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資料(Esoteric & punk)

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音楽や美術にまつわる記事。主に執筆のための調べごとから。 2022年中にhttp://atochi.sub.jp/WEB/DATA/esotericindex.html に移行予定
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記事一覧

Music Is Myth : The Incredible String BandとBoards Of Canada

Music Is Myth : The Incredible String BandとBoards Of Canada

来月発行予定の『MUSIC + GHOST』には、The Incredible String Bandによって分かれた二つの英国的ノスタルジアについて記述している。一つは将来のネオフォーク運動の呼び水となったCurrent 93のフォーク・ミュージック転向。もう一つがBoards of Canadaである。文章が長くなったせいで、当初の予定よりもチャプターを一つ増やすことにした。
今回は当該の文章

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英米フリーフォークの幽霊的地図

英米フリーフォークの幽霊的地図

 サイモン・レイノルズ『Retromania』のあるチャプター「Spectral Americana」冒頭で、著者は「音楽における憑在論は、当事者たちが生まれ育った国や世代ごとの特色を持つのではないか」と推測している。英国のHauntologist(憑在論者)は幼い頃の文化的な記憶を現代に召喚しようと試みており、Ghost Boxのようなテレビとラジオに夢中のインドア派が、当時の公共放送や奇妙なS

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ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック③

ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック③

記憶の中にある曖昧なイメージを、音とヴィジュアルにコピーするのではなく、置き換えることがGhost Boxの創造的ポリシーである。それは頭に描いた図と、実際におこしたそれが一致することを意味しない。自身の内面を延々とさまよい歩く過程の、ログのようなものかもしれない。こうした創造面は「自分たちのやっていることを完全に理解できる相手としかビジネスをしない」という理念の根拠となり、それは経営でも貫徹され

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ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック②

ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック②

 60年代の社会的な波瀾は、パリ、プラハ、西海岸、日本、もちろん英国にもその余波が到達した。69年までの時点でアフリカ大陸にある旧大英帝国の植民地はほぼ独立し、所謂エスタブリッシュメント(主に保守党政治家)に対する敬意めいたものが薄まっていたことは、当時人気を博したエンターテインメントの核が風刺であったことからもうかがえる。事実、63年に短期間放映されたテレビ番組『The Frost Report

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ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック①

ブリティッシュ・アヴァンギャルド・ミューザック①

https://note.com/embed/notes/n2abbc42d2ff

Ghost Boxのカタログやレーベルの周辺にいるアーティスト(たとえば「ビクトリア朝時代のゲーム・ミュージック」をシミュレートするMoon Wiring Club)が英国以外から生まれることは考えにくい。そこにはマーガレット・サッチャーが推し進めた新自由主義化の過程で失われた古き英国の風景があるからだ。頭の中に

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アーロン・ディラン・カーンズの眼球へ

アーロン・ディラン・カーンズの眼球へ

 『FEECO』Vol.3にてインタビューを快諾し、Vol.4には原田浩の映画についてのテキストを寄稿してくれたアーロン・ディラン・カーンズが、住所であるジョージア州アトランタの一ギャラリーで行なったライヴの映像をアップロードしていた。彼が言うには、アトランタで所謂「アート」のシーンの存在を強く意識する機会は少ないとのことである。ギャラリーは多目的スペースの意味合いが強く、あくまで金で時間と空間を

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Ghost Box的憑在論・Radiophonic Workshopから英国地下音楽まで

Ghost Box的憑在論・Radiophonic Workshopから英国地下音楽まで

マーク・フィッシャーが2014年に上梓した『わが人生の幽霊たち――うつ病、憑在論、失われた未来』によって、憑在論(Hauntology)の名は音楽ジャーナリズム内に広く伝播した、という前提で話を進める。憑在論とはジャック・デリダが提唱した概念で、大雑把に言えば「すでにないもの」と「いまだ起こっていないもの」のつがい、過去と未来が現在に不在のまま、しかし幽霊的に普遍性を放つ状態を説明したものである。

