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素敵な靴は、素敵な場所へ連れて行ってくれる。   33

 久しぶりに、お互いに昼の時間が長く取れたので、昼食を紗季がお気に入りの会社から少し離れた、小さなパスタの店に行ってみた。
店内は、近隣に勤めるOLたちでいっぱいで、二人は少し待って、窓側の席に案内された。
注文を終えると、紗季が急に
「なんか最近、顔色よくなったね。」
 と聞いてきた。有美はそうかなと、少し曖昧に返事すると、
「やっぱり、奴の重圧から逃れたのが大きいのかな。」
と、明るくそう言った。(奴)とは無論依田の事である。最近、紗季は依田の事をそう呼んでいるらしい。
「そっちは、どうなの?」今度は、有美が尋ねた。
「相変わらずだね・・・(奴)は、いつも誰かにぶつぶつ文句、言ってるわ・・・・それでなんか部署全体の雰囲気が暗くてね・・・・・・・なんかモチベーション下がりまくりだわ。」
 辟易したような口調で、頬杖をついてそう話した。
 けれども、有美の件以来、依田も以前ほどは、部下にはきつく当たらなくなったらしい。
「今のところは、私には何も言わないね、五月蠅い奴だと、思われているのかなぁ
ああぁ・・・・・私も、大津さんへ言って、転属させてもらおうかなぁ・・・・・」
 有美は、憂鬱そうな紗季の顔を見ながら、少し前までそこに自分がいたことが、なにか遠い過去のように思えてきた。
「今度、大津さんに言っておいてあげるわ。」
 有美は、そう冗談ぽく言って、紗季を慰めた。
 しばらくして、料理が来て、それがそろそろ終わりかけたころ、紗季が
「そういえば・・・最近、朝よく、あの絵 みてるよね?・・・・」とおもむろに有美へ聞いてきた。
「絵って?あのエレベーターホールにある?」
「そう、何日か前も、朝、一心不乱に絵をみてたでしょ?」
 紗季は不思議そうに、聞いてきた。
「その時も、声かけようと思ったんだけど、なん雰囲気にのまれちゃって・・・声かけられなかったよ・・・」
驚く様に紗季がそういうと、
「ええっ? どんなふうに見えてた、私?」有美が少し心配そうに聞くと、
「なんかね・・・神社やお寺で、お祈りしている人みたいに見えた・・・・」
 紗季は、少し笑いをこらえるように、そう答えた。
 有美は、自分ではただ絵を見てだけだったのに、人からそんな風に見られていたのが、少し驚きだった。
「・・・なんで、急にあの絵、そんなに見るようになったの?」
 有美の顔を覗くように、紗季が聞く。
「そうだね、いつからだろう?気になりだしたのは、ちょうど、依田さんの件でいろいろあったころからな。」
有美は、そう答えると、少し残ったコーヒーを飲み干した。
「まあね、あの時は、いろいろあったからね、ある意味、あの絵が、癒しになってるんじゃない? 今のあなたのね、いいことかもしれないね。」 
 紗季は、そこまでいうと、納得したのか、あるいは有美の気持ちを慮ったのか、さっと立ち上がって、さあ帰ろうかと、有美に促した。

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今宵も最後まで、お読みいただきありがとうございました。

物語は、いよいよ佳境へ向かいます。
 

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