詩小説『引越物語』⑬菜摘の婚約者
赤ちゃんの時から、グレーゾーンと呼ばれることが多かったという菜摘。
幼い話し方も、買い物に行って雑誌やコミックを読み耽って帰ってこないところも、今では愛おしくて仕方がない。
正雄は、両親が離婚してからというもの、妹の菜摘の人生に起こるトラブルをいつも解決してきた。友達という名の詐欺師に何度も騙されてきた菜摘。男友達もいないのだから妹は結婚しないものと思っていたようだ。
お相手は、専門学校時代からの同級生で介護士さんだという。兼業農家の家に育ち、仕事が休みの日には農作業も厭わない実直な青年だと、正雄は嬉々として話してくれた。
お父さんが単身赴任で関東に住んでいて、菜摘も初めて会うのだと緊張していた。
両家初めての食事会は、菜摘と相談して司の個室にした。司は高知市にある老舗料亭で、ホテルや芸妓さんがいる料亭よりリーズナブルでありながら接客も抜群だと職場の同僚から聞いていた。
床の間のある部屋に通され、正雄とわたし、そして菜摘が先方のご家族の到着を待った。
「お待たせしてすみません。」
汗をタオルで拭きながら、大柄な青年が父親らしき人と入ってきた。
「あれーー!正雄くんかよ。」
嬉しそうに話しかけてきた人を、わたしも知っている!!
「龍誠さん、なんでここにおるがですか!」
正雄がとても嬉しそうで、つられて菜摘も笑顔になった。
「なんでち、こいつの親やき。そりゃ来るわ。」
みんなどっと笑った。
わたしと正雄の結婚の際に仲人をしてくださった方が、菜摘の義父になるとは。
高知はどうしてこう、知り合いの知り合いは皆知り合いなんだろう。
仲人さんにお中元やお歳暮を贈るのをやめなくて良かったと、わたしは密かに思った。
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