見出し画像

素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる。39

大津が、コースを予約していたので、順次料理は運ばれてくる、有美がいつも紗季と食べているような料理でなくて、懐石料理のような、あまり食べたことのないものが、次々と運ばれてくる。
「プレゼンは、どうだったの?」
 運ばれてくる、料理をテーブルの上で整理しながら、南村が、そう尋ねた。
「うん、少し今までとは毛色の違う、提案だったからね、上手くいくかどうか、けど向こうには、結構受けがよかったよ、心配するほどではないかもね」
 

 こんな席では、あまり仕事の話はしたくないのか、大津は早口でそう答えると、運ばれてきた料理へと目を遣る。
「上手くいくといいけどね・・・今回のは、大口だもんね・・・がんばらないとね」
 食べながら、南村が、まるで子供諭すように、大津へそう話す。
「だから、今夜も、それで遅れたんだよ、あんまり苛めないでほしいよな。」
 そういうと、大津は、有美に同意を求めるように、視線を移す。
 有美には、南村と大津の掛け合いが、どこかまるで漫才の様で、可笑しかった、南村の話だと、二人は別れてもう何年もたつのに、今でもこうしてまるで恋人同士のように食事に行ったりしている、会社ではお互いに厳格に上司と部下を演じているのに、互いにプライベートとなると、まるで昔の恋人同士だった時のように接する。大津に恋人がいるかどうかはわからないけど、南村には、新しい恋人がいるにも関わらず、こうして忌憚なく、元恋人同士として、付き合える関係を、有美は少し羨ましく思った。
 振り返って、自分と拓海は、別れたとしてもこんな関係には多分なれないだろうとも思った。
 
 料理も中盤になって、途中で北海道の毛ガニがでた、夏はあまり魚がおいしくなくてと、店の主人がわざわざ気を利かせて出してくれたものだ。その大きさに三人は一様に声を上げた。
 少し酔いが回ってきたのか、南村が饒舌になって、有美に向かって、大津と付き合っていたころのエピソードを話し出した。大津は、すこし迷惑そうに、おい、おい、やめてくれよ、と言って、横にいる南村へ窘めるように、困ったような顔をしていた。
「いいじゃん、もう全部終わったことだし・・・隠すことでもないし、彼女の今後の参考にもなるでしょ。」
と、南村はあまり意にかえさないようだ。
頬杖をテーブルに着きながら、南村は話し出す、少し大ぶりのシルバーのイアリングが、顎に乗せた右手の同じ色のネイルチップに、反射しているように見えた。

 南村は、以前有美と銀座で会った時もそうだったが、この不思議な関係に、彼女自身、いい加減もう終止符を打ちたいような、そんな気持ちが、有美には見受けられた、自分の気持ちに、きっちりとピリオドを打ちたい、そんな感じだった。
時には、大津の事を貶したりしたが、それと同時に仕事上での彼の能力の高さは称賛もした。
時々有美が相槌をしたり、逆に、南村へ質問をかえしたりした。
南村の話を聞いているうちに、前に彼女がいていた、「人としては最高、男としては最低」という意味が、有美には少しわかったような気持ちがしてきた。
 
その間も大津は、時々は、南村の方へ視線を投げつつも、食べながら特に何も言わずに聞いていた。
「だからさぁ、この人はいまだに仕事ができれば一人前なんて考えをしているのよね、だからその時も、私聞いたのよ、この人に。仕事と私どっちが大切なの?って、
そしたらこの人は、生真面目にどっちもっていうのよねぇ・・・」
「それじゃ駄目なんですか?」有美が聞くと
南村は、前髪を少し手でかきあげて、腕組をしながら
「それもいいのよ、けどね、言葉にするときは、嘘でもいいから、お前の方が大切だって言って、ほしいのよ、女の子は・・・」
 そう静かに言ったあと、ちらっと大津のほうへ視線をやる、大津はまるでそれを無視するかのように、黙って注文したウイスキーに口に着ける。
 少しの沈黙があって、また次の料理が運ばれてきた、大津はそれまでのことなかったように、一言、おいしそうだ、と呟くと、一番に箸をつけた。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

今宵も最後まで、お読みいただきありがとうございました。

なんか、レストランで、食べてるシーンが、多すぎるというご意見もいただ

きました。

うーん、確かにそうかもしれないと、自分でも思ってます。(笑)


前作のように、もう少し場面に艶をつけたいと思います。


また、ご感想をお聞かせください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?