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Re:孤独なグルメは美味いもの知らず3

とんかつチェーン店で有名なかつやに行った。何故なら新しいメニューが出たからだ。
まぐろカツと鶏ささみカツの合盛り定食。まぐろカツと言うものを私は人生で非常に稀な出会いだった。昔どこかで食べた記憶があるが、それが何処だったかさっぱり覚えていない。しかしたぶん関東の何処かの港町だろうと思う。その薄い記憶では、鮪のカツはサクサクとしていてとても美味しい物だった。
かつやの新メニューであるそれも、まあ普通に美味しかった。値段から見てもB級グルメであるのは間違いないのだが、とんかつ屋と言えば昔は高級料理で、それこそ何かの祝い事や特別の日に親と一緒にとんかつ屋に行くのであった。同類に鰻屋と言うのもあったが、当然そちらも祝い事や特別の日にありがたく頂く料理だった。
それが今やB級グルメになるくらいリーズナブルになり、誰でも気軽にとんかつを食べれるようになった。
が、しかし残念なのは、リーズナブルになるにつれ味も落ちてしまったのである。その昔はとんかつは作り置きなど一切せず、客から注文が入ると、そこから作り始めるので普通に30分以上は待つのであった。待ち切れぬ客のために、ビールや酒などが先付けとして出されるのだった。
出来上がったとんかつは、ホクホクしてさっくりした食感で、とんかつソースも、それぞれの店のオリジナルで擦り胡麻を入れたりして香ばしさを高めたものだった。とんかつは安くない料理。鰻も同じ。それらの店は通常は一軒家が多くて一階はテーブル席で2階には座敷があり、会食など、時には披露宴などが行われていたのである。昭和の良き文化であった。あの頃のとんかつは、本当に美味しかったと思う。

かくして新メニューである、まぐろカツと鶏ささみカツ定食はテーブルに運ばれた。これで1,000円以下の大衆プライス。
まぐろカツが二切れ、ささみカツも二切れだったが、見た目が似ていてどれが何だかが分からなかった。カツと言えば当然とんかつソースをかけるのだが、まてよこれは何やら出汁つゆの様なものがかかっているようだ。それに大根おろしも軽く盛られていた。なのでとんかつソースをかける前に一口食べてみようと思った。
ガブっと齧ってみると、それはまぐろの様だった。確かに魚の味がした。私は記憶の彼方にある昔どこかの港町で食べた、あのまぐろカツの食感を思い辿りながら重ねていたのだった。
こんな感じだったかなぁ。
うる覚えの食感や味は、やはり勘違いだったのかと思った。
一口齧るときのサクッとした食感はたぶん同じだが、その後は違っていた。しかしここはB級グルメ店。小料理屋ではないのだからハードルは上げずに行かねばならない。
だからこれはこれで初めての料理と言う事で食べてみようと思った。
そう考えると、これはリーズナブルであって、まあまあ美味い。ささみカツも臭みも無く美味しかった。ただ唯一要望があるとすれば、この出汁のつゆはかけずに出して欲しかった。つまりサクサクのカツがつゆの付いているところがフニャフニャになってあたからである。出来ればこの手の出汁は自分でかけたいものだ。しかしまあそれは言うまい。ここはB級グルメ店なのだから。
かつやの気に入っているところは、味噌汁ではなく豚汁なことだ。これはとても素晴らしいと思う。牛丼チェーン店の薄過ぎる味噌汁よりは遥かに美味しいのである。それと白米をどんぶりで出さずに大きめの茶碗で出すところが好きである。これも牛丼チェーン店では白米は普通にどんぶりに盛られているのだから。
小さなことかも知れないが、自称B級グルメ探検隊としては大切なポイントなのである。
B級グルメは、少し美味しければ良い。すごく美味いとそれはちょっと違うのである。そう普通の味で良いし、出来れば普通よりちょっとだけ美味しければそれはつまり満点と言う事なのである。この価値観こそB級グルメ好きのスタンダードなのである。
B級グルメは、あまり美味しくなくて良く、しかし何故かまた行きたくなる味でないとダメなのである。例えば屋台のお好み焼き。これはB級グルメの王道であるが、毎日食べたくなるかと言うと否。不味くはないが美味しくもない。ただただパンチの効いた味付けと雰囲気。店によっては鰹節をこれでもかと振りかける所もあり、そして安い。非常に大切なポイントである。

