背中

いつも背中を追いかけていた
思い返しても背中姿ばかりで
街中ですれ違ってももう今は
わたしは気付けないだろうし
あのひとも分からないだろう

あのひとが予想もしなかった姿に
わたしはなっているんじゃないか
そう思うとちょっといたずら心で
わたしと気づかせてやりたくなる
服装も髪色もメイクも変わったし
もちろん内面のこともいろいろと
あのひとにはきっと衝撃的だろう

髪が短めなのは変わらないままでいる
あのひとが似合うと何度も言ったから

あのひとはわたしの何を見ていたんだろう
わたしはいつもあのひとの背中ばかり見て
きっと真正面から向き合うことなどなくて
ただ憧れに憧れていただけのような気持ち

背中の感触は今でもほんのりと記憶にある
弱りきっていたときに寄りかかった背中は
無言のままそれでも拒まずじっとしていて
まだ蒸し暑い秋の初めごろ暗い部屋の中で
甘えたかったんだろうとあのひとは言った
だからお前は何も悪いことはしていないと

もうお互いに気づかないくらいに
あのひともわたしも変わったはず
だけどふとすれ違った人の雰囲気
なぜか振り返って確かめてしまう
あのひとじゃないと知っていても
背中さえもうあのひとでないとは
断言できないほど忘れているから