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かたるひとたち『若き日の詩人たちの肖像』振り返り編その三

Photo by Mikio Kitahara

この記事は、2024/5/17-19東京都新宿区戸山公演野外演奏場跡、および2024/5/25-26長野県上田市犀の角にて行われた、平泳ぎ本店第8回公演『若き日の詩人たちの肖像』(原作:堀田善衞)の公演をふりかえりを書き起こしたものです。

参加者

俳優 松本一歩
撮影:北原美喜男
俳優 熊野晋也
撮影:北原美喜男
俳優 小川哲也
撮影:廣瀬響乃

その二は↓


小川 このままその、今回の作品の話にいきたいなと思うんですが、まずその、、、作風、平泳ぎ本店の特殊なところのひとつである、シーンの細切れをつなぎ合わせて上演するっていうつくり方を、以前も何回かやったことがあるんですけど、『えのえをなれゐて』(2016年 第2回公演 早稲田小劇場どらま館)と、それから『コインランドリー』(2017年 第8回せんがわ劇場演劇コンクール、 第3回公演 十色庵)も近いのかな?それからえっと『演劇的な、余りに演劇的な』(2018年 神楽坂セッションハウス)『Theatrical Power-POP』(2019年 神楽坂セッションハウス)、、、

松本 そうですね、セッションハウスで発表した一連の、、、

小川 っていう作品たち。でその一方で一本の戯曲をちゃんとつくる、みたいなこともやってきたわけじゃないですか。

松本 ええ、ええ。

小川 今回『若き日の詩人たちの肖像』っていうのをつくるにあたって、この形式(コラージュ)をとった、ていうのは何かこう一歩の中でアテがあった?それとも結果的にこうなった、みたいなことなのかしら。

松本 、、、そうですね、もともとこういうコラージュっていうつくり方をして来たときには、色んな小説とか戯曲とか映画とかドラマとか、ほんとにいろんなところからテクストを寄せ集めていたんですよね。それこそ一冊の本をパッと開いてそこのページからテクスト持ってきて、それでシーンを立ち上げる、みたいなことをやっていたんですけど、今回はその発展形というか。
「一冊の小説の中から」俳優が発語するテクストを拾い集めてきて、そこからシーンを選んで立ち上げる、っていうことはまだやってなかったなと思って、我々一回も。

小川 そうですね。

熊野 そうか。

小川 実は。

松本 実はやってない(笑)。

熊野 コラージュはやってたけど、それは色んな媒体や作品から持ってきた本当のコラージュだったんだ。

松本 そうそうそうそう。

熊野 あーなるほど、そうだね。そういえば、観たものはそうだった。

松本 ほんとに節操なく(笑)。いろんな、色んな所からもってきてたてくすとをコラージュしてましたね。でもこれを一本の小説からやったらどうなるんだろう?っていうのは、、、

小川 興味、みたいなところ?

松本 そう、そうそうそうそう。

熊野 逆にそっちをやってなかったんだね!

松本 そう、やってなかったんです(笑)。

熊野 節操がないほうは、何本もやってるのに!(笑)

松本 『俳優の魂/贋作 不思議の国のニポン演劇盛衰史』(2022年 第7回公演 シアター風姿花伝)とかもそうですからね、あれもいろんなテクストから引用しまくっていました。
でも、、、まあでも、それはやっぱり作品と出会ったからですよね。堀田善衞さんの『若き日の詩人たちの肖像』という作品とたまたま出会って、それが長編小説だったということもそうだし、あとは謝辞(小説のあとがき内)にも書いてありますけど、堀田さんだけではなくていろんな人の詩とか小説とか、文章っていうのがその一冊の長編小説の中にたくさん引用されてぎゅっと詰まった群像劇だっていうこととか、、、そういうことも含めて、この作品をコラージュっぽいつくり方でやってみたかったんですよね。なにしろ長編じゃあないですか!

