小説『引越物語』㉗ブルーのタータンチェック
前回のお話です。
よろしかったら、こちらからお読みください。
✨今回も引き続き、細村 誠先生のイラストを使わせていただきました。お父さんの憂いを感じる横顔と、一緒に何かを覗き込む娘さんが印象的です。どんな作品になるのか、とても気になります。
この線から向こうは、しゃんしゃんの初小説『引越物語』です。
傘をお持ちのかたはさして、濡れても構わないかたはそのまま、お入りください。
雨だ。
ちょうどいい。
もっともっと降ってくれ。
そうすれば、あの子を見つけられるかもしれん。
小さい頃から、濡れるのが苦手だった。
雨が、きっと麻美を何処かへ留めてくれるだろう。
まだ小学校へあがったばかりの麻美を置いてけぼりにしたのは、オンナにのぼせきった僕だ。
探す資格なんてないと分かっているよ。
親らしいことなんて、殆どしてあげられなかったよな。
絵本と、水族館と、傘くらいかな。
記憶のカケラしか手元に残ってないんだよ。
今日も着ているタータンチェックのシャツ。
これは、麻美と母さんからのプレゼントだ。
何年も大事にしまってた。
麻美と会えそうな日に着ている。
そうすると、本当に会えたからね。
お守りみたいなもんだ。
麻美がレストランで頑張って働いている間、何度も話しかけてすまなかったね。
12年ぶりに、麻美の声を聴くのが嬉しくて嬉しくて。
レストランのみなさんに大事にしてもらってるのを見るのは、とても幸せだったよ。
赤の他人がここまでしてくれているのに、俺は無力だ。情けないよ。
母さんが心臓を悪くして倒れたんだ。
だから、頼む。
俺を一生無視して生きても構わないから、母さんのそばにいてほしい。
今、何処にいるんだ!!!
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