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夢って意外と近くにあるのかもしれない

これは、あるライター講座の課題である。
と同時に、未来宣言でもある。


プロローグ


「私、トリマーになる!!」

そう、仁王立ちで言ったかどうかは定かではない。
実家でずっと柴犬を飼っていて、なんとなく動物関係の仕事に就きたいと思っていた。

「お前は根性がないから無理だべな」

私の性格を見切っていた父親は静かにそう言い放ったけれど、その言葉がさらに火を点けた。

「なるもん!大学よりお金かからないし、いいじゃん!!」

そんなやり取りを、おだやかでやさしい2代目の柴犬・シータちゃんが、これまたおだやかに見つめていた……かもしれない。


夢は大きく、意気揚々と上京。
友達とルームシェア…とは名ばかりの、古アパートにて同居。
ひとりで上京する勇気がなかったふたりが寄り添って、結果的に友達は彼氏ができてから帰ってこなくなった。

2回乗り換えの片道40分。ビルの谷間にある小さなトリマースクールに通い始めた。電車に乗って通っている自分がウソみたいで、初めのころはずっとぼんやりしていたように思う。実家は山の中にあるため、電車通学なんてもってのほか。自転車しか移動手段がないような町だった。

月・水・金が座学、火・木が実習……だったか。

その日は突然やってきた。

「ガウ」
たまにいらっしゃる、怖がりで不安ゆえに威嚇しがちなワンちゃん。怖かったんだなって、今ならわかる。でも、おだやかでやさしい実家のシータちゃんに慣れていた私には、ほんのちょっと噛まれた風だっただけで、ビビってしまったのだ。

「……私、トリマーやめたい」

やはり、父親は見切っていた。私の性格を、私よりわかっていたのだ。


夢なき若者のそばにあったもの


古アパートで、アルバイト雑誌をパラパラとめくる日々。読んでいるようで、目の前にある文字は、ただの記号としか映らない。

私、なにしたいんだろう。
絶対トリマーになるなんて言っておいて、すぐにあきらめちゃうなんて。

雑誌をパラパラしながら、自分自身にショックを受けていたのだ。

意外と、なんでも器用にこなす方だった。勉強も運動も、一番ではないけれどまぁまぁな位置をキープするタイプ。トリマーもそんな感じでなれちゃうと、盛大に勘違いをしていたようだ。「勘違い」と気づくまで、結構時間がかかったけれど。

父親にも言えない。
2年間の学校を1年で辞めたことなんて、言えやしない。
自分でなんとか生活していかなければ。

アルバイト雑誌でなんとなく目についた、居酒屋のバイト。電車で3駅の、周辺地域の中では繁華街。これが我が人生初のアルバイトとなる。

生活のためのバイト。夢も目標もなく、ただ生きていくための仕事。
無気力はなはだしい若者を、人生の大先輩である女将さんはいいようにこき使った。

どのくらい働いただろう。
なんとなく「昼間の仕事にしたいな」と思い立ち、女将さんに辞めたい旨を伝えると、理由を言う前に「いいわよ~」と快諾してくれた。

それが、私への評価だったのだ。


それから、アルバイトとして転々とする日々。
歯科助手・居酒屋・雑貨店スタッフ・カスタマーセンター・日雇いバイト……。

生活のためと割り切っていたつもりだけど、飽き性ゆえ長くは続かない。

今日も今日とて、次のアルバイトを探すために雑誌を手にとる。パラパラとめくっている私のよこで、なぐさめてくれているのか、鼓舞してくれているのか、推しの音楽が流れていた。


「ライブにも、行きたいな」

そんな気持ちが、やっと私を二本足で立たせてくれた気がする。

日雇いバイトで食いつなぎながら、なんとかライブにも行けるようになってきた。
ライブに行けるようになると「もっと行きたい」と思い、そうなるともっとお金が必要になるので「もっと稼げる仕事に就こう」と思う。

そんな、完全に邪(よこしま)ループにうまく入り込み、いつしか人生初の派遣社員として働けるようになっていた。

推しの力は本当にすごい。生き方も考え方も変えてくれるのだ。


そしてこの頃、こっそり続けていたことがある。毎日のちょっとしたことを手帳に書くことだ。嬉しかった、楽しかった、辛かった、悲しかった。なんでもいいから、書いていた。今も、その手帳のほとんどをとっている。

その中でも、一番書かれているのは「推しへの愛」だ。「愛」というとおおげさかもしれないけれど、この曲のこの歌詞で救われたとか、あのライブではこんなことがあって幸せだったとか、前向きなことしか書かれていない。

そう。推しへの気持ちは、マイナスにならないのだ。

40歳を過ぎてあらためて「やりたいこと」に向き合ったとき、そんな小さな文章たちが自分を癒してくれていたことに気づく。書くことで嬉しかったことを倍増させたり、辛かったことを浄化させたりしていたのだと思う。

そんなことを考えていたときに、友達の一言が私の背中をやさしく押した。


「えまの文章、好きなんだよね」

その昔、推しへ書いた手紙の下書きを読んでもらったことがある。非常識なことかもしれないけれど、ちゃんと伝わるかどうか確認してもらいたくて。それだけ絶大な信頼をよせている友達だ。


手紙を読み終わった友達は、泣いていた。

私にそんな力があるのかと、驚いて私も泣いた。

踏み出してみようかな。
そんなことすら考えていなかったかもしれない。

ライティング講座無料体験会の「申込み」ボタンを押したそのときの、ふわっとした感覚はいまだに覚えている。


やっと見えたやわらかな光


ライティング講座に入った当初は「書いて稼ぎたい」という、輪郭もなにもない目標だった。けれど、課題で頭を使い、文章を書き、同期の仲間とつながっていく時間の中で、徐々にそのぼんやりとした輪郭が見えてきたのだ。

はじめの一歩として、転職と出会いの日々を綴った電子書籍を2023年10月に出版。私のダメダメな人生をほぼ暴露しているので、ぜひお手にとっていただきたい。


こんな私でも出版できてしまった。
なにも「達成」したことのない私が。
たくさんの人たちの力を借りてできた書籍出版だけど、とてつもなく大きな一歩。

でも、これがゴールじゃない。今、ここが出発地点。

転職ばかりで、やりたいことが見えず悩んでいた時期。
いつもそばには音楽があった。どれだけ私を助けてくれたか数えきれない。悩みすぎてプチひきこもりまで落ちた私が、闇に引きずり込まれることなく動き続けてこられたのは、音楽と推しのライブのおかげと断言できる。

時にはやさしく「大丈夫」と背中をさすってくれ、時には「そんなもんじゃないだろう」と奮い立たせてくれ、時には「そっちじゃない」と手を差しのべてくれた。

その時、その時代に好きだった音楽たちが。

長い長い間に積み重なったとてつもない感謝の思いと、新たに出会ってくれた音楽に対して、恩を返していきたいと今、強く思っている。

どんなかたちで返していけるのかは、まだまだ模索中。でも、11月から3か月間学んだ「ストーリーカレッジ」というライティング講座を通じて、輪郭だけじゃなくその色彩までもはっきりさせていきたいと思っている。

大好きな音楽、ライブの臨場感を書いて伝えていきたい。
それが、私の新しい夢です。


やっと、やりたいことに向かえるようになった私を、柴犬のシータちゃんも空からやさしく見ていてくれているだろうか。。。





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