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かたるひとたち『若き日の詩人たちの肖像』振り返り編その五

photo by Kyono Hirose

この記事は、2024/5/17-19東京都新宿区戸山公演野外演奏場跡、および2024/5/25-26長野県上田市犀の角にて行われた、平泳ぎ本店第8回公演『若き日の詩人たちの肖像』(原作:堀田善衞)のふりかえりを書き起こしたものです。

参加者

俳優 松本一歩
撮影:北原美喜男
俳優 熊野晋也
撮影:北原美喜男
俳優 小川哲也
撮影:廣瀬響乃

その四は↓

小川 今回ははじめてのツアー公演ということで戸山公園での野外劇から、上演場所が犀の角へと移るわけですけど、、、平泳ぎ本店としては、犀の角さんとの出会いっていうのは、一昨年2022年に第2回新潟劇王に参加したときに最終調整の稽古のために立ち寄ったのが初めてだったんですね。

熊野 ふむ。

小川 一歩は、それよりも前に知っていたと。

松本 そうですね。

小川 それは全国小劇場ネットワークの関係で出会った、っていうことだったんですか?

松本 はい。お話ししましょう!!

小川 してください!

松本 思えばほかではあまり話していないんですけど、僕がそもそも全国小劇場ネットワークのことを知るきっかけとなったのも、元はといえば劇団唐ゼミ☆の中野さんだったんです。

熊野・小川 へええええ!

松本 中野さんがKAATで事務仕事のお手伝いができる若い人を探されていた時期に、「あれ、松本くんって制作できるんだっけ?」「できますよ!」っていう話があって。
小劇場の俳優ってみんなそれぞれに照明ができたり音響ができたり、舞台の大道具ができたりする中で、僕はたまたまたまたま時間堂という劇団で制作助手をやっていたので多少の制作の心得があったんです。

小川 ええ。

松本 それで中野さんがKAATで働き始めたのとちょっと前後して、横浜の黄金町に佐藤信さんがやってらっしゃる、若葉町ウォーフっていうアートスペースができたんですね。

熊野 うんうんうん!

松本 そのとき信さんもちょうど人手を探されていたので、中野さんの紹介ではじめて僕はウォーフに行って、信さんにご挨拶をして。それで若葉町ウォーフでも制作のお手伝いをするようになったんです。だから僕が佐藤信さんと出会わせてもらったのは中野さんのおかげで。

熊野 へえ!

松本 それでしばらく清水宏さんの企画のお手伝いをしたりしながらウォーフにちょくちょく出入りをしていて。それであるとき「今度、全国小劇場ネットワークでシアターホームステイっていう企画をやるから、よかったら松本くん行ってみるかい?」っていう話をいただいて。

熊野 ふううん!

松本 信さんから「各地の劇場へ行って、一週間ボーッとしてたりするだけでいいんだよ」なんておっしゃって頂いて、これは思いがけず良いお話をいただいたなと思って。そのシアターホームステイで受け入れ先の候補になっていた劇場の中から、長野県上田市の「犀の角」に行くか、「銘苅ベース」っていう沖縄の那覇の劇場に行くかで悩んで、結果その時は銘苅ベースに行くことにしたんです。

松本 那覇ではいろんな劇場をみることができて、沖縄のことを知ることもできてすごく貴重な経験をさせてもらって、、、それでよくよく話を聞いていると、全国小劇場ネットワークのすべてのルーツというか、全国の劇場同士のつながりができる始まりの地が沖縄だったんですよ!

熊野・小川 ほおおお。

松本 犀の角での公演を観にも来て下さった野村政之さんが、アトリエ銘苅ベースの立ち上げ当時に沖縄のアーツカウンシルにいらっしゃって、他ならぬ野村さんが沖縄の銘苅ベースをつくるために、全国の小劇場にシアター銘苅ベースの皆さんを派遣されたらしいんですよね。実際に各地の劇場を視察してもらうために。

熊野 へええ。

松本 KAAT(神奈川県、神奈川芸術劇場)、WHARF(神奈川県、若葉町ウォーフ)、犀の角(長野県上田市)、シアターZOO(北海道、扇谷記念スタジオ・シアターZOO)、コンカリーニョ(北海道、生活支援型文化施設コンカリーニョ)、枝光元町商店街アイアンシアター(福岡県北九州市)って津々浦々視察してもらって、そのときにあらためて人的なネットワークが生まれたらしいんですよね、劇場同士の横の繋がりみたいなものが。それをひとつの形にしたのが「全国小劇場ネットワーク」ということらしいんです、ざっくり言うと。

熊野・小川 ふううううん!

