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脳の構造と機能



はじめに

 文明が発達し高度な知的活動をするために、ヒトの脳は非常に発達しました。言語や文字を使ったコミュニケーション能力、手足、言葉、表情、表現による創造はヒトの特徴です。それらに欠かせない脳。その脳の構造と機能について説明します。脳は大変奥深いため、ここではその概要を紹介します。

脳とは

 ヒトの脳は、大脳、間脳、小脳、脳幹から構成されています。重さは約1,200~1,500g(大脳 約800g、小脳 約130g、脳幹、間脳含む 約220g)で、体重の約2%(体重60kgの場合、脳は約1.2kg)と言われています。脳の発達がどのように行われるかは、よくわかっていないようです[7]。順番は小脳から大脳へと発達するようです[8]。ヒトの脳の発達についてまとめた記事が[10]にあり、参考になります。話し言葉から書き言葉の理解へ(5歳~)、目に見えない抽象的なものの理解へ(9歳~)、13歳~の思考力と自我意識の向上が脳と関係しています。


脳の全体像(出典[1])

各脳の概要

大脳

大脳皮質: 大脳の表面にあるひだひだした部分で、ここには視覚、聴覚、運動、言語などの機能が局在化されています。

  • 視覚: 後頭葉の視覚野が、目から入った視覚情報を処理します。

  • 聴覚: 側頭葉の聴覚野が、耳から入った音声情報を認識します。

  • 運動: 前頭葉の運動野が、体の動きを制御し、筋肉の動きを指示・調整します。

  • 言語: 前頭葉のブローカ野(言語生成)と、側頭葉のウェルニッケ野(言語理解)が主に関与します。

大脳基底核: 大脳の内部にあり、習慣的な行動や手続き記憶(運動技能)の形成に関係しています。


大脳皮質(出典[2])

間脳

 間脳は大脳の内側に位置します。自律神経の中枢である視床下部、種々のホルモンを分泌する脳下垂体体性感覚などの大半の感覚を司る視床などに区分されます。間脳は視床下部にある自律神経核によって自律神経である交感神経副交感神経を制御しています。間脳は視床下部によって脳下垂体を支配して食欲性欲睡眠欲等を制御し、免疫等も制御します[3]。

間脳 出典[4]

小脳

 大脳の下部に位置します。重さは成人で120〜140グラムで、脳全体の重さの10%強をしめ、大脳よりもはるかに多くの神経細胞があります。身体の運動調節、姿勢制御、運動技能の習得を担います。小脳が損傷すると、歩行や手の動作がスムーズにできなくなります[5]。

脳幹

 脳の最下部に位置し、呼吸、心拍、血圧、体温調節など生命維持に欠かせない機能を統括します。脳幹が損傷すると命に関わる危険があります[6]。

脳の働きの基礎となる仕組み

  1. 神経細胞(ニューロン)による情報処理と適応能力

    • 神経細胞のネットワークを通じた情報の伝達

    • 電気信号(活動電位)と化学物質(神経伝達物質)による細胞間の信号伝達

    • 脳の広い範囲での神経活動の調整

    • 神経細胞間のつながり(シナプス)の強さを変える能力による学習と記憶の形成

  2. 支援細胞(グリア細胞)の多様な役割

    • 神経細胞の支持と機能の補助

    • 神経伝達物質の回収と分解

    • 脳内の環境を一定に保つ働き

    • 神経細胞の保護と修復の促進

  3. 脳の血液供給の調節:

    • 神経活動に応じた局所的な血流の制御

    • 脳全体の血流量を自動的に調整する仕組み

    • 特殊な支援細胞(アストロサイト)による血管の太さの調節

 これらの機構が協調的に機能することで、脳の高次機能が実現され、環境適応性が維持されます。各メカニズムは相互に影響し合い、神経系の統合的な機能を支えています。

 以前、書いた記事にニューロンの説明がありますのでご参照ください。
神経と疼痛|hiro (note.com)

脳の具体的な機能

 人間の脳は非常に複雑な構造を持ち、多くの領域が相互に連携して機能しています。各領域は特定の機能に特化していますが、同時に複数の機能に関与することも多くあります。以下に主要な脳の機能とそれに関わる領域について説明します。

  • 生命活動(自律機能)

脳幹(延髄、中脳、)と視床下部が基本的な生命維持機能を管理します。

延髄:呼吸、心拍数、血圧の調整
中脳:視覚・聴覚情報の中継、運動調整
橋:睡眠と覚醒の調整
視床下部:体温調節、水分バランス、ホルモン分泌の制御

  • 運動制御

前頭葉、小脳、基底核が主に関与します。

一次運動野(前頭葉):随意運動の開始と制御
小脳:運動の調整と精密な動きの制御
大脳基底核:運動の開始と抑制、運動学習
一次体性感覚野:触覚、痛覚、温度感覚の処理

  • 摂食行動(食欲)

視床下部と大脳辺縁系の相互作用によって制御されます。

視床下部:飢餓感、満腹感の調整
大脳辺縁系:食べ物に関連する感情と記憶の統合

  • 睡眠と覚醒

視床下部、松果体、脳幹が主に関与します。

視床下部:睡眠-覚醒リズムの調整
松果体:メラトニンの分泌による睡眠-覚醒サイクルの調整
脳幹(特に青斑核):覚醒の維持と睡眠の開始

  • 性行動(性欲)

