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日本酒の辛口に潜む魔物

こんにちは。ヒライユウキです。家族の創業地である100年の時が流れる家「日詰平井邸」に残された醸造所の復活を目指しています。

全国には本当に飲み切れないくらい日本酒があります。1563場も酒蔵があり、そこから複数のアイテムが世に出されているわけですから、死ぬまで出会うことすらない酒がたくさんあるわけです。

まして岩手という超ド田舎で暮らしていると、美味しいお酒に出会うチャンスもかなり限られてきます。

※もちろんおいしい地酒はたくさんあるよ!
いい酒屋さんもあります。

自分が勉強したい(飲みたい)のもあるし、全国のお酒との出会いを楽しんで欲しくて、イベント限定の酒バー「酒の間|sakenoma」を2022年4月から始めました。毎週土曜日、盛岡の材木町よ市にてレギュラー出店中です。

お酒を提供する場面で避けては通れないのが辛口の日本酒ですよね。

酒の間に持っていく日本酒は、ざっくり「フルーティ系」「ジューシー系」「ドライ系」で偏らないようにラインナップして準備しています。ぶっちゃけ、辛口なんて人それぞれなんで「辛口ください」っていうお客さまにもフルーティ系やジューシー系をおすすめする事も少なくありません。しかも大体はとても喜んでくれます。

これは私がへそ曲がりなのでは決してなくて「辛口は良いお酒の代名詞と思っている方」「酸や味の多いお酒を辛く感じる方」も多いので、おおよそのご年齢や話し方、雰囲気でそう判断した時にご提案しています。

逆に、面白いもんで、甘口好きな人にドライ系をおすすめすると外れ率が高いのでしません。甘口党は甘さが無いとダメなのです。分かりやすい。

さて、この日本酒の辛口。うーん。
お酒を造る人からすると、ホント、難しいんですよ。

何をもって辛口なのか

私なりの結論から言うと、辛口の日本酒とはグルコースが少ないお酒ではなく(←ここが重要)、日本酒度がプラスのお酒です。

世間一般的に日本酒度マイナスが甘口、日本酒度プラスが辛口と言われていますので、そのまんまなのですが、日本酒度という指標以外の成分が実は味の感じ方に大きく影響しています。香りも含めてです。

たとえば、グルコース(ブドウ糖)という成分があります。

これはお米のデンプンが麹のチカラで分解されたもので、日本酒の甘味の主成分です。おおよそ1.0~3.0くらいが普通の日本酒のグルコース濃度で、もちろん数値が多いほど甘くなります。

話を日本酒度に戻すと、

日本酒度+3 グルコース2.0
日本酒度+3 グルコース1.0

両方存在します。もちろん甘いのは前者です。甘口の反対が辛口であれば、後者のお酒が辛口、ということになります。

では、先ほどのお酒にもうひとつ成分表記をつけると…

日本酒度+3 グルコース2.0 酸度2.5
日本酒度+3 グルコース1.0 酸度1.5

酸度というのは日本酒に含まれている有機酸量です。必ずしも酸っぱいものではありませんが、ざっくりいうと味の「どっしり感」「にぎやかさ」です。私がやっている酒の間でいうと前者はジューシー系に多い傾向ですね。

どちらも「辛口の日本酒」としておすすめし得る成分数値になってしまいました…

そもそも日本酒度とは

日本酒度とは何かというと、比重です。液体としての重さのことです。日本酒度マイナスが重い、プラスが軽いを表します。

砂糖を水に入れると、コップの底に沈んでいきます。これは糖分が水より重いから。逆に、油は浮きます。油は水より軽いんですね。

日本酒を造る時は、最初めっちゃ日本酒度マイナスからスタートします。マイナス80くらい。要は、酵母が発酵するエサになるグルコースをたくさん準備するわけです。

発酵が始まると、グルコースをエサにしてアルコール(エタノール)に変えていきます。水より重い糖分が消化されて、水より軽いエタノールが増えていくので、日本酒度は段々ゼロに近づいていき、お酒を搾るちょっと前にプラスに転じます。