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"音速のバナリスト"マーク・スチュアートを追う

"音速のバナリスト"マーク・スチュアートを追う

 先日の大阪はエル・おおさかで開かれた、パンク・ムーヴメントの歴史を辿る展示『Punk! The Revolution of Everyday Life』(ほか東京、岡山、長崎、福岡でも巡行)には大いに刺激を受けた。展示されたパンクやriot grrrl(ライオット・ガール)の成果物たるレコードやファンジンはもちろん、「自主制作」という点ではルーツと呼べるヒッピー雑誌『International 

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『Live and Let Live』増補改訂版のおしらせ

『Live and Let Live』増補改訂版のおしらせ

2016年に自費出版した『Live and Let Live』という本に加筆・修正したものをnoteとBASEで販売します。記事単位でも購入できますが、マガジンごと買った方が多少お得です。オリジナルとの差異は
・誤字脱字の修正(随時更新します)
・2017年以降の情報を基にした加筆(全章合わせて1万字以上)
・図版の大部分とディスコグラフィーの省略(図版に関しては後日、アルバムジャケットなどを追加

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サムの息子事件といくつかのシンクロニシティ

サムの息子事件といくつかのシンクロニシティ

Netflixオリジナルのドキュメンタリー『The Sons of Sam: A Descent Into Darkness』(『サムの息子たち: 狂気、その先の闇へ』)は、76年7月から77年8月にかけてのニューヨークで起きた連続殺傷事件の顛末と、その背景にカルト組織の存在があったことを検証している。より正確に書けば、この事件の捜査を孤軍奮闘して進めた一人の記者モーリー・テリーの生涯を追った内容

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愛って曖昧:COIL『Love's Secret Domain』とMy Bloody Valentine 『Loveless』

愛って曖昧:COIL『Love's Secret Domain』とMy Bloody Valentine 『Loveless』

インダストリアル・ミュージックとハウス・ミュージックの交配的名作COIL『Love's Secret Domain』(『LSD』)、言わずと知れたシューゲイザーのマスターピースであるMy Bloody Valentine 『Loveless』がそれぞれ30周年を迎えた。
COILは中心人物であるジョン・バランスとピーター・クリストファーソンが鬼籍に入って久しいが、当時のエンジニアであったダニー・ハ

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『The Ballad of Shirley Collins』ブルースからアポカリプティック・フォークまで

『The Ballad of Shirley Collins』ブルースからアポカリプティック・フォークまで

米国民俗学史全体の功労者とも呼べるアラン・ローマックスのフィールドワーク-レコーダーによって対象となる歌い手たちとその空間を記録すること-は、父・ジョン・ローマックスの補佐をしていた30年代からはじまり、やがて50年代から60年代にかけてのフォーク・リバイバル運動にも多大な影響を与えた。彼は「民俗音楽学」を明確に定義することで、フォーク・ソング(またはトラッド・ソング)を一種の研究的行為にした。い

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ネオフォークはパンクから生まれた②CRASS

ネオフォークはパンクから生まれた②CRASS

ネオフォークの原型を作り上げたDeath In JuneやSol Invictusの母体が社会主義的主張を訴えたパンク・バンドCrisisであること、その一見すると180度逆である方向転換が、70年代末英国の左派組織(SWP)やRock Against Racismのような運動への失望に起因することは前の記事で書いた。長く続けたSol Invictusをいったん凍結させ、現在にCrisisとして復

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ネオフォークはパンクから生まれた①Tony Wakeford (Crisis,Death In June,Sol Invictus)

ネオフォークはパンクから生まれた①Tony Wakeford (Crisis,Death In June,Sol Invictus)

※本記事は過去に公開したものが手違いで消えてしまったため(血涙)、加筆部分込で書き直したものです。

77年のロンドンに登場し、80年5月公演(MagazineとBauhausのサポート)を最後に解散したパンク・バンド、Crisisが2017年にラインナップをほぼ一新して復活した。
レジェンドと称されるバンドの再結成は大抵が金策目的だが、Crisisの場合は呼びかけ人であるトニー・ウェイクフォード

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