視床下部と大脳辺縁系が主に関与します。

視床下部:性ホルモン分泌と性欲の調整
大脳辺縁系:性的興奮と関連する感情の処理

  • 感情

脳の複数の領域が協調して感情を生成・処理します。

扁桃体:感情(ポジティブ:うれしい、たのしい ・ネガティブ:悔しい、悲しい 両方)の処理と記憶との連携
前頭前野:感情の調整と社会的判断
側坐核:報酬系、快感の処理
前帯状皮質:感情と認知の統合
島皮質:感情の自覚と身体感覚の統合

  • コミュニケーション(言語・社会的相互作用)

主に左半球の特定領域が言語機能を担いますが、右半球も重要な役割を果たします。

ブローカ野:言語生成、文法処理
ウェルニッケ野:言語理解
前頭葉:社会的判断、感情制御
側頭葉:言語の音声情報処理
右半球の対応領域:韻律、文脈理解、非言語的コミュニケーション

  • 学習と記憶

海馬、前頭葉、大脳基底核が主に関与します。

海馬:新しい記憶の形成、空間記憶
前頭葉:作業記憶、長期記憶の検索
大脳基底核:手続き記憶(スキルや習慣の形成)

  • 創造性と抽象思考

前頭葉、側頭葉、頭頂葉が中心的な役割を果たします。

前頭葉:創造的思考、計画立案、問題解決
側頭葉:記憶と感情の統合、概念形成
頭頂葉:空間認識、注意の制御

 これらの機能は相互に密接に関連し、協調して働くことで人間の複雑な行動や能力を支えています。また、脳は非常に可塑性が高く、経験や学習によって機能的な変化を起こすことができます。さらに、個人差も大きいため、各機能の詳細な局在や働きには個人間で違いがあります。

睡眠と脳

 睡眠中、脳は一日の活動で生じた有害な代謝産物を除去し、新しい記憶を固定化します。十分な睡眠が取れないと、記憶力や集中力の低下、気分の落ち込みなどの症状が現れます。

腸と脳の関係

 腸は「第二の脳」と呼ばれるほど、脳機能に大きな影響を与えます。腸内細菌のバランスが崩れると、免疫系や神経系を通じて脳に影響を及ぼし、気分の落ち込みやストレス耐性の低下を引き起こすことがあります。

前頭葉を鍛える

 感情制御、社会的判断、計画、問題解決、創作能力を向上させるには、前頭葉を鍛える必要があります。これらの能力は、学校の教室や会社での定型的な作業だけでは十分にトレーニングできません。前頭葉を効果的に鍛えるためには、以下のような活動が有効と考えられています。

  • 有酸素運動を行う

  • 新しい知識やスキルを学習する

  • 日常生活の中で新しい発見をする(例:通勤、通学、買い物途中)

  • 料理や仕事で新しい工夫をする

  • いつもと違うルートで散歩する

  • 普段と異なる店で買い物をする

これらの活動を毎日行う必要はありませんが、定期的に新しいことに挑戦することが重要です。また、複数のタスクを同時に行うマルチタスキングや、瞑想(前頭葉をリラックスさせる効果がある)も前頭葉の機能を向上させるのに有効とされています[9]。これらは頭をよくするため、痴呆症を防止するために効果があると思われます。

おわりに

 脳と小腸のひだが大変似ていることのに気が付きました。いずれも、機能充足のために表面積を大きく取るためでしょう。この推測は正しく、脳のひだ(脳回と溝)や小腸の絨毛は、いずれも表面積を増やすことで機能を最適化しているそうです。脳ではニューロンの密度を高め、シナプスの数を増やし情報処理能力を向上させています。小腸では消化と吸収の効率を高めています。
 生命維持に必要な脳は、外部からの衝撃に対して影響が少ない思われる内側に小脳、脳幹として存在します。脳は生物として、まず生きる、動作する、感じる、考える、創造するための階層になっていると思います。
 それぞれの脳の場所(位置)、機能の分割、機能同士の関係から多くの学びがあります。脳の一つの機能を一か所が司っているのではなくて、分散化しているようにも見受けられます。
 脳の発達には個人差があるため、10歳以降は脳の発達にあった教育があってもよいと思いますね。そうすれば、落ちこぼれという言葉自体がなくなると思います。
 教育と脳については、多くの本が出ていますので参考にしてください。よさそうなものを3つ挙げておきます。ほかにもたくさんあると思います。あと、早期幼児教育をしないと発達障害に間違われる世の中も困ったものです。

・はじめてママ&パパのしつけと育脳(成田 奈緒子)
・子育てをラクにする脳育のススメ(小林こずえ)
・将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!(松永 暢史)

参考資料

[1]脳の全体像 | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)
[2]大脳のしくみとはたらき | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)
[3]間脳 - Wikipedia
[4]間脳はどんな役割を果たしているの? | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)
[5]小脳 - Wikipedia
[6]脳幹 - Wikipedia
[7][脳の発達] 脳の機能発達と学習メカニズムの解明 | CREST (jst.go.jp)
[8]脳科学のかんたん基礎知識-子どもの発達の理解がススム- | 親支援サイト | 親の学校プロジェクト (oyagyosaitama.com)
[9]【医師解説】どうやって前頭葉を鍛えるの?前頭葉を鍛えるコツと前頭葉を鍛える運動・脳トレアプリ・音楽・瞑想について (toyoda-clinic.info)
[10]脳の成長の80年~生後0日からみる、年齢別の脳の変化~ | 脳科学メディア (japan-brain-science.com)


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