熊野 長編ですよ(上巻409ページ、下巻357ページ)。

(笑)

松本 これをやっぱり、60分という時間の中でいわゆる普通の演劇というか、単純にストレートプレイの会話劇にするっていうのはだいぶ厳しい闘いになるだろうなっていうのは想像していたので。だから、ゆえに、逆に?そういう自分たちが元々取り組んできていたコラージュっぽいつくり方がかえってハマるんじゃないか、っていう予感みたいなものがあって。

熊野 あーなるほど。

松本 それで今回このようにして作ることができた、っていうかんじですかね。

松本一歩。

小川 全体の構成自体は一歩が整えてくれたじゃないですか、最終的にはこういう順番で上演しようっていうのは。

松本 はい、はい。

小川 とはいえ、一つ一つのパーツは、それぞれの俳優が「気になる!」みたいな箇所を持ち寄って、で皆で立ち上げていこう、みたいな流れだったんだけど。そこもなんかこう、、、予感というか、こうしたら面白いんじゃないかなっていう予感はあったんですか?

松本 そこは、やっぱり、なんか、、、(俳優としては)言いたい台詞を言いたいじゃないですか!

熊野 うん、うんうんうんうん。

小川 そうね。人の口から聞いてみたいとか、、、

松本 そう、読んでいる段階で「この言葉を言ってみたい/聴いてみたい」ということに対する強い”モチベーション”があったほうが、言葉に対する、、、なんていうんだろな、、、これすごい変な言い方しますけど、なんか「執着」っていうか。言葉に対する俳優の集中力、執着する力、が絶対にとっかかりとしてその人の中にあったほうが、絶対にひとつひとつのシーンが魅力的になる、っていう感覚が僕の中にかなり強くあって。

熊野 ほう!

松本 それで、俳優自身が覚えたいとか、「やってみたいな」って思うような好きなシーンとか、好きな言葉って、何回も口の中で転がすじゃないですか。諳んじるというか。そこから色んな妄想が出てくるじゃないですか、これはこういう風に言ったら面白いんじゃないか、とか、これはこういう風に上演してみたいとか、こういう風にしゃべりたいとか。それはひとつひとつの言葉のアクセントもそうだし、文章に対して一人ひとりの俳優が、なんていうんだろう、、、

小川 思い込む?

松本 そう!!強く、強く思い込むじゃないですか!それが、すごくやってみたかったんですよね。選んでくる言葉はなんでもいいわけじゃなく、こだわり抜いた言葉とか、(日本酒の)純米大吟醸みたいにその俳優が自分の中で研ぎ澄まし抜いた言葉、みたいなものが舞台の上で聴きたい!っていうのが、なんかあった、ですねえ。

熊野 うーん!

松本 それは俳優と言葉との関係において、それはすごく、、、緊張度も高くなるし、すごく密度も高い表現になるんじゃないかなって。

熊野 うんうん。

松本 「与えられたテクストを読む」っていうのは、俳優ならなんだって出来ると思うんですよ。たとえばそれが蕎麦屋のメニューだったとしてもいいわけじゃないですか。名優ならなんだって見事に読むんだと思うんですけど、そうでなくって、、、自分がすごくしゃべりたいって思う言葉、読んでみたいっていう言葉、美しいと思う言葉に対して、俳優がいかに肉薄していくか、みたいなことが見たかった、というか、、、

熊野 ふうううん!

松本 なんかたぶん、たぶんですけど、僕も客席では観られなかったので記録映像で観ただけなんですけど、今回の上演は一個一個のシーンがなんかねえ、、、官能的になってたと思いますよ、個人的な感覚として。

小川 へええ、官能的!

松本 なんか「肉感」があった気がする。すごおおく、今回の上演は。言いようのない、”色気”のある言葉が続いてたんじゃないかな、って個人的には思うんですよ。まあそれは勘違いかもしれないんだけど、、、っていうのは、俳優がひとりひとりの俳優が言葉を言うときに、否応なく魅力的だなって僕は稽古場から思っていたから。一人の俳優が言いたい言葉を言っている、っていうのが!

(笑)

小川 観に来てくれた俳優の方が感想で、昔の小説の再構成なのかなって最初観てるうちは思っていたけど、かなり「肉体的」だったっていってくれて。それはもしかしたら、身体的に表現が多かった、っていうことだけじゃなくて、一歩がいま言っていたことが含まれていたのかなって?今は思いますね。

アジトの書棚。

小川 今回、この本との出会いは、結構偶然?なんかその、、、我々(平泳ぎ本店メンバー)も、この小説をやるっていうのはわりと唐突に聞いたんですけど、このあたりのことも一歩の中では、、、いずれやりたいなあ、と思っていたものではなく、「出会った」ものなんですか?

