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シティポップじゃない日本のポップの大傑作・EPO「ハーモニー」と「私について」

先週の後半、少し体調を崩してしまい寝込んでしまった時に、急にEPOさんの曲が聴きたくなってSpotifyで漁っていた。大学の頃リアルタイムでバンドでコピーした「う・わ・さ・に・な・り・た・い」(1982)や「VITAMIN EPO」(1983)、そして打って変わっての打ち込みサウンドへのアプローチが当時初めて耳にしてとても違和感を憶えた「HI TOUCH-HI TECH」(1984)までのRVCレーベル時代までは揃っていたがそれ以降のアルバムは92年まで飛んでしまう。ちょうどMIDIレコード時代のアルバムはまだストリーミング未配信なんだなと思いAmazonで探したら「ハーモニー」(1985)と「パンプ!パンプ!」(1986)の2枚が紙ジャケ・リマスターで売っていたので購入、さきほど届いてさっそく取り込んで聴いている。リアルタイムで聴いていた気もするがもう若干EPOさんへの興味が薄れていた頃だったかもしれないし、ちょうどその頃は人生最初の分岐点、就職活動で悩んでいた頃でもあったことを思い出す。

EPOさんとほんの少しだけど一緒に仕事をする機会があった。90年代の半ば、大阪の営業所で宣伝の仕事をしているときにEPOさんがレーベルを移籍することになってそのお披露目的なコンベンションを営業所内で開催したことがありその手配を自分が仕切った。当時EPOさんはショーロクラブのメンバーたちとコラボレーションをしていて、その時もリーダーの笹子重治さんがギターのサポートで同行されていた。営業所の一番大きな会議室をテープルで囲み、関西エリアのディーラーさんを招待し、また多数のセールス・スタッフもそこに集まった。EPOさんはその真中でプレゼンを始めた。そして自身のキャリアや次作で予定している音楽のプレゼンテーションを一通り終えるとおもむろにその場で笹子さんのギターをバックに歌い始めた。2曲ほど歌ってくれただろうか。当然PAもマイクもない、リハーサルも無かった突然のライブだったがものすごく感動したことは覚えている。集まったディーラーさん、セールスのスタッフも大喝采だった。その後もEPOさんはメディア・キャンペーンやKISS-FM KOBEが主催する須磨海岸のシーサイドラジオへのイベント出演など何度か大阪エリアに来てくれたが、結局レーベルがその直後に解散してしまいEPOさんの新しいアルバムはリリースできないままで終わってしまった。本当に一瞬の邂逅だったがEPOさんのアーティストとしてのオーガニックな佇まいと振舞いは今でもとても印象に残っている。

「ハーモニー」はほとんど全曲をキーボード奏者・天才的アレンジャーとしてノリまくっていた清水信之さんとのコラボレーションで制作されたアルバムだ。久しぶりに聴いてとても37年前の作品とは思えない普遍性を持っていたことを改めて知らされる。今シティポップ文脈で「DOWN TOWN」周辺のEPOさんの作品が再評価されているが、清水信之さんとの共同作業の最高潮はこの「ハーモニー」に集中していたように感じる。SOUL Ⅱ SOULがグラウンド・ビートで登場する4年以上前に打ち込みでやっていたのがこの曲だ。

EPO 「夕闇のストラット」

前作「HI TOUCH-HI TECH」で若干未消化気味だった打ち込み技術をアップデートさせた「ハーモニー」にはこれまでの日本のAORやシティポップの文脈にない独自のストラクチャーの曲が多数収録されているので機会があればぜひ聴いてほしい(ストリーミング・サービスで聴けるようになれば最高なのだが、ボーナストラック満載の紙ジャケCDも良かったです)。

そして自分がどうしても聴きたかった曲がLPB面1曲に収められていた「私について」だ。

EPO - 私について (1985) [Japanese Pop-Rock]

切ないメロディとハーモニー、そしてEPOさんの素晴らしいヴォーカルと清水さんの操る楽器一つ一つに意味と説得を感じる。ポップスとはこういうものだろうと思う。人生をタイムリープするような歌詞の世界も年を取った今の自分だからより身体の隅々まで染みわたる。

いつも記事を参考にさせてもらっているスガイヒロシ a.k.a Sugarさんもちょうど「パンプ!パンプ!」の頃のEPOさんについて書かれているので引用させていただこうと思う。

記事を書きながら「ハーモニー」はちょうどこの頃付き合うか付き合わないか微妙な時期の女友だちの部屋で聴いたことを思い出した。結局付き合うことは無かったのだが、とても優しい子だった。あの子は今ごろどうしているだろうか。日本もバブル直前、どんな音楽が正しいのか、また自分はいったいどんな仕事をすればいいのか、よく分からない季節がやってきた80年代の後半の思い出である。

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