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かたるひとたち『若き日の詩人たちの肖像』振り返り編その四

Photo by Mikio Kitahara

この記事は、2024/5/17-19東京都新宿区戸山公演野外演奏場跡、および2024/5/25-26長野県上田市犀の角にて行われた、平泳ぎ本店第8回公演『若き日の詩人たちの肖像』(原作:堀田善衞)のふりかえりを書き起こしたものです。

参加者

俳優 松本一歩
撮影:北原美喜男
俳優 熊野晋也
撮影:北原美喜男
俳優 小川哲也
撮影:廣瀬響乃

その三は↓


小川 つぎは場所について、聞いてみようと思うんですけど。

松本 ええ、ええ。

小川 そもそも、新宿の戸山公園でやる予定ではなかった、というお話からしていけたらと思うんですが。

松本 そうですね。実は早稲田の戸山公園とはまた別の公園、すごくきれいな庭園みたいな場所がね、ありまして。

熊野 へええ。

松本 コロナ禍の折にたまたま僕と、てっちゃん(小川哲也)と、竜平(河野竜平)とでそこへ散歩しに行ったことがあったんです。僕も学生の頃から早稲田の街に暮らしてるんですけど、あらためてその公園に入ったときに「あ、こんな綺麗な場所があるんだ!」と思って。

小川 ビックリしたね。

松本 大きな池があったりして。手入れされた木々がならんでいて、めちゃめちゃきれいなんですよね。雰囲気も落ち着いていて。そこの庭園の中で回遊型みたいな感じで『若き日の詩人たちの肖像』の上演ができたらすごく、きれいだろうなと思って。

熊野 うんうんうん。

松本 今回の創作でもひとつ「歩く」っていうのがテーマとしてありましたけど、その「歩く」っていうイメージとか、東京の街とか、木々のイメージ、とかっていうのがそこの庭園には揃っていたんです。そこでやれたらいいなあ、と思ってたんですけど、初めてのことでどうやって公園で演劇を上演したらいいのか、その交渉の仕方っていうのがホントにわからなくって。唐ゼミ☆の中野さんから、公の場所で演劇を上演するときの交渉事の作法をなんとなく伺ったりはしていたんですけど、、、それで、どうしようかなと思っていた矢先に、戸山公園の側から「野外劇を上演する団体を募集します」っていう案内が出ているのを本当にたまたま見つけて、「これ幸い!」とすぐにメールを書いて送って。もう翌日には直接戸山公園のサービスセンターに企画書を持って会いに行きました。そこで「私たちがやります!」「ぜひやらせて下さい!」っていう話になった、という感じです。

小川 すごいスピーディーな動き出しだったんですね、、、

松本 そしてこれは、声を大にして言いたいんだけど、、、

小川 はい。

松本 こういうケースって、すごく珍しいと思うんですよ。公の場を演劇で使うといったときに、”公園の側”が若い人たちに向けて「どうぞ演劇をやってください」って発信してくれているというイメージが、僕らの少し上の世代になるとあまりないんだと思うんですよ。だから結構「そんなに簡単に野外劇なんか出来るわけがない」とか「野外劇の上演はもっと難しい」とか「劇場でやる以上にもっとコストがかかる」とかっていうお話をしていただくことも実際あるんです。

小川 ええ。

松本 でも、戸山公園の場合はこの間の公演のバックステージツアー(『夜のピクニック』)の時にも、参加してくださった観客の方に向けてお話させてもらったとおり、戸山公園の方がものすごく前のめりで協力してくださっているので、少なくともあの場所であれば、ものすごく簡単に野外劇の上演ができるんです。

小川 たしかに自分たちで用意したものって、所作台と照明にかかわるものくらい、、、我々の公演に関していえば。

松本 そう!そうなんですよ。

小川 なんか俺も、SNSで偶々見つけて劇団のslackで共有したけど、、、

松本 てっちゃんから連絡があった、あれとほぼ同じタイミングで僕もみつけていました(笑)。それで俺は完全にエンジンがかかりきった状態で応募のメールを送りました。

小川 これだこれだ!と。

松本 「これだ!これだこれだ!これだこれだこれだ!!!」と、、、

小川 初めての野外劇をやるのに、非常に、つかいやすい条件でしたね。

松本 でもこれ、これちょっと熊野さんに伺いたいんですけど。

熊野 はいはい。

松本 熊野さんや、舞台監督の齋藤さんとかは唐ゼミ☆で、野外劇をいろんな場所で、これまでにもう日本各地でやってこられてるわけじゃないですか。

熊野 うん!うんうん。

松本 たとえば今回、公演の顔合わせをあそこの広場(野外演奏場跡)でやったじゃないですか。はじめてあの場所をみてどんな印象でした?

