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【建築】これは美術館なのか? デポ・ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン(MVRDV)

IKEA サービングボウル
物事を複雑にする必要はありません。いろんな使い方ができるボウル。機能性も、デザインも、飾らずシンプル。ステンレススチール製なのでお手入れが簡単で、 一生ずっと使えます。

IKEA オンラインストアより




オランダのロッテルダム。
第二次世界大戦で焼け野原となったこの街は「規則正しい都市計画」とは無縁で、現代らしくも奇抜でヘンテコなデザインの建物が並んでいる。


それらを設計する筆頭はロッテルダムを拠点とする建築事務所 MVRDV。


そのMVRDVによる注目の美術館、いや美術館ではない"ある施設"がミュージアムパーク(その名の通り、多くの美術館が集まる公園)に誕生した。デポ・ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン / Depot Boijmans Van Beuningenである。



建築家によれば、この形状は、ランチを兼ねた建築デザインのブレインストーミングの時、たまたまテーブルに置かれていたIKEAのボウルにインスパイアされたそうだ。(そう聞くと、屋上の木々はボウルから溢れたレタスに見える)


ボウルの曲がり具合は上部では緩やかだが、足元周りでは大きくなる。


そのため地上レベルはキュッと締められ、高さ40m・延床面積15,500m2という大きな建物の割には、建築面積は比較的小さい。


この建築の特徴は仕上げに使われている鏡面ガラスパネル。1,664枚のパネルには周辺の公園、高層ビルのスカイラインが映し出されているが、これが面白い。


周辺の景観や空との境界も曖昧となり、建築手法は異なるが、SANAAによるルーヴル・ランスを連想させる。


ちなみにこの建物を見た時、シカゴのミレニアムパークにあるアニッシュ・カプーアの作品「Cloud Gate」を思い出した。カプーアらしいフォルムで、継ぎ目が見えない鏡面にはビル街が歪んで映り込んでいる。


デポ・ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲンもこの作品のように継ぎ目のない仕上げを検討したそうだが、あまりにコストがかかりすぎるため、目地のあるパネル工法が採用された。


搬出入用やスタッフ用のバックドアは斜め。


メインエントランスも斜め。


エントランスホールのインテリアは、造形作家で建築家のJohn Körmelingがデザインした。おそらく日本では採用されないであろう色使いだね。


中2階のバルコニーにはメタルグリッドのロッカー、

そしてポップなピンクのロッカーが設置されている。どちらも中が透けて見える。


傍のハンガーラックには白い法被のようなガウンが何十枚もかけられていた。
これが重要なアイテムであるということは、この時私は知る由もなかった。


館内では建物の真ん中をアトリウムが貫いている。こちらのデザインはヴィジュアル・アーティストのMarieke van Diemenが手掛けた。


シンプルな直方体の空間にも関わらず、斜めに交差する階段やガラスのエレベータシャフト、展示ディスプレイとなるガラスのショーケースが重なり合うことで、立体的な迷路の中にいるような感覚に陥ってしまう。


各階にはガラス越しに室内が見える保管庫のような部屋が並ぶ。


そう、この施設は"Depot"という名前が示す通り美術品"保管庫"だったのだ。


一般に美術館は何十万点のコレクションを持っていても、展示面積や作品保護の観点から、実際に展示できるのはほんの一部しかない。

ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館も152,000点以上のコレクションを誇るが、常設で展示されているのはほんの8%ほどだ。しかしこの保管庫が完成したことにより、特殊な手段だが、大部分の作品を可視化することが可能となった。


実はこの保管庫には、一般の来館者も入ることができる。ただし学芸員が同行するガイドツアー(コレクションの維持・管理方法を解説してくれるツアー)に参加する必要がある。

私はツアーに参加しなかった。というよりそのことを知らなかった。
そう言えば館内のあちこちで白い法被のガウンを着た人たちを見かけて、「どこかの宗教団体がグループで観光しているのかな?」と思っていたが、あのガウンはツアー参加者としての目印だったのだ。
それが分ったのは日本に帰国してからである。It is too late !


とは言え、いくつかの作品は保管庫以外でも鑑賞することができる。
アトリウムを中心に、館内の至る所に作品が展示されている。


吊り下げ式のガラスショーケースや、


床下にも作品があって面白い。が、鑑賞の観点からはどうだろう?


展示室もいくつかある。
美術館だから当然だけど、ピーテル・ブリューゲルの「バベルの塔(小バベル)」などの有名な作品も何気なくあって、驚いてしまった。一番手前はミロ。


修復スタジオもある。ツアーに参加すれば解説も聞ける。


将来対応なのかイベント用なのか、空きスペースもあった。建築的にはこちらの方が興味深い。(わざわざこの部屋を見に来る物好きは少なかった)

窓はもちろん斜め。


最後は屋上へ。レストランとなっているが、訪問した時間にはまだオープンしておらず、人も少ない。


白樺など多様な植物が植えられた屋上庭園は気持ち良かった。



ということで今回のこの建築は美術館の裏側、その中でも保管庫を見せるということに特化した施設だった。これは今までにない試みだと思われる。

しかしそうは言っても「普通の美術館みたいにゆったり作品を鑑賞したい」という意見もあるだろう。安心して欲しい。
そもそもボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館は1849年開館の歴史ある美術館だ。現在は長期改修工事中のため閉鎖しているが、数年後(予定では2029年)にはリニューアルオープンし、その時には本来の"展示に特化した美術館"と"保管庫を見せる"という機能を併用した、かつてない体験をさせてくれるだろう。




ロッテルダム近郊にあるMVRDV設計の図書館

周辺の風景に溶け込むルーヴル・ランス


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