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留学と今の仕事への繋がり

2017年7月に留学から日本に帰国してあっという間に3年弱が経とうとしているが、今の自分があるのはあの留学の2年間があったからだと思う。自分は交換留学も含めてシンガポール、米国の3つの学校に通ったがそれぞれで様々な学びがあった。

シンガポール留学への繋がり

留学制度では最初に国を選ばなければいけないのだが、自分はシンガポールを選んだ。理由はアジア経済が成長していく中でそのビジネス環境の変化を知りたかったことと、シンガポール政府の政策について学びたかったからだ。シンガポールに最初に関心を持ったのは2008年に入省した際に所属していた部署での経験だ。法人税制を取り扱う部署で、日本の法人税率が他国に比べても非常に高いことがイシューとなっており、海外の法人税制の調査等を行なっていた。その中でもシンガポールの法人実効税率は当時日本の半分20%程度で関心を引いた。調べていくとEDB(経済開発庁)は対内直接投資を行う企業に対して10年間法人税無税などの恩典を与え、多国籍企業の投資を引っ張り、アジアのビジネスハブの地位を築こうとしていた。日本以上に資源のない国において他国企業のリソースを最大限に用いて経済を牽引する経済政策のあり方に、日本の自国企業中心の考え方とは全く違う方向性を感じた。

その部署の後、自分はエネルギー行政を中心に携わるのだが、ITスタートアップを中心としたイノベーションや経済の牽引が進む中で、政府としてどのようなことができるのか関心を持っていた。日本のスタートアップのグローバル化をサポートするには、アジアのスタートアップエコシステムと繋ぐことに意義があるのではないかという仮説を持っており、その中でシンガポールがひとつのハブになることが予測された。自分は留学を通じてその実態を学ぶとともに、シンガポール政府や現地コミュニティとの繋がりを作れれば仕事にも行かせるのではないかと考え、シンガポールを留学先として選択したのだ。しかし、後述するが留学してシンガポールで生活、勉強する中で自分の関心は日本政府のあり方自体に移ることになる。

3つの大学院

自分は2年間の留学中に3つの学校に通った。シンガポール国立大学(NUS)のMBA、同じくNUSの公共政策大学院であるLKY School of Public Policy(LKYSPP)、さらに交換留学でハーバードケネディスクール(HKS)で1学期間フェローとして学んだ。
そもそも民間企業で働いたことがない自分はまずマネジメントの基本的な考え方を学べるという点、これからアジア経済を支えていくであろうビジネスサイドの人脈を広げたいといった観点からMBAを選択した。
2年間留学が許される中で時間を最大限に有効に使いたいと考え、1年半のMBAのプログラムを1年に圧縮して終え、2年目にLKYschoolに入学した。一方で自分は入省前に日本の公共政策大学院を修了していたため、こちらではより幅広い体験をすることに軸を置き、シニアレベルの行政官向けのMaster of Public Managementのコースに入れてもらった。(現在プログラム終了)このプログラムの利点はいくつかあるが、1学期間ハーバードケネディスクールでフェローとして学べる点が魅力だった。つまり1つのプログラムでシンガポールと米国両方の授業を受けられるのだ。
以下この3つの大学院で特に自分の学びに繋がった点について述べたい。

NUS MBA

https://mba.nus.edu.sg/

MBAで一番勉強になったのはGo out of your comfort zone(自分の快適な領域から飛び出す)の姿勢、リーダーシップを自分で取りにいく姿勢だ。これらはどんなMBAでも最初に共通に身に着けることを求められると思うが、NUSMBAでは入学最初のブートキャンプやインテンシブモジュールでこれが叩き込まれる。これまでそれぞれの国の固有のカルチャーで働いてきた学生が互いのカルチャーの違いを許容し、その中でリーダーシップを取ることはグローバルビジネスを行う上で共通に求められるマインドセットだろう。 失敗できるのはこの学生の間だけなのだからどんどん新しいことにチャレンジすることが奨励されていた。
ネットワーキングもどのMBAでも当然のように行われているだろうが大変勉強になった。就職活動上のみならず、ビジネス上の人脈形成や自分の人生を考える観点からそういった機会を持ち、出会いが人生や、仕事の幅を広げてくれるといった考え方は、帰国後の自分のスタンスにも活かされている。
シンガポールという土地柄、様々な多国籍企業のオフィスを訪ねたり、Blk71と呼ばれるシンガポールのスタートアップのコワーキングスペースでイベントに参加したりといった経験も幅広いネットワーク形成にに繋がった。
面白かった授業としては、実際にVCのパートナーが起業のプロセスを授業の中で疑似体験させてくれるTechnopreneurship、アジア各国の歴史から各国のビジネス環境を紐解くAsian Business Environment、中国市場での現代マーケティングについて学ぶMarketing in China、特定の企業の事業戦略を分析し、TVのニュース風のビデオにまとめて発表するストラテジーのクラスなどだ。また実際に現地企業の新規ビジネスの中国展開に関するリサーチをチームで行うプロジェクトもあった。
また学校がアジアフォーカスを掲げていることもあり、モジュールの中で取り扱われるビジネスケースは、多国籍企業のアジア展開、アジア企業の直面する課題などが中心に取り上げられていることも特徴だった。トヨタ生産方式やヤマトの運送オペレーションのケースがあったり、任天堂、ソニーなどの事業戦略についても他の企業と並べて批判的に他国の学生からも論じられていた。NUSMBAではこういった日本企業のビジネスについても客観的に分析されており、日本の大企業現地法人の幹部や、本社の経営陣などにこそ聞いて欲しいような内容も多かった。

