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振り返ってやっとわかることもある

あのとき、私はなんて子どもだったんだろう・・・

振り返ってみて、はじめてわかることもある。
代表選手は、なんといってもやっぱり「あいつ」のことだ。

出会い

中学・高校とずっと友だちだった「あいつ」
なぜか、私の女友だちが次々と「あいつ」のことを好きになり、付き合ったり別れたりしてたから、結局ずっと私とは友だちだった「あいつ」

市の主催する「小学生キャンプ」の卒業生たちが、中学生から大学生まで、いろんな学校のいろんな年齢が集まって、有志でハイキングやキャンプを計画して出かけるサークルに、私たちは入っていた。
週末は、よくみんなで集まって、ゲームをしたりお喋りをしたりしていた。

「あいつ」と付き合った女友だち達は、別れるとサークルから離れていった。
そして、私たちは、2人だけで会うことはなかったけれど、後の語り草として「伝説」と呼ばれるくらいの仲良しだった。
でも、大学生になってからはバイトなどで忙しくなったこともあって、私は次第にサークルから遠ざかっていった。

再会


大学4年の秋の終わり頃、久しぶりに「あいつ」から電話がかかってきた。
その前に会ったのは成人式の式場だったから、2年ぶりだった。
懐かしさいっぱいで「元気だった?」からはじまって「久しぶりだね」「会おうか」「うん!」という話になり、「あいつ」はバイクで迎えに来た。

バイクの後ろに乗せてもらって、分かれ道で「海と山、どっちにする?」「海にしよう!」と、右に曲がって東京湾に向かった。
そして東京湾の埠頭で、お互いのこれまでを語り合った。

私は当時、大学の同級生と付き合っていて、彼のお父さんがとても積極的な人だったので、「東京に用事があるから」と言って出かけてきて、その足で私の家まで来て、私の父に向かって「大学を卒業したらお嬢さんを息子にください」といきなり切り出したものだから、私の父は何も言えなくて、トントン拍子に結婚が決まったところだった。

「あいつ」は中学からずっと写真をやっていたから、高校を卒業してから写真の専門学校に行った。
卒業後は、なんとか写真で食べていけるようになりたいと、懸命に頑張っていたらしかった。
男の人しか見ないような雑誌のグラビアのスタジオで、下働きなんかもやっていたらしく、そんな話もしてくれた。
そして、やっと普通の雑誌に、撮影者の名前入りの「あいつ」が撮った写真が載ったんだと言った。

それから2人で本屋に行って、その雑誌のそのページを見せてもらった。

帰り道

暗くなってきて、そろそろ帰ろうか、ということになり、再びバイクの後ろに乗った。
帰る道々、ラブホテルのネオンがあちこちに灯りだしていた。

信号でバイクが止まったときに「あいつ」が言った。
「入ろうか・・・」

私は「もうちょっと早く言ってくれてたら、よかったんだけどね」と、くったくなく正直な気持ちを答えた。
それは本当に正直な気持ちだった。

「それもそうだな・・・」と「あいつ」は言って、そのまま家まで送り届けてくれた。

3月の別れ

私の結婚式の2週間くらい前に、もう一度「あいつ」から電話がかかってきた。
「あいつ」は大きな花束を持って、買ったのか借りたのかわからないけど、とにかく車で、家まで迎えに来てくれた。

そのまま近くのファミレスに行って、ずいぶん長い時間、他愛ない話をして別れた。
それから、私は他県に引っ越したこともあって、「あいつ」に会うことは2度となかった。

そして、望まれるままに決まった若すぎる結婚は、残念ながら思い描いていたようなものではなかった。

なぜあのとき「あいつ」は電話をくれたのか

私がそのことに気がついたのは、それから15年くらい経って子育ても一段落した、ある日のことだった。

私たちの空白の2年間、私は大学生活を送り、「あいつ」はアダルト雑誌のグラビア撮影の助手などをしていた。
そんな状態で私に連絡をすることは、きっとできなかったのだろう。
「もうちょっと早く言う」ということは、できなかったんだ・・・

そしておそらく、はじめて普通の雑誌に、撮影者として自分の名前の入った写真が載ったから、私に電話をくれたのだろう、ということにやっと気がついたのだった。

ばかな私は、15年も経ってから、「あいつ」の気持ちと思いやりに気がついて、思いっきり泣いた。

分かれ道

あのとき、私は分かれ道に立っていたのだ。
運命のいたずら、という言葉を思わずにはいられない。
でも、ちっとも何にも気がついていなかった。

当時は携帯電話もなかったから、その後の「あいつ」を知る術もない。
後悔とは少し違うけれど、あのときの分かれ道を忘れることは、今もできないでいる。

歳をとって、振り返ると、違う風景が見えてくることがある。
それはきっと、その人の人生を豊かにしてくれるのだと思う。

あんなにかっこいい奴は、めったにいるもんじゃない。




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