松本 だから僕は唐ゼミの中野さんのおかげで佐藤信さんに出会って、信さんが僕を銘苅ベースへ派遣してくださって、沖縄に行って、犀の角のことを知って、、、それで平泳ぎ本店で新潟にいく用事が出来たので、その道中で元々行ってみたかった上田の犀の角にも寄れるなって思って、寄ってみたのが2年前の2022年だったんです。

熊野 うんうん。

松本 あらためて劇場ってやっぱり、実際にその場所へ行って、見る、ことがとても大事だと思うんです。犀の角へ行った時も、もちろんHPなんかで見てはいたけれど、実際にその街へ行って、そこで稽古をさせてもらって、劇場の皆さんのお話を聞いて、肌で素敵な劇場だなと思ったんですよね。

小川 ええ、ええ。

松本 それで「いつか犀の角を使ってみたいな、、、」って思っていたら、たまたま今年(2024年)の五月に空きができました、っていう連絡を村上さん(村上梓さん 犀の角)が下さって。その日程なら、戸山公園で野外劇を上演したあとにツアーで行けそうだなっていうことで偶然が重なって、平泳ぎ本店としての初めてのツアーの地に犀の角を選ぶことができたんですね。だからぜんぶ人のつながりです。

熊野 なるほど、そうだったんだ、、、!

松本 だから、野村さんが僕らの公演を犀の角で観てくださったっていうのは、僕にとってすっごくうれしいことだった!僕が演劇を通じて旅をすることができるようになったのも、もとはといえば野村さんのおかげだし、、、近年の自分の演劇活動の恩人みたいな方なんですよね。

犀の角にて。上段左から三番目が野村政之さん。
Photo by Kyono Hirose

熊野 犀の角、良い場所だよね、、、!

松本 本当に素敵な場所ですよね、、、お二人はいかがでしたか犀の角は!?

小川 良い場所だよね、取り組みも素敵だし、、、

松本 ただ一点、稽古や仕込みが忙しすぎててっちゃんと熊野さんにね、「檸檬」に行ってもらえなかったのがね、、、(非常に悔やまれる)


熊野 、、、?あ、犀の角の目の前のね!中華料理屋さん!非常に美味しかったという、、、

小川 しょうがないんだよ、熊野さんは照明を手伝ってくれたんだよ、、、

熊野 やんなきゃいけないと思ってたから、、、

松本 結果として志まんやき(犀の角のすぐ近くにある富士アイスのソウルフード)ばっかり食べさせることになっちゃって、、、

https://tabelog.com/nagano/A2004/A200401/20009498/


小川 いいんだよ!志まんやきだって美味しいんだから!

松本 最高においしいんですよね、志まんやき、、、

熊野 犀の角さんの魅力って、街の魅力もあるけど、、、僕はぜんぜん劇場の歴史みたいなものを知らずに行ったけど、ちゃんと「ひらかれて」いる気がする。実際のところどのくらい地域の人達と繋がりがあるかは、あの短い期間ではわからないけど、でも「あそこに劇場なんかあったっけ?」っていう状態ではない、一歩進んだ感じがしてたし。なにか、こう、、、コミュニティがある場所、っていう感じがして、それがすごく素敵に感じたかなあ。

小川 先にコミュニティスペースがあって、そこで演劇が行われてるって感じですかねえ、、、

熊野 そうそうそう。

小川 犀の角にいく少し前くらいに、たまたまラジオで犀の角のことをやっていて。居場所がない女性が、犀の角のゲストハウスを利用できるようにしてるっていう「やどかりハウス」のことを。そういう取り組みも素敵だよね。

松本 ね、劇場がそういう風にして困っている人たちに居場所を提供できるっていう。

小川 東京都内の劇場だとそういう話って、俺は聞いたことがなかったから。あとは見学もさせてもらった上田映劇さんとかも、学校に行きづらい子にたいする取り組みをやっていたり、、、


松本 学校に行きづらい子が映画館に来ると出席として扱われるという、あれも素敵なシステムでしたね。

小川 これも数日前ラジオで聞いて、そういう積極的な発信もすごいと思う。劇場としてただの貸し小屋じゃないっていう側面が、すごく尊敬できる。

熊野 そう、貸し小屋なだけじゃない、、、何だろう、あの空間がもっている解放感みたいなものもあるのかも。あの道路に面してる大きい窓、あれ劇場に改築するってなったときに、潰すんじゃなくて広げたって言ってて(笑)。

松本 あ、そうだったんですか(笑)!

犀の角の大きな窓。
Photo by Kyono Hirose

熊野 非常扉のほう、格子になってたところは多分もともと壁だったのを、拡張して窓にしたって言ってて!そのあたりの、姿勢からしてなのか、、、貸し小屋としての劇場ではなくて地域のなかの「文化拠点」としての「劇場」を感じた。

松本 おおおお!

