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【建築】さすが名門校! フィリップス・エクセター・アカデミー図書館(ルイス・カーン)

日常から離れることの出来る"旅行"。そこには、限られた日数の中でスケジュールを詰め込む人とノンビリ過ごす人の2種類がいる。私は前者だ。
ある時、ボストンを旅行中に難しい選択を迫られた。フィリップス・エクセター・アカデミー図書館か、ホエールウォッチングかである。もちろん両方行きたかったのだが、タイトなスケジュールの中ではどう調整しても難しかった。悩んだ末、私はフィリップス・エクセター・アカデミー図書館を選択した。




フィリップス・エクセター・アカデミーは、1781年に創設されたボーディングスクール(寄宿制学校)である。マーク・ザッカーバーグなど著名な卒業生も多く、進学先もハーバード、MIT、プリンストン、イェールといった名門大学が並ぶ。

キャンパスはボストンから電車で約1時間のニューハンプシャー州エクセターにあるのだが、その広さは何と2.7平方km以上! 皇居よりも日本の大学よりも広いのである。私立とはいえ学生数1,000人余りの高校ですよ。ほとんど街である。

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校舎もまるでアイビー・リーグの大学のようだ!

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ところで、皆さんの卒業した高校に図書”館”はあったろうか?
私の場合、図書”室”はあったが図書”館”はなかった。多分ほとんどの高校はそうだろう。(そもそも図書室にも滅多に行くことはなかったが...)
そこへいくと、図書館をまるごと建てるアメリカのこの名門高校は只者ではない。もちろん蔵書数を含めて、高校の図書館としては世界最大規模である。

只者でないのはそれだけではない。
設計をルイス・カーンに依頼したのだ。ルイス・カーンといえば、最後の巨匠とも呼ばれた建築家である。私も好きな建築家だ。
「高校の図書館の設計を名建築家に?」 普通はそう思うだろう。


その図書館は、周りのジョージアン様式の校舎と調和するように建てられていた。

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濃い赤レンガが印象的である。晴れた日であれば、レンガの赤茶色と芝生の緑色のコントラストが映えたことだろう。残念...。

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名建築家の建物にしてはやや控えめで地味だが、コーナーをスパッと切ったようなデザインが特徴的ではある。


少し建築的な話になるが、この建物の内部の構造はコンクリートであるが、外壁のレンガは見せかけの化粧ではなく、”パネル”のように自立した構造になっている。(下の模型を見てもらうとイメージしやすいかもしれない)
その”パネル感”を強調するために、あえて角を落としているらしい。
このことはもちろん素人の私に読み解けるはずもなく、後で調べて分かったことである。「建築」って難しいですね。

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窓の下半分にはチーク材が組み込まれている。その理由は、後で館内を見学した時に分かる。

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壁や敷石のレンガは、よく見ると数種類の色が組み合わされていた。

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地上階は"回廊"でグルっと囲まれている。
ルイス・カーンの建築には神殿を思わせる要素があり、神殿に回廊は付き物である。この建築にも後で紹介する神殿のような空間があるのだが、既にこの段階でそれを匂わせているのかも?

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この建物は四方どこから見てもはほぼ同じ立面で、エントランスもどこにあるのか分かりにくい。これはカーンの意図であり、エントランスが建物の顔になることを嫌ったためらしい。

そのエントランスもアッサリした普通のデザインだ。ただしこのデザインも、回廊と同様、その後に訪れる素晴らしい空間のためのプロローグに過ぎない。

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中に入ると、コンクリートとトラバーチンの階段が出迎えている。
その階段の先にチラリと見えているのは...

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圧巻!
の一言につきる。言葉はいらない。

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この素晴らしい空間で勉強できるそこの君、羨ましいぞ!

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最もシンプルな幾何学模様である正方形と円。ただそれだけの組合せと十字型のハイサイドライト(天窓)からの光が、神殿のような雰囲気をつくりだしている。

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この円には他にも意味がある。
設計コンセプトの一つに「建物に入った時に、建物の計画をすぐ感じ取ることができるようにすること」という項目があるらしい。その言葉通り、例えばこの円の見え方で、来館者は自分が今何階のどこにいるのかが分かるのだ。

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見下ろせば、勉強している学生たち。

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設計コンセプトには、さらに重要な項目がある。それは「本の収蔵ではなく、本を読む来館者のために重点を置くべきである」ということだ。

実は私、このアトリウムは素晴らしいと思ったが、本当に感銘を受けたのは、窓際に配置された様々な読書スペースなのだ。ここにも言葉はいらない。写真を見るだけでも、ずっとこの場所で本を読んでいたいと思うだろう。

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暖炉もある。

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アアルトの図書館でも居心地の良さを感じたが、カーンとアアルトそれぞれの建築のアプローチは明らかに異なる。
アアルトは天窓を設けることによって部屋の中央部にも自然光を取り入れたが、カーンはあくまでも窓際の自然光に重きを置いている。
ただし結果は同じだ。それは多くの人は本能的に光を好み、光に吸い寄せられ、そこでゆっくりとした時間を過ごしたいと思うことだ。


もちろん読書スペースだけではない。ここは高校なので、自習スペースもある。

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自習スペースは、中2階のある2層構造になっている。

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読書スペースや自習スペースは外観と同じで、暖かみを感じさせるレンガや木による仕上げとなっている。それに対して書架スペースは強度のあるコンクリート造となっており、材質によって空間や機能を切り分けているのだ。
また外から見た時、窓の下半分が木の仕上げになっていたのは、この自習机(carrel)のためだったのだ。


余談だが、カーンは階段も美しく設計する。というか手を抜かない。

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最後に、過去のnote記事でも何度か書いている言葉だが、今回また書こう。
「学生時代、こんな素敵な環境だったら自分もちゃんと勉強していた!」と。

ちなみにここは高校の図書館ではあるが、受付で申し込めば誰でも見学できる。もちろん図書館としての利用も可能である。



ところで冒頭のホエールウォッチング。
そちらに参加した人からは、「船の周りをクジラが何頭もグルグル泳ぎ回って凄かった!」という報告を受けた。
あれから2年。建築好きな私も、ホエールウォッチングに行かなかったことを今でも少し後悔しているのである。

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図書館探訪記


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