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減価償却のリアル【計算用Excel付き】

 事業を行う上で設備等の固定資産を取得した場合、これらの費用化は”減価償却”という方法で行われます。社会に出られた方は、会社の決算書等でご覧になり、また学生の皆さんも簿記の勉強等で計算したこともあるかもしれません。
 実際に企業の経理部門で働いていると、減価償却の担当にならない限り、集計された数値を見るだけで、”どのように計算されているか”深追いすることは少ないのでは。減価償却費の数値を”使う側”と”作る側”は見える世界が違うんですね
 この記事は、減価償却費の数値を”作る側”を体感できるように説明しています。決して簿記検定の問題を引用して、計算問題に終始するだけではなく、実務の観点から説明致しますので、今までも決算書の数値を”使う側”だった人も覗いて頂ければ嬉しいです。

1.減価償却には、2つのリアルがある

 例えば事業用に機械装置を取得した場合、”減価償却のリアル”とは機械装置そのものが思い浮かぶと思います。経理担当は現物を確認する際には、現場に行き、機械装置を目で見て現実を確認します。三現主義は大切ですよね。
 もう一つのリアルは、法律を読み解くことです。簿記の計算問題ばかりに目が行っていると、”減価償却費の計算は早く正確にやらなければいけない”となってしまいがちですが、法律はどのようになっているのでしょうか?この法律を見ないで減価償却計算をしてしまっていると、”ただの集計屋”に成り下がってしまうかもしれません・・・。

2.税法間では減価償却の取り扱いが異なる

 では個人事業主の場合を見てみましょう。適用される法律は、所得税法と呼ばれる法律になります。所得税法49条第1項では以下のように規定されています。

”(償却費として必要経費に算入する金額は)その者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。(所得税法49条第1項)”

 つまり所得税法では、定額法なり定率法等、強制的に選択した方法で、減価償却しなさいということを規定しています。この考え方は、減価償却費として計算された金額=経費 ということになり、大方のイメージ通りかと思います。しかし、法人の場合は違います。

 次に会社などの法人を設立した場合を見てみましょう。適用される法律は、法人税法と呼ばれる法律になります。法人税法31条第1項では以下のように規定されています。

”(償却費として損金の額に算入する金額は)その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額のうち、・・・政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額とする。(法人税法31条第1項)”

 つまり、法人税法では、所得税と異なり減価償却計算の金額を上限に経費算入できる(減価償却は任意償却) ことになります。極論すると、決算書上、減価償却費をゼロにして計上しない方法もあり得てしまう、ということです。

3.減価償却費=ゼロってありか?

 勘が鋭い方は、”それって節税のために、会社を設立するメリットでしょ?”と感じたかもしれません。つまり会社経理上、利益(所得)が無い時に減価償却費もゼロに抑えておき、利益(所得)が出てきた時に減価償却費も計上することで所得を圧縮、つまり税金を少なくするロジックです。
 確かにこの方法で節税している会社も存在します。”それって利益操作で違法じゃないのか?”との声も上がってきます。ただ法人税法31条第1項で任意償却も認めている・・・難しいですよね。そこで税理士の立場上、追加で次も紹介するようにしています。法人税法22条第4項では以下のように規定されています。

”第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。(法人税法22条第4項)”

 そして一般に公正妥当と認められる会計処理の基準の一部に、”企業会計原則 第三 貸借対照表原則”という規定があります。

”資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならない。有形固定資産は、当該資産の耐用期間にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分し、無形固定資産は、当該資産の有効期間にわたり、一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分しなければならない。繰延資産についても、これに準じて、各事業年度に均等額以上を配分しなければならない(企業会計原則 第三 貸借対照表原則 五 資産の貸借対照表価額)。”

 この”企業会計原則 第三 貸借対照表原則”と”法人税法31条第1項”は矛盾していますので、突き詰めると争点になります。個人的な見解ですが、完璧な形でロジカルに説明できませんので、関係者である監査法人や融資先の銀行などより”粉飾ではない”旨の確認が必要かと思います。

4.リアルから目を背けたくなる、もう一つの理由

 減価償却の実務に関われた方が気になるであろう点がもう一つあります。税制改正によって、2007年4月以降に取得された固定資産の計算方法が、めちゃくちゃ複雑になったこと・・・。様々なサイトで文書を用いて説明等がされていますが、この記事ではExcelフォームを用いて説明致します。

 もし事業されている方は、固定資産に関する情報を会計ソフトに入力すると、償却計算もスムーズに行ってくれます。Excelを使用して説明するのは、会計ソフトで計算プロセスがブラックボックス化してしまいがちなので、計算プロセスの理解のために使用して頂ければ幸いです。もちろん資産件数が数百件のレベルでしたら、このExcelでも十分かと思います。
 このExcelの入力ルールは、薄い黄色のセル部分に固定資産情報を入力していくことで、減価償却費計算を半自動で行うものです。2007年4月以降に取得された固定資産の計算方法が複雑と感じるのは、取得時期によって償却方法の場合分けが発生すること、しかも償却方法を選んでも償却率の選択もしなければならない・・・そこで、Excel関数の仕組みを使って自動計算させています。
 下図をご覧頂くと、青枠部分でまず、取得時期によって償却方法をプルダウンで選びます。すると赤枠部分で償却率が自動で求まり、右列のほうで償却費も自動計算されるという仕組みになっています。

 また2007年4月以降に定率法を適用していると、”改訂償却率”や”保証率”の問題も出てきます。この問題もとても複雑です・・・。複雑な原因は、”そのまま普通償却し続けて良いのか、もしくは改訂償却すべきかの判定が難しい”ことにあると考え、自動的に”改訂償却必要”のフラグが立つようにしています。

5.資産ごとの償却方法の選択について(補足)

 以上、如何だったでしょうか?この記事は、減価償却費の数値を”作る側”を体感できるようにまずは、根拠となる法律の説明を1~3で行い、4で実際にExcelを用いた説明をしました。正直、減価償却の実務に携わっていないと、定額法や定率法、そして改訂償却や保証率などの用語も中々イメージ付きにくかったかもしれません。ただ何となく、法律間で矛盾があり、2007年4月以降の計算はとても複雑・・・のイメージを持って頂けるだけで十分です。そしてもし減価償却の実務に携わることになりましたら、ふとこのnote記事を読み返して頂けると嬉しいです。
 最後に補足までに、資産ごとの償却方法の選択について、”名古屋総合リーガルグループ 名古屋会社設立・起業サポート”の一覧表が分かり易かったので、ご紹介して結びとします。

<以上となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。>

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