熊野 山の手事情社の安田さんが言ってたのは、「劇場は、学校や病院と同じようなもので、社会の中での病院的な、医療で治さない病院的な立ち位置なんだ」とか、世田谷パブリックシアターの白井晃さんも劇場が社会に対して必要なものって考えてるって言っていて。
犀の角さんは、暗くて、壁が厚くて、中に入ってみないと何が行われているのかわからない、っていうものよりも、、、気安さ、行く当てにない人に寄る辺がある場所、っていう雰囲気がすごくあって。これは良いなあ、って!

松本 そうですねえ、、、

熊野 そして、あの我々の二日くらいの、犀の角での創作期間で、あんなに、あんなに遅々として進まないと小屋付きの方としては面倒じゃない(笑)。朝からさ、追加で仕込みの補助も呼んで下さったり、、、途中からあまりにも進まないのに気づいて二階に控えて下さってたけど、、、あれは、苛立たれそうなものなのに、まったくそんなことはなく付き合って下さって。基本が「いいですよ」っていうスタンスが、すごく助かった。あんなに、あんなに無策で、、、

松本 ほんとに、ほんとにそうですね、、、(すごい小声)無策だってことにあんまり気づいてなかったですからね、、、

熊野 ん、だれが?

松本 私自身が、、、

熊野 ああ、、、

松本 今思えばいくらでも、事前に音響や照明のプランを打ち合わせて、図面を送って、希望を伝えるっていう、やりようはいくらでもあったんです。それでもほとんど我々の思うように空間をアレンジして上演ができたこととかも含めて、それはぜんぶ犀の角さんのスタンスとか、我々のつくり方を受け入れてくれる度量、懐の深さによるところが大きかった、、、

熊野 いやあ、ほんと、そうだよね。

松本 そのおかげで、短い期間でも十分に試行錯誤が出来たし、自分たちが望む形で上演ができました。アーティストの都合で、潤沢に時間と場所を使うことができたから、ホントに助かりました、、、

熊野 やっぱり無策だったんだね、、、

松本 よくよく考えればはじめてのツアーで、舞台監督も音響、照明、小道具のスタッフも一切なしで俳優の身一つで乗り込んでいってしまったんですよね、、、

小川 たしかに、、、

松本 とはいえこっち(東京)であらかじめプランをしていったところで、実際に犀の角の空間をみたら絶対にやりたいことが変わるだろうな、ということはずっと頭にあってですね。

熊野 うんうん。

松本 野外でやっていたことは野外でやっていたこととして、犀の角の空間に入ったら絶対にイメージや演出の内容も変わるだろうから「あまり決め打ちをしすぎない」っていうことも頭の片隅にあったんです。そんな風に作品としてもあそびをある程度残した状態で持って行けて、だからこそ犀の角の空間に作品を最適化することができたのかなあ、っていう部分はありますね。

小川 ほう!

松本 客席や舞台の組み方っていう空間の使い方、照明も含めて「どういう風に客席と舞台を設定するのか」「この空間の中のどこをどうやってつかうのか」「どうやって見せるのか」、そこを焦らずに決めていけたのは、これはもう村上さんたちのおかげでした。

小川 使ってはいけない場所がないっていうのもすごかったね。

松本 バーカウンターの中も使わせてくれたし、、、屋外の屋根や梯子だって登っていいって言ってくれたし、、、

熊野 ね、使いきれなかったけど。

犀の角の屋上部分を下見する一同。
Photo by Kyono Hirose

松本 だからそこは、今でも野望として残ってるんですよね。もし次にまた犀の角を使えるってなったときに、あらかじめいろいろと連絡をとって準備をして、犀の角の中や外のどういう場所をどういう風に使おうかってロケハンをちゃんとして、もっとスペシャルに、犀の角全体を使いきれるような上演がしたいなって思うんです。

小川 梯子、登りたいです!

松本 今回もはじめましての犀の角の空間で出来る限りのことはしましたけど、もっともっといろんなことができるっていうのがわかったので。宿題ですねこれは。

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その六につづく

◆日本全国の73名の方々から535,000円の応援をいただき、資金調達が無事に終了しました。ありがとうございました!!
【平泳ぎ本店 クラウドファンディングについて】
「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」

◆本日もご清覧頂きありがとうございます。もしなにかしら興味深く感じていただけたら、ハートをタップして頂けると毎日書き続けるはげみになります!
◆平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co . では向こう10年の目標を支えて頂くためのメンバーシップ「かえるのおたま」(月額500円)をはじめました。
メンバーシップ限定のコンテンツも多数お届け予定です。ワンコインでぜひ、新宿から世界へと繋がる私たちの演劇活動を応援していただければ幸いです。
→詳しくはこちらから。https://note.com/hiraoyogihonten/n/n04f50b3d02ce
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