ファインダー越しの横顔
彼が夢に出てくるのは
初めてかもというほど
珍しいことだったのと
ちゃんとストーリーが
あって印象的だった朝
夢の中で段ボール箱を開けて
大切そうに取り出したカメラ
ネットで見つけた高価なもの
私が触ると大事に扱ってよと
言うけれど止めはしなかった
カメラを構えて彼に向けた
ファインダー越しに見る彼
少しざらりとしたくもりを
通して彼の横顔を見ていた
手に入れたカメラで撮る一枚目の
被写体は自分自身だということと
撮影するのはわたしでいいのかと
そのふたつを思いながらピントと
しっくりくる配置とが合うように
ファインダー越しの彼は笑っていた
横顔しか見えなかったけれど確かに
ファインダー越しの彼は笑っていた
もしかして私の気ままな振る舞いを
横に見て笑っていたのかもしれない
結局撮影したのは他の数人と一緒で
彼単体ではなかったのが不完全燃焼
夢から目覚めた朝一番に思ったのは
本当にもし彼を撮影するなら絶対に
彼ひとりをその横顔を夢で見たより
ずっと彼らしい表情を収めるはずだ
細める目じりにちょっとしわの寄る
ファインダー越しの柔らかな横顔を
よくよく考えてみればおかしな話だ
本来なら彼が私を「診る」側なのに
夢の中では私が彼を「見る」だった
私は彼の何を見ようとしていたのか
実物の彼を前に座りつつ考えている