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天才、秀才、凡人 - 職場の人間関係を解き明かす鍵

北野唯我氏の「天才を殺す凡人」は、職場の人間関係に悩むすべての人に向けた示唆に富む一冊です。本書は、テクノロジーカンパニーで働く35歳の青野を主人公に、「天才」「秀才」「凡人」という3つのタイプの人間が織りなす職場のドラマを描いています。

私はこの本を読みながら、自分の経験を振り返らずにはいられませんでした。建築やITの分野で様々な職を経験してきた私にとって、本書で語られる「天才」「秀才」「凡人」の概念は、非常に興味深いものでした。

特に印象的だったのは、これらのタイプ間に存在する「コミュニケーションの断絶」についての指摘です。本書によれば、天才は「創造性」、秀才は「再現性」、凡人は「共感性」という異なる軸で物事を評価するため、互いの考え方を理解し合うことが難しいのだそうです。

私自身、様々な職場で多様な人々と働いてきました。その中で、非常に独創的なアイデアを持つ人や、論理的に物事を進める人、人間関係を重視する人など、まさに本書で描かれるような異なるタイプの人々と接してきました。そして、彼らの間でしばしば起こる齟齬や対立を目の当たりにしてきたのです。

本書を読みながら、そうした過去の経験が鮮明によみがえってきました。例えば、新しいプロジェクトを立ち上げる際、革新的なアイデアを持つ人(天才タイプ)と、それを現実的に実行しようとする人(秀才タイプ)の間で起こる衝突。あるいは、効率を重視する人(秀才タイプ)と、チームの和を大切にする人(凡人タイプ)との間の軋轢。これらは、まさに本書で指摘される「コミュニケーションの断絶」そのものだったのだと、今になって気づかされました。

特に印象に残ったのは、「天才は凡人に殺される」という指摘です。多数派である凡人が、少数派の天才を排除してしまうというこの現象は、私自身も目にしたことがあります。革新的なアイデアを持つ人が、周囲の無理解や反発にあって孤立し、最終的には組織を去っていくという光景を。

しかし、本書はただ問題を指摘するだけではありません。これらの異なるタイプをつなぐ「アンバサダー」の存在や、天才を支える「共感の神」の重要性など、解決への道筋も示してくれています。

私自身、キャリアを通じて様々な立場を経験してきました。SEとして論理的思考を磨き、営業として人とのコミュニケーションを学び、起業家として創造性を発揮する機会を得ました。その過程で、本書で言うところの「秀才」「凡人」「天才」の要素を、程度の差こそあれ、すべて体験してきたように思います。

そして今、私はAIと人間の協調を目指す立場にあります。この経験は、まさに本書で語られる「アンバサダー」の役割に通じるものがあると感じています。AIという「天才」と、それを使う「凡人」である人間との間を取り持つ。そこには、本書で語られるような、異なる軸を持つ存在同士をつなぐ難しさと可能性が存在しているのです。

本書の中で最も共感したのは、「自らの言葉」の重要性です。借り物ではない、自分自身の言葉で思いを伝えることの大切さ。これは、私がコンサルタントとして、あるいは講師として人々と接する中で、常に心がけてきたことでもあります。

「天才を殺す凡人」は、単なるビジネス書の枠を超えた、人間関係の本質に迫る一冊だと感じました。職場だけでなく、あらゆる人間関係に応用できる視点を提供してくれています。

私たちの社会は、多様な才能を持つ人々の協力によって成り立っています。この本は、その多様性を理解し、活かすための重要な指針を示してくれています。それは、AIと人間が協調する未来の社会を考える上でも、非常に示唆に富むものだと感じました。

最後に、本書を読んで改めて感じたのは、自己理解と他者理解の重要性です。自分がどのタイプに近いのか、そして周りの人々はどうなのか。それを理解した上で、いかに協力し合えるかを考えること。それが、よりよい職場環境、ひいては社会を作り上げていく鍵になるのではないでしょうか。

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