もちろんマイナスで搾ることもあります

もう一回さっきのやつです。

日本酒度+3 グルコース2.0 酸度2.5
日本酒度+3 グルコース1.0 酸度1.5

日本酒度(液体の重さ)は一緒です。でも、明らかに水より重い物質(糖と酸)が前者の方が多いですよね。でもこれ、極端な例じゃなくて普通にあり得るものです。例えば前者の方がアルコール度数が高い(水より軽い成分の割合が多い)とか。後者はグルコースは少ないけどショ糖(グルコースに分解される一歩手前の状態。あまり甘くない)が多いとか。とにかく、ここに表示されていない成分のバランスによって、たまたま液体の重さが同じだけってことです。

甘口っていうのはグルコースが多いとか、甘やかな香りがするとかで分かりやすい一方で、辛口の日本酒は条件があまりにも複雑なのがお分かりいただけたでしょうか。

辛口のジレンマ

個人的な話になりますが、私はただ日本酒度をプラスにしただけの辛口の日本酒が嫌いです。

先ほどお話した通り、糖化したものを発酵して液体を軽くしていくので、単純に発酵が長く続く状態を用意できれば、日本酒度はプラスになる可能性が高くなります。

発酵が長く続く状態というのが、これがまた大変で、酵母はアルコール度数が13~14を超えると徐々に弱り、やがて自分が代謝したアルコールで死にます。酵母が死にはじめるともろみの発酵は弱くなるばかりか、アミノ酸が増えてきます。

酵母の死滅は非常に厄介で、日本酒の劣(老)化を早める成分が多くなり、アミノ酸は味のくどさになります。酵母が死んでも無理矢理頑張らせたよなーというお酒を「お疲れだね」って妻と話すのですが、ドライが売りなのに変な渋味がギリギリ残って、爽快なキレに集中できないんですよね。酵母がかわいそう。しかも十中八九、劣化しているという。

酵母をいかに死なないようにするか、というのが多くの酒蔵が血眼で取り組んでいることなのです。しかし、辛口の魔物によって、そのセオリーが見えなくなった酒造りをさせられている酒蔵が存在しているかもしれません。その魔物は飲み手や提供者、販売者をも惑わせるのです。そして、本質を見失ってしまう。甲子園には魔物がいると言われているが、辛口の日本酒には実力の外で「負け」を演じてしまう怖さがあるのだ。

※特定の銘柄を否定しているわけではなくて、結構どの酒蔵でも大小なり起こり得る現象です。私も「お疲れ気味」にしてしまったことは何回もあります。

いかに酵母をなるべく殺さずにアミノ酸や劣化成分を増やさないようにアルコール発酵させ、おいしいうちに搾るか。しかも、設計や思想によっては味の緩急がある方がキレを感じやすいから、ある程度糖分(グルコース)も必要という人(自分です)もいる。ということは、グルコース以外の水より重い成分はとにかく少なくしなければプラスに届きません。要は、日本酒度だけを見ていてもおいしい辛口にはたどり着かないということです。

辛口のおいしいお酒を見つけたら、ぜひ造っている人たちを褒めてあげてください。そして私にも教えてください。

「辛口ください」に意味はないのでは

お酒を提供する人は辛口というキーワードについ過剰に反応してしまうかもしれませんが、お客さまからすると、もしかしたらそんなに意味はないかもしれません。

だからといって甘いお酒をおすすめする理由にはなりませんが

日本酒の辛口ブームが起きたのは1980年代後半と言われています。アサヒの「スーパードライ」の追っかけという説もあるし、三増酒(糖類などの添加物で三倍にかさ増しした日本酒)に対するアンチテーゼであるという流れもある。ちなみに現在の「清酒」に三増酒は存在しません。かさ増ししていない日本酒=辛口という時代もあったのです。

辛口ください、っていうのは、おいしいお酒ください(こんにちは)、っていうことだと思ってお客さまとの会話を楽しみながら、取り寄せた大好きな日本酒をおすすめしたいと思います。

このnoteは日詰平井邸 醸造所復活に向けた宣言であり、その過程をまとめるものです。ぜひ ♡ で応援いただけますと幸いです。

■日詰平井邸 醸造所復活へのミッション

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