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農家・漁師という“名もなき中村哲”|47キャラバン#8@栃木

私は、東日本大震災を機に、食のつくり手を特集した情報誌と食べものがセットで届く「食べる通信」と、生産者と直接やり取りをしながら旬の食材を買えるプラットフォーム「ポケットマルシェ」を立ち上げた。東日本大震災から10年の節目を迎える来年の3.11に向けて、改めて人間とは何かを問うため、47都道府県を行脚することにした。
これは、その「REIWA47キャラバン」のレポートである。

家業を継ぐ意味

 益子焼で有名な陶芸の町、栃木県益子町で養鶏業を営んでいる「薄羽養鶏場」の代表、薄羽哲哉さんが突然、私のツイートに絡んできた。栃木の会場から、翌日に開催される茨城の会場に向かう途中に益子町があるので、是非、養鶏場に立ち寄ってほしいと。こちらの移動経路を読んだ上で自ら視察受け入れを名乗り出てくれた。

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 子どものころは、親が養鶏農家をしているのが恥ずかしかったという。クラスにも農家は数人しかいなかった。この手の話は全国各地で昔からよく聞く。人間、食べなければ生きていけない。その人間が生きていく上で最も大切な食べ物をつくるという尊い仕事をしているのに、なぜ、子どもたちは親の仕事を恥ずかしいと感じるのだろうか。

 薄羽さんは稼業に背を向け、イギリスの大学院でマーケテイングを学び、都内でサラリーマンをしていた。しかし、年老いた親がいよいよ廃業するとなって、子どもながらに親が苦労しながらがんばっている姿を見て育った薄羽さんの中に、「このまま終わってしまっていいのか?」という逡巡が生まれた。そして考えた末に、脱サラして、家業を継ぐことにした。決して合理的な判断ではなかっただろう。しかし、そこには「意味」があったはずだ。

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 養鶏場の歴史やこれからの展望について話を聞き、薄羽さんを質問責め。僕は初対面でも構わずガンガン相手の懐に入っていく。特技かもしれない。

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 一通り説明を受けたあと、「今年の猛暑はひどい。暑さで鶏がたくさん死んでしまった」と、ある資料を見せてくれた。

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 これは、養鶏場がある益子町の近隣にある真岡市の過去30年間における8月の気温の推移。ご覧の通り、明らかに気温が上昇している。人間も猛暑による熱中症で死ぬように、鶏も影響を免れない。今夏、飼育している1万羽の鶏のうち、約400羽が暑さで死亡した。30年前に暑さで鶏が死ぬことなどなかったという。また、暑さによって鶏の食欲が落ち、卵のサイズが規格で1~2サイズダウンした。

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 日本の養鶏場では一般的なゲージを積み上げて飼うやり方は、鶏にストレスがかかるのでやらない。複数段の積み上げでない一段ゲージ飼育の他に、運動して健康的に育てるために、薄羽養鶏場では平飼いもしている。ちなみに平飼いは、国内で流通する卵の5%しかない。

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 平飼いの他に、餌にもこだわっている。毎日、鶏の様子を観察し、微妙な変化を逃さない。カルシウム不足で卵の殻がざらついたり、糞が水っぽかったりする微妙な変化を見逃さない。毎日同じ配合飼料を与えるのではなく、鶏の変化に合わせて、ホタテの殻や牡蠣殻、海藻粉末、ヨモギの粉末などを合わせて与えることで、鶏の健康状態を保つ努力を惜しまない。

 その分だけ手間や費用はかさむが、食べる人のことを考えたらその方が断然いいという確固たる信念が薄羽さんにはある。直売所を通じて、お客さんから「ここの卵ならアレルギー持ちのうちの子どもでも食べられる」との声を直接聞いてきたことが大ききい。

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 これが薄羽養鶏場でストレスなく育った鶏たちが産んだ卵たち。うーん、見た目だけでは、スーパーで売ってる卵との違いがよくわからない、、、

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 「食べてみれば違いがわかる」と3つの卵が割られた。1つ目は、スーパーで買ってきたという市販の卵。2つ目は、薄羽養鶏場のゲージで育てている鶏の卵。3つ目は、平飼いですくすく育てられている鶏の卵。卵の殻だと分からなかったが、中身は見た目から違いがわかる。左上が市販の卵。下が薄羽養鶏場の卵。黄身の色がまったく異なるのがお分かりだろうか?

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 いざ実食!最初に市販の卵。ふむふむ。いつも食べてる卵の味。次に、ゲージの卵。おっ、味が濃いぞ。最後に、平飼いの卵。むむっ。超濃厚。そして、まったく臭みがない!