松本 、、、(長く考えて)はい。

熊野 へえええ。

松本 なんで、この小説をなんではじめ見かけたんだろうなあ、、、ま、でも、、、なんかの本で読んだかかなにか、したんだと思うんですけど、、、最初のきっかけってほんと、なんだったのかなあ、、、?

(長い間)

松本 でもたぶん、たしか最初に出会った文脈としては、「ここ(若き日の詩人たちの肖像)に描かれている時代の背景、この人たちの過ごしている時期、この時間が、いまの現代に近いものがあるよ」みたいな形で人に紹介してもらったかなんかで、「それはちょっと興味がある!」と思って読みにいったのがそもそものはじめだったんだと思うんですよね。

熊野 へええええ!

松本 たしか、、、でもそれは、本当に、偶然ですよ。

小川 うんうん。

松本 偶然なんだけど、読んでるうちに、築地小劇場がでてきたりとか!

熊野 うん!

松本 旅回りの役者の一座の人たちがでてきたりとか!あとは芥川比呂志(俳優)とか加藤道夫(劇作家)が出てきたときに、「あああああ!!」と思って、もう否応なしにこれをやってみたいって、、、

小川 これだ!と。

松本 「これだこれだ!」と思ったんですよね。てっちゃん(小川)と熊野さんにやってもらった「二人の会話」っていう堀田善衞さんと芥川比呂志さんが喋るシーンとかも、これは絶対に演劇として一回やってみたいと思ったんです。そうして、気が付いたら、っていう感じでしたね。

小川 はああなるほどねえ。

松本 出会うべくして出会った、っていうとなんかそれはちょっとカッコつけすぎだけど、でもなんか、気が付いたら上演することになってましたね。

熊野 成程!

松本 逆にどうでした!?この小説を読んでみて。どうでした?

小川 読んでみて?

松本 お二人は。

小川 わたくしはですねえ、、、面白かったよと、まずは。でも、ちょっと読みづらかった部分はあったというか。

松本 うんうん。

小川 文体、みたいところが自分が今まで読んでた小説とか違っていた、とか、、、タイミング的に、詩とか現代短歌を面白いと思って読んでた時期で、脳がそっちのほうにいってたから、こう、、、なんていうの文章の重さがすごい!みたいな。

(笑)

小川 そういう印象はあって。でも読み進められたし。それと、なんだろう今の、戦争に向かっていっている、戦争が存在している自分たちが生きている時間と、重ねるところもあったし。登場している人達っていうのが、フィクションでなく過去にいた人達であるていうのも、自分には魅力的に感じたし。

松本 うんうん。

小川 いい本と、出会わせてもらったなあ、っていうことが感想ですかねえ。

松本 おおお、ありがとうございます。どうですか?(熊野さんに)

熊野 僕、これ、出演が決まって、他の舞台も二本くらいやってる中で送られてきた本を見て、、、

(笑)

熊野 「うわ分厚!」て思って(笑)。開いてみて「字、小っちゃいなあ、、、」て思って、、、だからかなり読むのが重たかった(笑)。

松本 (爆笑)。

熊野 で、最初数ページ読んで、第一部に入る前かな?序章のところを読んだ段階で、「あ、これ片手間で読めないやつだ」と、、、「そもそも漢字が読めん、、、」みたいな(笑)。調べながら読まなきゃいかん。と同時に、「え?これ野外劇でやるの?」て思って。
なんか僕がやってきた野外劇、はどこか言葉の段階で肉体的であるというか、、、唐さんの台本が多かったから、どこか、俗っぽいというか、根底には感じていたから、、、「これ(若き日の詩人たちの肖像)って野外劇に向くのかなあ?」っていう思いがあって、、、でも面白かったねえ。、、、でもそれは「今」読んだから面白いんだと思う。

