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お菓子がファッションの領域に入っていることを認識しているか(1)

当店は連日、老若男女さまざまなお客様にご来店頂いている。僕はこの場所に店を作り、ドアを設けた時点で、そのドアは全ての人に等しく開かれているべきだと考えており、世界中から全てのお客様を心から歓迎している。

一部の若いお客様は、当店に到着するとまず外からファサードをパシャリとスマホで写真をとり、店内に入ると、ショーケースや陳列台をパシャリ、購入後はベンチでショッパーをパシャリ、中からお菓子を手に取ってパシャリ、というような様子。うちは店内の撮影は全然問題なく、お好きにどうぞというスタンス。ほとんどのお客様は礼儀正しく撮影許可をスタッフに尋ねてから写真を撮られる。なお、良い。素晴らしい。それをSNSにあげてお客様目線で自由にクチコミ宣伝してくれているのだから、ありがたい話だ。他のお客様にさえ迷惑が掛からなければ、心ゆくまで楽しんで頂ければいいと思っている。

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スマホ登場からのSNS普及、で現代人はSNSを舞台に承認欲求を満たしている。いつの時代も他人より優越感を感じたい、自分のことをもっと他人に知ってもらいたい、センスが良いとか素敵な人だと思ってもらいたい、という気持ちは存在する。おそらく普遍的な欲求だと思う。一昔前はそれを満たすためのアイテムが、ハイブランドのバッグや財布、ジュエリー、時計や車が主流だったのかもしれないが、今の若者は不景気な時代しか知らないこともあって、コスト意識がとても高く、堅実でお金にシビアな人が多いので、それらはもはや適していない。スマホの画面上で、自分のアカウントに投稿する一枚の写真が自分の「センスや感度」をドヤるアイテムになっている。その一枚の写真には流行りのコーヒースタンドのカップもあれば、夕暮れの景色が美しい屋上のバーカウンターに並ぶカクテルもあれば、バターサンドが話題の焼き菓子屋のショッパーもあるのだ。コーヒーもカクテルも焼き菓子もバッグや時計や車に比べるとコストは何万分の一だが、写真にしてしまうと、無料のアプリの同じ一枚の写真に過ぎない。コストの圧縮が凄まじく加速している。必死でお金を貯めてエディ・スリマンのCELINEのバッグを買うことより、流行りの飲食店にいち早く足を運んで、カフェ・ラテの写真を載せて、その感度やセンスを認知させることのほうが、圧倒的にコスパは安く、また更新頻度も高くできる。今の若者は非常にバランス感覚がよく賢いなと思う。つまり、これはファッションだ。何もファッションは服やアクセサリーだけではない。人がクールだ、人がおしゃれだと思う、これが最新の価値観(=MODE)だと思わせることがファッションだとしたら、お菓子も今やファッションとしてこの時流に対峙しなければならない領域に存在するのだ。「いや、お菓子は味だ。ファッションなんて上辺だ。」という気持ちも持つことも理解できるが、もちろん、味は大前提の上での話で、より高度で複雑な話だ。現代人は欲張りなのだ。

それに、味だけに興味があるお客様、ファッション性がきっかけになるお客様はそれぞれやはり異なる。そのどちらかだけではなく、どちらも満足させたいと僕は思う。当店には初めはファッション的に興味を持って足を運んだけど、味が好きになって、それから何度も通ってくれているお客様もたくさんいる。ただの飲食店になるのか、ファッションのマーケットにも顔を出す飲食店になるのか、では、そのニーズや市場の広がりも僕は全然違うと思っている。その広がりに対応する方法も考えなければならない。

次回は、僕がそんな時流の中で、昨年企画した新商品について具体的に書いてみようと思う。上記の現状を理解し、それぞれのレイヤー毎に仕掛けを組み込んで作った新商品は、今や当店の新しい定番に育っている。

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