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【小説】明日から始まるカウントダウン

 『明日やろうは、馬鹿野郎』

 よく言われるけど、その言葉通りなら僕はもう大馬鹿野郎を通り越して何になるんだろう。
宿題だって、部屋の掃除だって、遊びに行くときの準備なんかも決まったその日までに終えた事は無い。全部全部、「明日やろう」だ。

 まあ、それでどうにか今日まで生きてこられたのだからいいじゃないか。
間に合わなかった宿題は、先生の雷とお小言を一つ浴びて殊勝に聞いているふりをして反省している姿勢のかけらを見せればいい。部屋なんて多少汚くても僕自身が気にならなければ掃除なんて今日じゃなくていいし、遊びに行くときなんかはポケットに財布とスマホを突っ込めば準備完了だ。

 特にやりたい事は無く、やらなきゃいけないことはそれなりにあるけれど、全部全部明日の僕に丸投げだ。

 この先もずっとこうやって生きていくんだと思ってた。
 あの子に出会うまでは。

 いつか、テレビの中で有名な誰かが言っていた。
『人生には、これまでの生き方を百八十度変えるような出会いがある』

 僕にとっては、あの子との出会いがそれだった。

 あの子はいつも僕と違って「前もって準備をする」ような子だった。
宿題は当然、その日のうちに終わらせて提出が遅れたことなど一度もない。家が近所だったから親同士の仲が良くて、誘われてあの子の部屋に入ったときはモデルルームか何かと勘違いするほどきれいだった。なぜか一緒に遊びに行くことになった時も、その前日から「準備は終わったか、こちらは今すぐにでも」という旨の連絡が来る。
どうやらあの子は僕の「明日やろう」っぷりが気に食わないらしく、おせっかいを焼いて何とか僕を「馬鹿野郎」にしないように奮闘している。
「いつまで君は馬鹿野郎なのかな」
今日もあの子は困ったような呆れたような表情で僕を見つめる。

君に出会って僕の生き方はこんなにも変わったのに。
なんて言ったってあの子はきっといつまでも気が付かない。

え?最初のころと全く変わってないって?
うーん、そんな事は無いんだけどな…。
ああ、行動だけ見れば変わってないかもね。
でも、これは計算ずくなんだよ?

そう。僕はあの子に飽きられないように、あの子が僕を気にかけてくれるように意図的に「馬鹿野郎」になっている。

「君はいつになったら今日、終わらせるようになるのかな。」

うーん、そうだな。

明日から、やろうかな。



その明日っていつ来るんだろうね。

お読みいただき、ありがとうございます。 これからも私の感じたことをより表現していこうと思います。