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素敵な靴は、素敵な場所へ連れていってくれる。 10

 北千住駅の近くあり、カウンターが数席と、テーブルが3つほどの小さな店だった、すでに数名の先客がおり、紗季は、さっさと、空いているテーブル席へ腰かける。
紗季はこんな庶民的な店が好きだ、何回も一緒に食事に行った、有美だったが、いつもあまり気取ったところではなくて、彼女が連れてきてくれるのは、安くて美味しい店ばかりだ。
時には、女性同士で入るのは、ためらうようなところもあるけど、紗季はそういうことは、あまり気にしないのか、そんなところで平気でどんどん入っていく。  
長身でストレートの長い髪と大きな、はっきりとした目鼻立の容姿は、一見すると、丸の内にでもいそうなキャリアウーマン風だけれども、表裏がなくて、あまり飾らない性格は、有美には好感が持てた、
紗季は、暑い暑いと言って、ビールを注文すると同時に、慣れた調子で、何品か併せて注文した。
「ここのさぁ、凄くおいしいだよね・・・・」嬉しそうに、ビールを飲みながら目を細めて有美へそう話す。
「よくここ来るの?」
目の前にドンと置かれたビールのジョッキを眺めながら、有美は紗季へ話しかける。
「うん、たまにね、けどこうしてだんだんと、暑くなってくるじゃん、そうしたら、ここで焼き鳥を食べながら、ビール飲むの、もう最高って気分になるのよ」
紗季は屈託のない笑顔で有美にそう答える。
 有美も、冷えたジョッキを持ち上げてビールを飲む、のど越しに流れていく液体が、全身に染み渡るようで心地よい、少し飲み終えると思わず、ふっーと言って息を吐く。
「それで、どうだった? 依田って人」
 出された突き出しを箸でつまみながら、紗季が有美へ聞いてくる。
 「うーん、どうだろうね、まだ初日だし、どうっていわれてもね・・・・」
 「なんかさ、これは私の印象なんだけど、やっぱり少し陰湿な感じがするんだよね・・」
 紗季はビールのお代わりを注文しながら、有美へ話を向ける。
 「わたしも、まあそんな感じは受けるけど、実際はどうだかはわからないしね・・・」
 有美は、普段はあまりアルコールは、飲まないのだが、目の前でおいしそうに飲む、紗季を見ているとつられて、飲んでしまうのか、間を置かずに有美もビールを追加する。
 その時、有美のスマホがラインの着信を知らせた。普段人と会うときは、スマホは鞄にしまうか、画面を伏せてテーブルの上に置くのだけど、気心の知れた紗季の前では、画面を上にしていた。
「あれ、彼からじゃないの?」
画面に表示された「拓海」という名前を見て、紗季が気を使って、有美に尋ねる。
「すぐ返信しないの?」
紗季が笑みを浮かべて、からかうように有美へ言う。
「いいのよ・・・・別に・・・・」
女性の店員が、追加のビールを置いていくと、有美はやや投げやりにそう答えた。
拓海とのことは、前に紗季に少し話したことがある。その時紗季は、以外にも驚いて、まさに糟糠の妻だね、と言ったけど、今は有美とって、拓海はそんな存在ではなくなりつつあった。

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