かくしてまぐろカツと鶏ささみカツ定食を平らげてお会計を済まし外へ出た。店を振り返り、たった今過ぎた食事時間の事を振り返ってみる。
少し残念であったが普通であって良かったと思う。ウェイトレスの中年女性の無愛想を除いては。


いつからであろうB級グルメに嵌り始めたのは。そんな事をふと考えてみた。
5年、10年と記憶を遡って行った。するとどうやら大学生の頃に一人暮らしをしており、それは白楽と言う小さな街であったが、小さな個人経営の飲食店が幾つもあった。十代の男子では料理など出来る筈もなく、お金は無いのだが日々お腹が空くと街中に繰り出し何かを腹に入れていた。その一つにラーメンがありお好み焼きがあり、もんじゃ、カレー、牛丼などなどがあったのである。小腹が空けばアメリカンドッグ、中華まん、惣菜パン、フライドポテト、ハンバーガー。すべてがB級グルメであった。社会人になってもその習慣が取れず、また結婚してもその習慣は取れることが無かったのである。以来数十年間私はB級グルメで育ってきたのである。30代の頃は今よりも随分と収入が多かったが、それでも朝食、昼食、夕食とB級グルメばかりであった。夕食はサラリーマンの定番である立ち食い蕎麦が多かった。 

近年は、外国人が多く日本に住んでいて中にはYouTuberも何人かおり、彼らが番組の中でよく言うのが、日本食と言う言葉。それはたぶん寿司や焼鳥、鰻、居酒屋メニューなどであろうが、ふと私は思った。私は彼らの言う日本食をそれほど食べておらず、それよりも圧倒的に多くのB級グルメを食して来たことを。B級グルメとはいったい何処の料理なのだろうか?とんかつですら安価なチェーン店に行くし、鰻など滅多に食べないし食べても牛丼チェーン店で食べる鰻丼である。焼鳥に至ってはドン・キホーテの惣菜売場で売っている5、6本入りのパックである。居酒屋メニューについては、バイクにいつも乗ることからお酒は一切飲まないので行かないのである。だが職場仲間や宴会などでは何度も行ったことがあるので、だいたいは理解出来ている。 
外国人の言う日本の美味しい物。それっていったい何なのだろう。
みたらし団子、わらび餅、焼鳥、おでん、お寿司、豆腐に湯葉、鍋。
ザ和食!
そんな事を思い起こしていると、自分は何て日本食に面していないのだろうと無念に思うのである。
しかしである。では休日にはとんかつ専門店に行くとか月に一度は鰻屋で鰻重を食べるとか。ラーメン絶ちをするとかマックに行かないとか、そんなのはあり得ないのである。私は昔も今もコンビニと牛丼チェーン店と中華屋チェーン店とハンバーガーショップ、そして焼肉屋で生きて来た。所得の多い少ないは関係なくである。因みにセブンイレブンにあるブリトーは発売当初から現在に至るまで食べ続けている。
だから日本食と言われても、少し考えると自分には関係ない食事なのだなと思うのである。
そうそう私は、何とお米の炊飯器を殆ど使わない。月に2度程気が向いたら白米を炊く程度である。美味い白米も炊けた事が一度も無い。朝食はいつも職場の近くのコンビニでサンドイッチとブラックコーヒー。時には駅構内のNewDaysで同じ物を買う。昼食に至っては胃腸が重くなるのが嫌なので、殆ど白米は食べず麺類か惣菜パンだし。夕食はパスタ類が多い。休日はバイクで出掛けB級グルメの店をふらふらと探検、または視察しているのである。
B級グルメはいい。値段が比較的に安いし、一人で店に気軽に入れる。誰にも気を使う事なく自らの屁理屈日記をひたすら書き加えるだけなのだ。食事の提供時間も一流料理店のように遅くなく、あっという間に出てくる。あべ終わったら直ぐにお会計をして出れる。この手軽さが私にはピッタリと合致しているのである。そして付け加えるなら、時代の流行り物をいち早く提供するのもB級グルメ店である。少し前のタピオカ然り、マッサマンカレーや新しいラーメンも。噂になると爆発的に売れるのがB級グルメ。しかしその大波は一瞬で終わる事も忘れてはならぬのだが。

次号へつづく

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