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【東大生からテレビ記者に質問③】「人々に興味を持ってもらうために工夫していることは何でしょうか?」

たとえば「平成最後の○○」と死んでも言わないことです。死んでも。
なぜなら、もし言ってしまったら「死んじゃう」からです。

「誰でも言いそうなこと、誰が言ったのか特定できないこと」を言う人は、そうすることを通じて自分が「いてもいなくても大勢に影響がない人間」(中略)であることを自己申告しています。(内田樹)

恐ろしいことです。雰囲気に流されて軽いノリで口にした言葉のせいで、自分が少しずつ消えていきます。つまり、僕が私淑する内田先生の上記の指摘を裏返せば、それが東大生の質問への答えになります。「『みんなが言わなさそうなこと』を言うことで自分は『誰かにとって必要な人間』になれる」ということです。

では、具体的にテレビ記者として「みんなが言わなさそうなこと」とは何でしょうか?それを考えるヒントとして、SNS上で「みんなが言わなさそうなこと」をつぶやくために僕が気を付けている<指針>を以下に挙げてみます。
①言い回しで遊ぶ。
②悪口で締めない。
③どうか恥ずかしくあれ。
④五感に訴えればなお良し。
⑤難解は難解のまま挑むべし。
さて、この中にテレビ記者として「みんなが言わなさそうなこと」を言うために役立ちそうな項目はあるでしょうか?

…ありました!見つけた気がします。
⑤です。<難解は難解のまま挑むべし>、これからのテレビ記者にとって、活かせそうな気がします!

テレビ局の多くの制作現場では<難解>は嫌がられます。
しかも記者や番組制作をしていると「わかりやすく伝える」ことを時々強要されます。本当に失礼な話です、テレビを見てくれている人たちに対して。「わかりやすく伝える」という考え方には、ふたつの問題点が潜んでいます。

①本来複雑な事実を「わかりやすく」改竄している点。
これは恐ろしいです。取材前に想定した「わかりやすいストーリー」に悪気なく事実を当てはめようとしますから。
②テレビ記者の方が「わかりやすく」伝える能力があると勘違いしている点。
当事者でも専門家でもないテレビ記者は、物事を「わかりやすく伝える」権利も能力もありません。

記者にだけできることは限られています。ニュースの現場で大量の情報を浴びた記者にだけできること。
それは「くわしく伝える」ことです。
言い換えると現場で取材した事実を、<できるだけ変えず>に、<できるだけ大量>に、<できるだけ多様>に原稿に入れることです。たとえば「商品の管理体制に甘さがあったとみられ、」という原稿があったとして、<できるだけ変えず>原稿でしたら「会見で社長は『商品開発を急いでいて、物作りへの意識が低かった』と述べ、」となります。

しかし、テレビ記者は困りました。「くわしく伝えたい!」のですが、ニュースの尺(時間)が足りません。ひとつのニュースが50秒だったりします。
そこで⑤の<難解は難解のまま挑むべし>です。
東大生さん、ごめんなさい。これはまだ「人々に興味を持ってもらうため」の僕からの提案であり、努力目標だったりします。でも、結構本気です。解説系の情報・バラエティ番組があふれて、ネット検索が日常化した今こそ、テレビ記者が<難解さ>を武器にして「みんなが言わなさそうなこと」を言える最大のチャンスが訪れています。

ニュース原稿だけは、尺や文字数を食う、用語解説や平易な言い回しは止めて、<難解な事実>を「くわしく伝える」ために、現場そのままの<難解な言葉>を多用する、のはいかがでしょうか?
簡単な言葉に置き換えてわかりやすく伝えようとするよりも、「みんなが言わなさそうな」<難解な言葉>で事実を語った方が、人々がより真剣に興味を持ってくれると思いますし、そのニュースで困っている人の切実な温度感をくわしく届けられる、そう思うのです。

…とは提案したものの、<難解>な原稿、うまく書けるかな。そして番組のチェックをうまく通過して放送されるかな。でも明日から、ちょっとずつ仕掛けてみようと思います。