戸山公園舞台写真より。
Photo by Mikio Kitahara

熊野 そうだねえ、、、印象としては暗め。ひらけているわけでもないし、、、例えば唐さんの本だったら、最後の借景、エンディングに向けていい景色が見られるような場所で上演することが多かったんですよね。横浜のみなとみらいでやったときとかは、テントの幕が開くとみなとみらいの夜景があって、とか。

松本 はい、はい。

熊野 新宿中央公園でやったとき(『腰巻きおせ仙 振袖火事の巻』、作・唐十郎、演出・中野敦之)は、都庁が見えて、とか。街の喧噪の中でやる、とか。「そういうもの」があんまり無かったから、一見するとちょっと地味な場所、には感じたかなあ、、、

松本 やっぱり!!

熊野 オブジェクトとして、真ん中の柱とアーチ、演奏場の跡はあるけど、かなり「野原」っていう印象(笑)。場所としての魅力っていわれると、直感的にはそこまでじゃなかったかなあ、、、

松本 僕も舞台監督の齋藤さんと話してるときに、僕自身は初めての野外劇ということであの場所で上演ができることに無邪気にはしゃいでるけど、齋藤さんは「ん?ちょっと、シブいぞ、、、?」っていう感じの反応だったのをよく覚えてるんですよね。純粋に場所としてのポテンシャルを比べてみたときに、たとえばラストシーンで借景できるものとかもこれといってないし、野外劇の経験がある人からみると「うーん、、、?」ってなったと思うんですよ。でも僕は初めてだから、前のめりに、ポジティブに「やるやるやる!」って決められた、っていう面がありましたね。割と無邪気にポジティブであり続けられたっていうのかな、ビギナーズラック、、、じゃないな。わけがわかっていなかった!っていう(笑)。

熊野 ちょうど同時期に尾﨑(優人)さんがやってる劇団の、、、

松本 優しい劇団さん!多摩川で野外劇を上演されていましたよね。

『優しい劇団』さん↓

https://twitter.com/yasashiigekidan


熊野 SNSで写真を見るに良いロケーションだなあ!って思ったわけ。河原で、奥に電車が走って、ひらけた空があり、ていう場所で。当日の体験もきっと素晴らしかったと思うんだけど、画としての力もすごいある、「良い場所をみつけたなあ」って(笑)。

(笑)

熊野 それと比べると、戸山公園のあの場所は、地味ではあった、と思う。たまたま同時期、同じくらいの開演時間でやってた二つの上演写真をパッと見ると、野外劇感というか、野性味、情緒っていうのは、優しい劇団さんのロケーションのほうが強いよね。

松本 同じ野外劇でも趣向がぜんぜんちがいますもんね。

小川 たしかに。

松本 でも僕、嬉しかったんですよ。同時期に、名古屋の方が(※松本も高校まで名古屋で過ごした)、多摩川で、盛り上がってる。ささやかだけど東京のなかで野外劇が盛り上がっているっていう状況が、なんだかすごくうれしくかったんです。SNSで回ってくる写真を見ても、「うわあ、良い場所で演ってるなぁ!!」「パワフルだなぁ!!」って。そういう風に、自分たちで場所を探して独力でやっているっていうのがすごいと思うんですよ。尾﨑さんはとても若い方なのに、、、

熊野 最初の顔合わせの時は、僕自身まだ『若き日の詩人たちの肖像』のことも噛み砕けてなかったし、場所のこと(戸山公園野外演奏場跡地)も「あ、唐さんがやったところってここだったはず、、、だよな!?」くらいで。

戸山公園野外演奏場跡と唐十郎さんについて↓


熊野 でも結果として、野外劇上演地としての歴史、あの一帯が陸軍戸山学校の跡地だった、っていうことも含めて、今回の作品との出会いって非常によかったよね、なんか。それは、単純なロケーションも大事だけど、場所そのものの歴史とか、醸造されている空気、そういうものがすごく関わって来ると思うから。

松本 ああー。

熊野 それこそが、野外劇の面白味だし。いろんなピースがちゃんと整理することでハマってすごく良かったよね。あの場所に立っている柱が6本で、俳優が6人なのもそうだし。丘の上に死者が集まってきて、また去っていく、っていうイメージというか、そういうことも全部が、あの場所だからハマったというか。

松本 うんうん。

熊野 それゆえに、犀の角に行ったときに苦労したんだけど。

(爆笑)

松本 野外から室内に、空間がまったく変わりましたからねぇ。

戸山公園舞台写真より。
Photo by Mikio Kitahara

熊野 でも、平泳ぎ本店の今回の作品として、出会うべくして出会った場所、になってるような気がするね、結果として。

小川 俺は、あの場所でやれてよかったなと思ってるんですけど、、、爽やかすぎないというかなんというか、、、

熊野 うんうんうん!

