イチローさんは、「次の試合でヒットを打つこと」と言っていました。

今の自分より一歩前に進むこと。意識しにくい遠くのゴールを目指すのではなく、少しでも今より成長することが内発的動機による学習を促します。

だから、とりあえず「内発的動機になってからはじめる」ではダメだということ。まず、ある程度はできるようになってしまった方が、「内発的動機」になりやすいです。

内発的動機になるポイント3:「目的」

〈モチベーション2.0〉は、利益の最大化を中心にしていた。〈モチベーション3.0〉は利益を否定はしないが、「目的の最大化」を同じくらい重要視する。

『モチベーション3.0』ダニエル・ピンク

お金持ちになるという目的ではなく、そのお金を使って何をするか、という目的を持つことだとあります。

一番わかりやすいのかもしれません。将来やりたいことが本当に明確な子は、学習も自発的にがんばることができます。もちろん、十年以上先の未来をリアルに描いて、今をがんばれる子たちばかりではありません。

そんなときは、日々の「学習」を目的化することも可能です。昨日、できなかったこと、苦戦していたことが、楽勝でできるようになることです。

学習の目的はこれにつきると思います。「昨日より一つ成長する」ということ。

今、学習している分数計算とか平面図形の問題が、将来何に役立つのか? って考えると、逃げるための言い訳の余地がたくさんあります。
そうではなく、目の前の大事だと言われているが、なかなかに手強い課題を習得できる自分になっていく。そのことをくり返すうちに、より難しい課題でも、自分で習得できるようになっていく。
これこそが、学習の「目的」です。そして、学習そのものが目的化したら、内発的動機づけになっています。

親が「内発的動機」を知って、子どもたちが内発的動機によって学習するようになると、大人の想像を凌駕する成果がでることでしょう。

10年以上経った今でも、「内発的動機づけ」の入門書として、万人におすすめしたい良書です。

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