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摂食・嚥下チームアシスタントレポートVol.11 「姿勢と嚥下」〜基礎編〜骨盤と股関節のみかた 座位での重心移動

はじめに

 摂食嚥下チームアシスタントレポートにお越しいただき誠にありがとうございます。前回は姿勢と嚥下の繋がりを評価できるために基礎編として立位での姿勢のみかたをお伝えしました。姿勢には筋緊張の評価が必要です。見るべきポイントは、重心・支持基底面・床反力の関係性とアライメント評価でしたね。臨床場面では重心と支持基底面の関係を変化させるとどのように筋緊張やアライメントが変化するかを常に感じていくことが大切です。今回は座位姿勢での骨盤と股関節をみていきます。

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前回のレポートはこちら⬇

1.食事姿勢をみるときの視点

嚥下と姿勢のための座位

 座位での姿勢と嚥下の関係性についての評価を食事姿勢から考えていきたいと思います。
一般的に座位というとシーティングで②の抗重力伸展座位を設定することが多いと思います。これは骨盤前傾、腰椎伸展、肩甲骨内転・下制、頭部が身体の上にあるような直立的な抗重力伸展位です。しかし、食事の取り込み時には従重力活動の必要な少し顎を引き体幹が屈曲した前傾座位になります。重心を保持しながらゆっくりと身体を前傾させていく難しい姿勢になります。

この時、重心移動に伴って多裂筋・腹筋群・大腿直筋・腸腰筋・前脛骨筋などの筋緊張の変化を評価していくことが大切です。
①車椅子では骨盤が後傾して脊柱が屈曲する重心が低い位置から、②骨盤が前傾していき重心が上がる抗重力伸展位を経て、③更に前傾するための従重力活動が必要になります。このような骨盤の前後傾の動きの中で重心や支持基底面、筋緊張がどのように変化するのかを評価していきます。

そのために今回は、2つの関節の動きを評価していきます。
①骨盤前傾・後傾
②股関節屈曲・内外旋

2.骨盤の前後傾評価

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骨盤が前傾すると腰椎が伸展し、重心が上がります。また、骨盤が後傾すると腰椎は屈曲し重心が下がります。さらに骨盤前後傾には仙腸関節・腸骨・腰椎・股関節の運動学が関係します。今回は仙腸関節を中心に骨盤の前後傾を評価していきます。

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骨盤の前後傾を評価するには
①上後腸骨棘(腸骨綾の後縁にある突起部)
②上前腸骨棘(腸骨綾の前縁にある突起部)の位置関係を評価することでわかります。
通常、骨盤中間位では上後腸骨棘が約2横指上に位置しています。
・上後腸骨棘の方が上前腸骨棘より下にあれば骨盤は後傾している。
・上前腸骨棘の左右の高さを見て、高い方が後傾しており骨盤が後方へ回旋している。

仙腸関節の運動学

仙腸関節は仙骨と2つの腸骨からなる関節です。成人での運動の大きさは、比較的小さく1〜4°の回旋、1〜2mmの並進と言われており実際の測定は困難です。仙腸関節の動きに関する用語は様々提案されていますが、代表的な用語として図のような「前屈(うなづき)運動」と後屈(起き上がり)運動」という2語がよく使われています。

3.骨盤介入の仕方

骨盤介入の仕方

〈立ち位置のポイント〉
まず骨盤の介助の仕方として、セラピストは前方の正中に立ち、左右対象に骨盤を持つことが大切です。立ち位置がズレると骨盤を誘導しにくくなります。自分の体を固定・誘導しやすい姿勢をとり、骨盤の前後傾や左右差を評価していきます。

骨盤介入の仕方②

骨盤の前後傾は立位同様、お互いの上半身重心(TH7)と支持基底面の変化を意識しながら誘導していきます。骨盤前傾位では骨盤を起こすことを意識してしまうと頭頸部と体幹とともに前方へ傾き重心を保てず前に倒れてきてしまいます。
大切なのは、セラピストの上肢や前胸部で足底に荷重をかけながら、お互いの筋緊張を高めることで重心を上げる方向へ誘導していくことです。そうすると自然と骨盤が前傾していきます。
骨盤後傾もセラピストの手をゆるめたり、骨盤を後方に押して骨盤を後傾させるのではありません。この時も大切なのは坐骨や足底の支持基底面に荷重をかけつつ、お互いの筋緊張を抜かないようにゆっくりと後傾に誘導していくことです。