松本 ああー。

熊野 自分たちにも何か通ずるものがあった、、、もちろん今と全然状況は違うし、当時よりかは今は色んなものが豊かだし、だけど、当時よりもすごく見えづらい形で、なにか弾圧されていることがある気がするし。そこから感じるものがすごくあった。今が戦前なんだか戦後なんだか戦中なんだかっていうところも含めて。で、この小説を過ぎ去ったものとして読めない今ってやばいな、っていうこともあって。すごい小説だなあって。野外劇でやることは、とりあえず置いといて(笑)。

(笑)

熊野 どうするかは、ちょっとわからんけれども(笑)。で、結構読むのにかかって、稽古の開始段階で、自分の中でこう噛み砕けてなかったから、入り込むのに少し遅れた感はあったんだけど。

松本 うん、、、

熊野 でもやっぱり、よかったね。なにが良かったかって、良いなと思うところに付箋だったりドッグイヤーつけてたら、えらいことになって(笑)。

2023年プレ稽古、稽古場より。
小川の文庫本。

小川 そうなんですよねえ。あのページどこだっけみたいに、、、

熊野 どこだっけ?みたいな(笑)。くだらないところから、真に迫るところまで、気になるところがいっぱいある良い小説でした。と同時に、この読み方をさせてもらえてありがたいなと思った!

松本 へええ!

熊野 なんかこう、、、ただ読むとちょっと退屈に思っちゃうくらいの凄い文量、があるから。でも、上演しなきゃならない、っていう前のめりさと、「なにか気になったところはどんどんピックアップしてください」って言ってもらってたことで、ちょっとでも自分の中で触れたところは印をつけてく。これは、「この読書体験、忘れかけてたな」って感じ(笑)。

(笑)

熊野 こういう作品への触れ方って、僕らが忘れちゃいけないなって。あらすじ(解説)とかさ、ネタばれ禁止とかってよくあるじゃない?

松本 はいはいはい。

熊野 それって面白さの本質か?って思うというか、、、面白い映画とか舞台をみて何を覚えてるかって、、、昔、山の手事情社さんのロミジュリ(劇団山の手事情社『YAMANOTE ROMEO and JULIET』構成・演出/安田雅弘 2008年 にしすがも創造舎 特設劇場)を観て、非常によく覚えてるのはあるシーンのジュリエットをやっていた女性の、表情をめちゃくちゃ鮮明に覚えてるの。

松本 へえええ!

熊野 それがどのテクストをつかったシーンだったか、それもちょっとコラージュをしたやつだったから忘れたんだけど、その表情を見られたという点だけでお金を払ったことに満足してる。物語とか、話の筋とかももちろん大事だけど、そうじゃない震え方、は確実にあって。それを作ってる側が忘れると、あらすじ、種明かしみたいな、上手く伏線を張って回収をすることに終始してたら、あんまり豊かさはないよなって。今回こうやって、(上演台本を書く)作家がいてじゃなくて、自分が主体的に作品を読めて、すごく良かったね。だからこの作品を好きになれたのは、今回こういう形で読めたから(笑)。

松本 (笑)。

熊野 普段みたいな、早く結論を!簡単に快楽を与えてくれよ!ぐらいのかんじだと、、、

松本 熊野さんって普段そんな感じなんですか?!

熊野 ふとするとね(笑)。ショート動画をみちゃうダメな自分、、、インスタントな快楽を求めちゃう感じでは絶対に得られないものがあったから「このやり方は忘れちゃならんな、、、!」と(笑)。

小川 割と創作の初期の段階から、物語を追うっていうところは捨てて作っていたかなっていう感じがしてたけど、そこはどうですか?それだと小説を読めばいいじゃんっていう話があったじゃない。

松本 あったねえ!この小説を「演劇として上演」をしますってなったときに、究極、本があるから。

小川 内容知りたかったら本を読めばいいじゃない、って話があったよね。

松本 そうそうそうそうそうそう。

小川 そうはしないために、っていうところは考えていたかなあ、、、

熊野 それは僕が参加する前の、※プレ稽古からそういう、、、?
(※2023年6月26日~2023年7月6日に行われた、『若き日の詩人たちの肖像』創作稽古)