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 直売所の片隅に、薄羽さんが小学生のときから使っていたという勉強机があった。今は、物置になっているのだが、自分が子どものときに使っていた勉強机が違うカタチで大人になった自分の仕事場で活かされるのはどんな気分だろうか。薄羽さんのこの表情が物語っているような気がする。

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 薄羽さんの渾身の卵、一度ご賞味あれ。

棚田で生まれ、育ち、死ぬ

 さて、今夜の車座会場は、栃木県日光市の山奥にある小さな集落。どうしても来たかったところだ。その理由は、この出迎えてくれた子どもたちのお父さんが守ろうとしている故郷をどうしても見たかったから。

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 八木澤ファームの八木澤裕史さん。サングラスをして見た目は怖いあんちゃんだが、心の優しい男である。子どものころ、稼業の農業はやりたくなくて、看護師になった。ところが、休日に親の農作業を手伝っているとき、農業を本業でやっているのが高齢者だけという現状に気づいた。耕作放棄地もどんどん増えていく。美味しい作物を与えてくれる大地が荒れ果てていくのを黙って見てるわけにいかないと思った。祖父たちが血のにじむような思いで苦労して手作業でつくった棚田が荒れ果てていくことも放っておけないと思った。他に若いやつが誰もやらないなら自分でやるしかない。そんな義憤に駆り立てられ、就農。昼は農業をやり、夜は看護師という二足の草鞋を履きながら、3人の子どもを奥さんと二人三脚で育てている。

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 八木澤さんを見ていると、思い出す人がいる。「誰かがやらなければいけないのに誰もやろうとしないから自分がやる」。アフガニスタンで亡くなった医師、中村哲さんの口癖だった。僕の故郷の花巻に講演に来てくれたときも、何度もそのことを言っていた。最近、僕は思う。日本の地方にも、農家・漁師という“名もなき中村哲”がたくさんいるじゃないかと。自ら水路を掘る先頭に立ち、アフガニスタンの食の土台を支えた中村さんは、アフガニスタン人にリスペクトされるヒーローだった。僕は、私たちの食を根底で支えている生産者たちもみんなヒーローになる世の中をつくりたい。そう思わせる人柄と行動が、八木澤さんにはある。だから、彼が守ろうとしている郷土を一度この目で見たかったのだ。

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 キャラバン講演スタート。こんな環境で講演できるなんて、なかなかに爽快である。しかし、足がやぶ蚊に刺されるは、ヒルに食われるはで、痒いのなんの。それでも集中力が高まるにつれ、次第に気にならなくなった。

 47キャラバン栃木の会場探しを八木澤さんに依頼したとき、「うちの棚田でやろう」と提案を受けたときはうれしかった。ポケマルのスタッフは「雨が降ったらどうします?」と心配したが、「そのときはそのときでずぶ濡れになってやろう。農家だって雨の日も関係なく外で働いているんだから」と答えた。

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 みなさん、真剣な眼差しで聞いてくれる。講演も熱を帯びる。

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 参加者の多くは、栃木県内の八木澤さんの農家仲間たち。八木澤さんに声をかけられ、はるばる日光の山奥までやってきてくれた。

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 日が暮れる。暗闇の中で、発電機に照らされながら、話し続ける。ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴーーーー。発電機の音がうるさい。その音に負けないように話さないと聴衆に聞こえないので、最初から最後までほぼ絶叫状態で1時間半。最後は意識が朦朧としてきた。汗もたくさんかいた。虫に刺された足ははれ上がった。

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 質疑の時間。八木澤さんのお父さんが立ち上がる。「高橋さんにわざわざこんなところまで来てもらった。こんなに大勢の息子の仲間たちも集まってくれ、自分の息子を誇りに思う。お金も大事だが、もっと大事なのは仲間だ。その仲間たちと助け合って、ここまで生きてこれた。お金があっても仲間がいなかったら寂しい人生だし、お金はあの世に持っていけないからね」。息子の前で息子を誇りに思うと言える親がどれだけいるだろうか。しかも公衆の面前で。人間関係が希薄になっていく世の中にあって、久しぶりに人間臭い、あまりにも人間臭い世界に触れた思いがし、心が揺さぶられた。

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 懇親会は、八木澤さんの自宅の敷地にあるガレージで。

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 八木澤さんのご両親、奥様とじっくり語り合う。八木澤さんがいかにご家族を大事にしているのかがよく伝わってきた。

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 夜も更ける。しかし誰も帰らない。都会の飲み会と違って、スマホを見ている人もほとんどいない。みな、目の前の人間とちゃんと向き合っている。

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 メイン料理は鹿肉のBBQ。今朝さばいたばかりで鮮度抜群。ビールが進むこと。心が洗われたキャラバンだった。

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各種リンク

▼「REIWA47キャラバン」について

▼これまでのキャラバンの様子はこちら


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ポケットマルシェ CEO / 東北食べる通信 編集長 / 日本食べる通信リーグ 代表 / 岩手県議を経て、2011年岩手県知事選に出馬し、討死。事業家に転身。2019年2月カンブリア宮殿出演。著者に『都市と地方をかきまぜる』、『人口減社会の未来学』など。岩手県花巻市出身。44歳。

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