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20240505 今ひとたびの、戸山ハイツの夜

唐十郎さんが亡くなられた。私のように小劇場演劇の末席に身を置くものにとってみてもその存在はきわめて大きく、文字通り巨星墜つといった感じでニュースを目にしたときはとても寂しかった。直接お目にかかったことはなかったけれどもその戯曲と演劇論に大いに刺激され、横浜国立大学時代の教え子である劇団唐ゼミ☆の中野敦之さんを通じて唐十郎さんの作品の上演に参加することができたことをとてもありがたく思う。

▼唐十郎さんといえばもう「特権的肉体論」であり、2016年に演劇博物館で開催された「あゝ新宿展」のポスターにもなった、新宿の街を背負いながら佇んでいるうしろ姿がどこまでも印象的だった。
https://enpaku.w.waseda.jp/publication/4530/

▼学生のころ、何にも知らなかった私は扇田昭彦さんの授業で唐十郎さんが新宿西口公園でテントを上演したときに当局を出し抜くために陽動作戦を用いた話をしてくれたのをおもしろく聞いていた。けれども自分が実際に演劇をやるようになって、そうして行政や当局に目をマークされながら、そしてたまに逮捕されながら演劇をやるということの尋常じゃなさを考えるとお腹が痛くなる。

▼唐十郎さんが紅テントを建てるようになる前、ほとんどはじめて野外で演劇を上演したのが他ならぬ新宿区戸山公園の野外演奏場跡だった。今から58年前、昭和41年(1966年)のことである。すこし長くなるが、文章を引用したい。

▼「『腰巻お仙・忘却編』は、昭和四十一年十月二十八日から三十日の三日間、戸山ヶ原の灰かぐら劇場で上演された。灰かぐら劇場といっても、それは、戦前の音楽堂であったらしく、今は屋根も壁もなく、コンクリートの素の舞台だけ、そのうしろには、公衆便所、前には、すすきヶ原といった具合で、東京には、めったにない隠れた広場であった。
広場を青かん劇場らしく見せるため、周囲に一二〇枚のムシロを張りめぐらしたところ、早速、町内会と警察がぐるとなって、それを勝手にぶった切り、追い出しにかかった。署長をはり倒して、芝居を引きあげさす機会は、常にあった。が、私たちは三日間、 興行しなければならなかったので、アホのような物腰で、蔭じゃあくどいことを、という女街の思想で、自らをのさばらせた。
が、時は寒く、場所は辺ぴなため、三日間で七十人の客しか来なかったが、今思うにそれこそ観客の中の観客であったようだ。
演劇とは、終局的には、観客を創造するものであるならば、私の演劇的船出は、その戸山ハイツの夜から始まったのかもしれない。」

唐十郎『腰巻お仙』(現代思潮社 1983年)p.276後記より

▼上の文章の中で唐さんが「灰かぐら劇場」と呼んでいる新宿区・戸山公園の野外演奏場跡地で、私たちは今回はじめての野外劇を上演する。唐さんがムシロを120枚張って怒られたというその場所をすこし劇場らしくするために、唐さんの教え子である劇団唐ゼミ☆の舞台監督の齋藤さんが高い技術力で全面協力で支えてくれる。そして劇団唐ゼミ☆で長く主演俳優を勤めた熊野晋也さんが、俳優として思いきり参加してくれている。時は流れて人は変われど、そこにほんのすこしの唐さんのDNAが流れていることをちょっとおもしろく思う。

「劇は、この時代に最も劇的であろうとする役者の血の中から息を吹き返さなければなりません、彼らが動けば、舞台は華麗な灰かぐらに一変するのです。」

(同p.52)

私たちもまた全員が俳優として、この灰かぐら劇場で思いきり劇の血を迸らせて、のさばる。そしてこの場所がこれからまた多くの観客を創造できるような広場となるよう、できるかぎりの挑戦をする。

唐十郎さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
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