わたしもわたしを
ふと本棚を見ると、6月に相応しい本を見つけたので、久しぶりに読み返してみた。
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くどうれいん著
『わたしを空腹にしないほうがいい』
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一人暮らしをしていた著者のれいんさんが、2016年6月の1ヶ月の食べ物の思い出を、俳句と一緒に綴ったエッセイ。
エッセイの始まりは、
「わたしを空腹にしないほうがいい。もういい大人なのにお腹がすくとあからさまにむっとして怒り出したり、突然悲しくなってめそめそしたりしてしまう」
という言葉。
私はその箇所を読む度に、友達から、「あんたはほんとに分かりやすい。特にお腹が空いてるときと眠いときは急に無口になるし顔が死んでる」と言われたことを思い出し、うんうんと頷きながら、「私も『もういい大人』と言われる歳になったんだからね」と自分に言い聞かせる。
そして、「もういい大人」と復唱した途端に、背筋がひやっとする。
嬉しくても、悲しくても、楽しくても、「生きているだけでお腹がすいてしまう」という事実に、
れいんさんの経験と言葉が添えられれば、そこには切なさが残る。
けれどその切なさは絶望の意味ではなく、
切なさの雫の淵がキラリと光り、
透明でぼやけた世界に一筋の光が現れたような、
そんな、一瞬の希望を伴っている。
給食で浅いカップに入ったシャリシャリの七夕ゼリーも、ベランダで「乾杯!」と完敗した1人酒も、角煮を食べながら夕立の音を聞くだけの電話も、かつての恋人とのご当地ソフトクリームも、
れいんさんが紡ぐ6月の嬉しさや悲しさ、寂しさ、慰めは、どこか湿り気を纏い、じめっとしながらも瑞々しい。
言葉をたどるだけで、「マンガみたいな顔で食べる」れいんさんが私の脳内に居座って、笑顔でもぐもぐしている。
そして、れいんさんにとっての「菜箸」
それは、空腹では上手く歩めない人生において必須のツールであり、れいんさんの人生のパートナーなのだろう。
この短いエッセイ集を読み終えて本を閉じた頃、なんだかうずうずしてくる。
あ〜お腹が空いたな。
そうだ、わたしもそちら側の人間だ。
わたしも「わたしを空腹にしないほうがいい」
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