松本 そうそう。熊野さんがさっきおっしゃっていた、あらすじ、ネタばれ禁止みたいな話が、だってもうこれ小説だから、、、

小川 もうありますからね、、、

2023年プレ稽古、稽古場より。

松本 もう、あらかじめ読んできてくれたら全部わかるじゃん!みたいなところはちょっとあって。
あと僕の、この作品を上演しようとする時の僕の実感として、それからこの作品を読み始めての問題意識として、現代詩がわかんなかったんですよ、、、

熊野 はいはいはい。

松本 この中には詩がたくさん入っているじゃないですか。いろんな人の、いろんな詩が。詩ってどうやったらいいんだろう?どうやって読んだらいいんだろう?っていうのがイメージが正直僕ついてなくって。田村隆一さんの詩とかも沢山入っていて、田村さんの詩集も読んだんですけど全然ピンときてなくって、、、そこになにかしら回答を、演劇を通じて答えてみたかった、っていうことがありました。

小川 へええ。

松本 詩って、言葉だけど言葉以上のものがのっかってくるじゃないですかそこに。僕らも今回の上演で、例えば冒頭の「あの人はどういふ人かと~」とか、いくつもの詩を演劇のシーンにしていますけど、あれがまさにやってみたかったことではあったんです。詩がほんとうにわからなかった。だから俳優としてどういう風に発語したらいいんだろう、どうやってお客さんと共有したらいいんだろう、みたいなことを考えたくって。冒頭のシーンではああいう形にしたし、別のシーンでは詩にメロディーがついたり、、、そういうことを通じて、僕は僕で、現代詩のことを知りたかった。っていうのはあったかもしれないです。わかんないものや、ピースがこの小説にはたくさんあって、、、

熊野 うん。

松本 あと、堀田さんの「文体」っていうことに関していうと、「演劇にする!」っていったときに向きか不向きかで言ったら、不向きなんだと思うんですよ。

熊野 うんうんうん。

松本 文章としてすごく端正だから、俳優がエネルギーを込めて読むような文章は少ないと思うんです。っていうところを、ひっくり返しながら、どうやって演劇にしていくんだろう?っていうのが楽しいところではあったかな、チャレンジとして。
だから、これは演劇に「できる」ぞ!絶対に演劇向きだ!って持ってきた本ではなかったです。

熊野 うんうん。

松本 「演劇にこれは向いてるぞ!翻案したら一発で演劇にできるぞ!」みたいな気持ちではもともと選んでいない。「あ、、、これ、、、あ、、、むっず、、、ああ、、、むずいなあ、、、」と思いながら、、、

(爆笑)

小川 苦労するぞと(笑)。

熊野 ほんとにね(笑)。

松本 ほんとに難しい作品ではありました。「これやる!」って言ったけど、どうしよう、、、っていう気持ちはずっとあったから、、、正直ね!そんなこと言わないですけど、皆の前では!頭抱えながらやってた部分はあったから、、、チャレンジではありました。

熊野 演劇向きではなかったよねえ、、、

(笑)

熊野 稽古の終盤で、辻本さん(小道具スタッフ、辻本直樹さん)がnoteを書いて下さったじゃない?

松本 はいはいはい!

熊野 あれが!もう俺、ピーーーン、て来て(笑)。小説を前にして、わからないとかありながら、詩もわからないところがありながら、前のめりに読んで自分の心が動いたところをピックアップしていって。みんなが持ってきた箇所もみて!「え、これ、どうやって、、、?おい、やばいんじゃないか、、、?」みたいな(笑)。

(爆笑)

熊野 「何やってたんだっけ俺たち?」てなっていた時に、辻本さんが書いてくれてた「読書体験を演劇にしようとしている」っていうのは、本当にそうだなと。手軽さを求めるならほかの媒体で全然いいというか、こんなつくり方しなくていいというか。それこそもっと、面白い作家がいて、取りまとめる演出家がいて、俳優はパーツとしてバアーっと動いて、スピーディーにつくれば、効率的にエンタメをつくる、みたいな。みんな忙しいから、簡単に楽しめるのもいいと思うけど、、、こういう(平泳ぎ本店の)つくり方でしかできないような、読書体験や、個人的な歓びを、具現化する、演劇化するっていうのはとても良いなあと。