小川 この本の中には、ある種の「青春」みたいなものが、ひとつあるなって思ってて。青春というものはある、けれども、時代とか状況に、重苦しさとか、暗い「におい」があるなって。結果的にあの野外演奏場跡のひらけすぎない感じが、好きでしたね。

熊野 この作品、多摩川の河川敷でやってたら、、、

小川 ぜんぜん印象も違うでしょうね。

松本 そう考えると、「適度に重たい」ですよねあそこは。

熊野 重たいと思う!それはやっぱり、場所の歴史背景もあるのかな。

松本 ひらけすぎていないし、軽すぎない、、、

小川 空は見えてるけど木々が覆いかぶさってる感じとか、、、

熊野 陰鬱さもすこしあり、、、でも昼間に上演したらきっと気持ちいいしね。

松本 そうなんですよ。晴れていると特に気持ちの良い場所で。

小川 人が普段から行き来してる場所っていうのも良かったですね。同じ時間に通る人がいたりとか(笑)。

(笑)

熊野 僕らが所作台を置いていても、その上を構わず歩いて行く人も、、、

小川 いたねえ(笑)。

熊野 「毎日ここを通ってるんだ、、、すみません邪魔しちゃって。」みたいな(笑)。

小川 あとは集合時間のちょっと前(13:00すぎ)に行くと、親子で虫をとってたりとかね。いいよね。

熊野 いい。

松本 いい!

熊野 所作台も、どんどん活用されるといいですね。

松本 そうですねぇ。でもほんとに、しみじみと、、、あの木の床を敷かずに、もともとの演奏場跡の石畳の上で上演をするっていう選択肢ももちろんあったんですけど、俳優が身体をつかったりとか、掴みあったり、人の上に人が乗るっていうことをやりたいなと思ったときに、床を敷かないと思いきってやれなかっただろうなと改めて思っていて。

小川 たしかに。

松本 稽古場で、裸足でつくったものを、そのまま野外でも表現できる環境を、どうしてもつくりたかったんですよね。そういう風に俳優のからだの自由度を高い状態にできると、言葉だけに頼らなくても楽しんでくれる人達が出てきたりとかしますし。

小川 ああ、よりフィジカルに。

松本 この間出演させていただいた高田馬場経済ラジオさんでもそういう話になったんですけど、作者の堀田さんの言葉とか、劇中でも引用した詩の言葉って、日本人としても難しいじゃないですか。

熊野 うん、うん。

松本 日本語としても難しい言い回しだったり、難しいロジックの展開をしてる中で、言葉だけに頼るのではなくて、言葉はわからなくてもなんだか見入っちゃうとか、なんだか俳優がフィジカルに面白いことをやってるから観ていられる、っていう時間をつくるために、やっぱり所作台をつくることは必要だったなって、あらためて思うんです。

小川 出来ることが増えるからね。それが俳優の側からはすごくありがたい。

松本 そうそうそう!俳優の側、演劇の側からとれる選択肢がすごく増えるから。もちろんね、すぐに、どんな団体の方でも無理に使ってくださいなんてことは思わないですけど。

熊野 もちろんね。使わなくても、上演できますし。

松本 そう。でもあの所作台を使えばやれることは増えるし、選べる表現の幅が増えればもっと沢山のひとが足を止めてあそこで演劇を観るだろうし。公園の近所に住んでいる子たちが大きくなって、「そういえば小さいころにあの公園で野外劇をやってるのを観たことがあるなぁ」っていうのが積み重なっていけば、それってその街のひとつの文化になると思うんです。近くに暮らす人たちが通りがかりで舞台芸術と出会う、そんな場所になってくれたら素敵だな、っておもうんですよね。劇場は建てられないけど、床板を一枚敷くだけで豊かな、ひらけた劇空間をああいう風につくることはできるっていうのは、すごく嬉しいことだなって思いました。

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その五につづく

◆日本全国の73名の方々から535,000円の応援をいただき、資金調達が無事に終了しました。ありがとうございました!!
【平泳ぎ本店 クラウドファンディングについて】
「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」

◆本日もご清覧頂きありがとうございます。もしなにかしら興味深く感じていただけたら、ハートをタップして頂けると毎日書き続けるはげみになります!
◆平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co . では向こう10年の目標を支えて頂くためのメンバーシップ「かえるのおたま」(月額500円)をはじめました。
メンバーシップ限定のコンテンツも多数お届け予定です。ワンコインでぜひ、新宿から世界へと繋がる私たちの演劇活動を応援していただければ幸いです。
→詳しくはこちらから。https://note.com/hiraoyogihonten/n/n04f50b3d02ce
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