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素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。  23

 その日有美が昼食から戻ってくると、ビルのエントランスがひどく混雑していた、どうやら六機あるエレベーターのうち半分が何かで故障して使えないらしい。
 急いでいる人たちは、階段を使っているが、高い階層の人たちは順番を待っている。多くの人たちが、滞留している中を、有美も仕方なく順番を待つ列に並んだ。 
 
   ふと、見上げると、あの絵があった。
 なぜかしら、真ん中に描かれた女神に自然と目がいく、片手を大きく上にあげたその女神は、少し両脇の女神たちを両脇に追いやるような、迫力があった。
 荒野のような風景を背景に、青いトーンで描かれたその絵に、有美は少し、自分自身を投影しているような親近感を持ってる。
 三姉妹、利発な姉とおとなしい妹、その真ん中で、この絵に描かれた女神のように、一人だけ強烈な自己主張をしているような、今まで思うがままに、生きてきた自分を少し振り返った。
 「拓海からみても、私はあの真ん中の女神のように映るのだろうか・・・」
 後ろの人に、前に進むように促されるまで、有美はそんな事を考えていた。
 
 
 大津に聞いてみようとは思ったものの、なかなかその機会には恵まれなかった、有美はこのフロアに来て以来、従前の仕事に加えて、大津達が抱えているプロジェクトも手伝うことになり、仕事量が倍増した。
 年齢幅が広かった、依田のセクションより、はるかに若年層が多いこのセクションの方が仕事のパフォーマンスは、はるかに高いし、また有美が打ち解けるのも早かった。
 相変わらず、大津は忙しそうで、あまりデスクでじっとしていない、二三日姿が見えないと思ったら、出張だったり、常に案件の打ち合わせや、報告を受けているようで、なかなか入る隙間もない。
 何回か、隙を見ては
「あのう、少しお話したいことがあるんですけど・・・・」
 と、聞いても、大津は、
「それ? 急ぎ?」と聞き返してきて、そうじゃないと有美が言うと、「ごめん、いまちょっと、聞いてあげることができないんだよ、けど後でゆっくりきくから。」
と、申し訳なそうに眼で返事をする。
 有美はいつも、それ以上は言えなくなって、未だに聞こうと思うことがきけていない。
 その日、エレベーターが故障した日は、なぜかしら有美は多忙だった。従来の「下」の仕事に加えて、今このセクションが関わっているプロダクトがあり、その追加分の仕事も加わり、むつかしい処理をしなければいけなかった。
 夕方近くなっても、目途が立たなかったので、少し残業を覚悟して腰を据えてかかろうと思っていた矢先、がやがやと、大津達数人が外から帰ってきた。
 ようやく仕事のめどが付き、有美がふと周りを見ると、数人が残っているだけになった。
 大津は相変わらず、パソコンを睨みながら、休むことなく仕事を続けている、有美は、
出来上がったデータをそれぞれチェックすると、クラウドへ送り込む、それで一応は今日の仕事は終わりだ。
 データ送信中の画面を見ながら、息を吐いて後ろへ大きく伸びをした、その時腕が誰かに、当たったと思ったら、そこに大津が立っていた。
「・・・仕事終わった?」大津は、そう言うと、
「ほら、前から俺に、なんか、話があるって、いっていたよね・・・今日これからだったら時間あるけど、どうかな?・・・ただし、おれ腹減ってるからさぁ、飯食いながらだけど、どう?」
 スラックスのポケットに手を入れながら、有美に話しかける。
「はい、わかりました・・・・」と、有美はあわててそう言うと、帰る準備を始める。
「下で待ってるから・・・・・」
 大津はそういうと、ゆっくりと部屋を出て行った。

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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。

物語をどう進めていいか、迷うときがあります。

けど、不思議と登場人物たちか、何かひとりでに動き出してくれるように

思えるときがたまにあります、不思議ですね


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