4.股関節介入の仕方

皆さんは大転子を把持できますか?座位姿勢時に大転子を前から把持します。

大転子①

下の画像は左右差を見て、股関節が内旋していると骨盤は前傾しやすいので大転子は上の方にあります。また股関節が外旋していると大転子は下の方にあります。
麻痺のある人は麻痺側の骨盤が後傾しやすく、上前腸骨棘が後下方・股関節は外旋位となりやすいです。

大転子②

開始姿勢を見てアライメントがどのようになっているか予測・イメージすることが大事です。
大転子の位置から足部まで考えてみます。健常者は股関節を内旋させることで臼蓋に大腿骨頭がはまり込み、骨盤も前傾してきます。

大転子③

★ちょっとセルフエクササイズ
まずは自分で骨盤前後傾をやってみて重心が移動するのを感じてみましょう。支持基底面の中での重心の変化を感じますか?

★次に健常者で練習してみましょう。実際に動かそうとされている方も自分の骨盤が動くのがわかりますし、重心が移動するのを感じることができると思うのでお互いにフィードバックしましょう。

5.実技のアドバイス

実技アドバイス

繰り返しますが、姿勢をみる時に筋緊張を保つことが大前提です。この筋緊張を保つことができる姿勢づくりが、安定した嚥下をするための姿勢に繋がります。患者様だけでなくセラピストの筋緊張を高め、保持することが重要です。

<骨盤が前傾してこないケースの仮説検証>
⚫︎骨盤が重い場合→もう少し足底へ荷重量を増やすと前面筋(腸腰筋・大腿四頭筋)が働きやすくなるのではないか?
⚫︎荷重を増やしても骨盤が硬くて動かない場合→骨盤の前後傾や股関節の可動性に問題があるのではないか?
⚫︎股関節前方付け根につまりがある場合→腸腰筋・大腿直筋の制限があるのではないか?
⚫︎骨盤が重く、上部体幹が前傾してこない場合→胸郭から誘導すると前傾しやすくなるか?
⚫︎低緊張が原因の場合→腹圧を高めるとどうか?具体的には、腹圧が抜けている部分を両手でパック(固定)しながら腹圧が抜けない範囲で骨盤・体幹の前後傾を促し腹圧(筋緊張)を高めていきます。他には腹圧をキープした状態で立ち座りを10回程度行うなどして緊張を高めていく方法もあります。
⚫︎骨盤後傾に誘導しにくい場合→坐骨や足底のどちらに荷重をかけながら誘導すると後傾しやすいか?を考えながら、お互いの筋緊張を抜かないように誘導していきます。

介入例

腕が届かなくて誘導しにくい場合は、肋骨を大腿に引っかけて(クッションを用いて)足底への荷重を誘導しながら骨盤を誘導する方法もあります。

まとめ

 今回は座位を見るポイントとして骨盤と股関節を診ていきました。骨盤が前傾すると抗重力座位で重心が上がりやすく、抗重力位伸展座位になります。逆に骨盤が後傾する脊柱が屈曲しやすく重心が下がります。骨盤前傾に問題があるのか?股関節屈曲に問題があるのか?など誘導していく中で評価をしていきます。支持基底面と重心を変えながら筋緊張の変化を意識し、介入後の食事姿勢や嚥下機能、摂取時間や摂取量などを評価する練習を日々重ねていくことで、無意識に喉との関連もみていけるようになってきます。
また、患者様が一口でも多く食事を取れるよう、実際の食事場面を見る機会が増えると幸いです。

おわりに

 これからも解剖学や運動学、実技だけではなく、臨床で必要な思考過程も含めて共有させていただきます。同じ嚥下障害に悩む患者様を担当されているセラピストの皆さんに一人でも多く知っていただき、一緒に嚥下障害を治療していく仲間が増えることを私達摂食嚥下チーム一同願っております。また一人でも多くの皆さんに知っていただけるよう、私達の活動を応援していただけると幸いです。今後も摂食・嚥下アシスタントレポートを宜しくお願い致します。


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