LKY School of Public Policy

https://lkyspp.nus.edu.sg/

LKY Schoolが特に恵まれているのは、シンガポールの急速な経済成長をもたらした過去の行政官たちが実際に教鞭を執っていることだ。シンガポールの経済政策の変遷を教える授業では、リー・クワンユーの首席秘書官をやっていた人物が実際に授業をして、実際にどのようなことを考えて政策を進めていったのかが語られ、その社会背景も含めて学ぶことができた。現在の学校のボードメンバーにはリークワンユーから首相を引き継いだゴー・チョクトンが就いていることからも、国としてシンガポールの政策フレームワークをアジア・世界に発信する機能としてLKYSchoolを位置付けていると考えられる。また、世界各国の行政組織、NPOを出身とする学生が集まっており、修了後も公私に渡り繋がっており、アジアを中心とした行政官のネットワーキング機能を果たしている。
またその他の授業もいわゆるアカデミックな経済学や行政学に止まらず、データサイエンスの行政における活用の方向性や、ワークショップ形式での柔軟な政策立案プロセス、デザイン思考、未来シナリオプランニングなど、新しいコンセプトの行政への適用に関する授業も多く勉強になった。これらの新しい考え方は、シンガポール政府も実際に政策の中で取り入れていることが生活の中でもわかった。また、プログラムの中で実際にシンガポールの行政機関に2週間席を置かせてもらい、色々と話を伺うことができたことも彼らのワークスタイルを知る上で良い経験となった。

Harvard Kennedy School

ハーバードではAsh centerという政策イノベーションを研究する機関があり、そのフェローとして1学期間ケネディースクールのモジュールを取ることができた。ケネディスクールのメリットは授業の他にも様々な分野の著名人が来てセミナーが行われることだ。またMITも近くそちらのセミナーなどにも顔を出しやすい。授業は学生にエッセンスを学ばせる方法論が確立しているという印象を受けた。様々なバックグラウンドをもつ生徒が授業に参加する中で教師が議論をうまくファシリテートし、授業の中で学生への学びに効率的に昇華させていく点が特に優れていた。
自分はUrban Innovation, Behavioral Science, Disrupting Beaurocracyなどの授業を取った。関心としてはデータサイエンス、行動経済学、デジタルガバメントなどであり、そもそも政府自体をどうやってアップデートできるかという視点に立った授業を多く取った。そのきっかけもシンガポール滞在時に政府のスマートネーションイニシアティブが立ち上がり、次々とデジタルガバメントに向けた取組が加速していたのを目の当たりにしていたからだ。
Urban Innovationでは都市政策の中でどのような形で新しいテクノロジーが活用できるのかが議論され、NYCのデータサイエンスのチームなどもゲストで講義をしてくれ、最終的にはテクノロジーで公共サービスのプロセスを如何に変えられるかをレポートでまとめた。
Behavioral Scienceの授業は様々な行動経済学の事例が議論され、最終的には自分たちでこれを応用した施策をプレゼンテーションした。
Disrupting  Bureaucracyではデジタルガバメントを実現するためにどのようなチェンジマネジメントが行われたのか、エストニア、UK、シンガポール、カナダのオンタリオ州など様々な国の担当当事者がゲストで参加し、実体験を語ってもらいながら議論した。課題は自分の国でデジタル化のイニシアティブを取るとすればどのような取組が可能なのか自己紹介ウェブページを作り、ブログにまとめて発表するというものだった。この授業が自分の今の仕事に取り組みたいと思った原体験になっている。

3つの大学院で自分が考えたこと

2年間を通じて考えたのは自分の人生は自分のものだということだ。様々な国、バックグラウンドの人と出会う中でもっと自分で主体的にやりたいことを選んでいいと思えるようになった。自分で声をあげ、リーダーシップを取ることで世の中を変えていくことはできるという思いを強くした。
行政機関にいるからこそ変えられるものもある。それは行政のあり方そのものではないかということだ。様々な産業がディスラプトされていく中で、なぜ行政だけがその例外たりえるのだろうか。行政こそがテクノロジーでディスラプトされるべき存在ではないか。
エストニアの電子政府はソ連独立からの経緯があるが、シンガポールのスマートネーションは明らかに政府もITスタートアップのように変わらなければいけないという首相の意思がそこにある。それは行政サービスこそが使いやすい形になっていなければ市民が基本的な生活を送れない、国際的なスキル人材の集積においてもマイナスであると判断しているからだ。実際に滞在している間にもどんどん新しい政策が導入され、デジタル化が進められていくシンガポール政府を見て、このようなスピード感で行政自体も変えていくことを進めなければいけないと強く思った。行政が非効率な組織であり、行政サービスが「お役所仕事」であるという固定概念を覆すことこそ、社会に最も大きなインパクトを与えるディスラプトだろう。ピーター・ティールの「賛成する人がほとんどいない、大切な真実は何だろう。」という質問に対して答えるならば、「政府はデジタルテクノロジーで置き換えられる。」といったところだろうか。2年間の学びの旅の終着点が、自分の現在地に繋がっている。

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