松本  まさにひとりひとりの読書体験、の演劇化、ですねぇ。

熊野 だからぼくは辻本さんのnoteをみて、「いいものになる!」って思った。もしこれが、すぐに評価に繋がらなかったとしても。今このやり方でやったほうが、いま僕が欲しいものをやれるに違いない、とおもって。
それぞれの俳優が、読書体験で感動した部分をやるからこそ、俳優にとってそのテクストが、なによりも強い武器になるというか。このやり方は良いなあと!
良いなあ、と思うと同時にやっぱでも、このつくり方ねえ、大変、だよねえ、、、(小声)

(爆笑)

熊野 稽古場にいくまでになにか、皆がそれぞれ溜めておかないと、なににもならないつくり方だから、、、

松本 そうですねえ、、、(小声)

熊野 大変だなあって、、、でも結実したときは素晴らしい、、、、自分でもびっくりした。あのお婆さんのセリフ、「戦争になるがやないけ」っていう、めっちゃ良いシーンだなと思っていて、、、あのシーンほとんど稽古してない(笑)。

(爆笑)

戸山公園野外公演、舞台写真より
Photo by Mikio Kitahara

熊野 お客さんがどう思ったかは別として、やってて楽しかったから。あのシーンを読んだ時に何かを感じてそこをピックアップした感覚は、裏切ってないというか。

松本 うん、うんうん。

熊野 波紋のシーン(下図セットリスト、シーン2「ことばの波紋」)とかも、(音数が)足りないってなったときに、みんながぽつぽつ足していった言葉が、なんか秀逸だった。文庫にして800ページ近くある小説の中で、一人の人を動かすだけの言葉の、力強さってやっぱあるんだなって。堀田さんが書いた大量の言葉のなかで、さらに一個人が動かされたピースをとると、かなりいい弾丸になるというか。

『若き日の詩人たちの肖像』セットリスト。

松本 たしかにね!確かに確かに確かに。だから、ひとりの人に刺さっている、「気になってる」っていう言い方を今回この稽古場ではしてましたけど、そういう言葉の拾い方って、ひとりの人がやるからそういう風に強度を持つんでしょうねやっぱり。感性とか、色んな経験をもった一人の人間が、ここ!って思うところって、個性も出るし、そこがなんか面白いんでしょうね。密度が増すっていうか。読書体験の集合体というか一人ひとりの、、、

小川 6人分の、、、

松本 そう、「6人分の読書体験をくらえ!」というか。

(笑)

小川 一人のひとが決めた言葉、ではこうはならなかったでしょうね。

松本 そうそうそう、当初いろんなプランがあって、、、限られた時間の中で、僕があらかじめ使用するシーンを決めちゃって、テクストもあらかじめ上演台本として全部出しちゃって、そこから決めてくっていう考えもあったんですけど、それやると、言葉をさらう笊が僕だけになって、今回みたいな多面性やバリエーションは出なかった、と思うんですよね。

小川 そういう決め方(一人がきめる)自体がこの作品とそぐわない、っていうこともあったよね。トップダウン的な決め方になる、それに従って全体主義的なものになる、っていうのがこの作品とは相容れないってはなしも、ありましたね。

松本 そう!誰か一人の世界観に回収されちゃうと、それって詩人「たち」の肖像にはならないっていうかね。この小説の秀でているところだと思うんですけど、一人ひとりの存在がこの小説のなかに浮きたっているというか、なんていったらいいんだろな、、、いい意味で人物にまとまりのない、それがこの作品の良さなんだろうなと、思っていました。

熊野 そうね。(小説内で)サロンに集まる人たちも、ただのエンターテインメントにするんだったら、もう少し、エピソードとかキャラクターを統合したりして、一人ひとりをもっと濃くしてとかするんだろうけど、、、

松本 たとえ登場回数が多くない、そこに一回きりしか現れないような人でも、一人ひとりかなり克明に描写されていますよね。

小川 それがその、堀田さんなりの、同時代に生きた人達へのリスペクトなんだろうね。

松本 その時そこに、その人がいたってことを、すごく大切に思って文章が書かれているから。

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その四につづく

◆日本全国の73名の方々から535,000円の応援をいただき、資金調達が無事に終了しました。ありがとうございました!!
【平泳ぎ本店 クラウドファンディングについて】
「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」

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