水辺の安全とライフジャケット
年々暑くなるような気がする日本ですが、一方で四方を海に囲まれ、世界が羨むほどの清流があちらこちらに。そう、日本は水に本来とても親和性のある国です。対流効果で体温はすぐに奪われていくことから、暑い季節はクーラーの中に入るよりもよっぽど効果的でエコなクールスポットと言えます。
他方、毎年この時期になると「水辺の事故」が話題になります。できれば事故は避けたいもの。そこで最近よく耳にするのは「水辺に行くときは必ずライフジャケット!」というキャッチコピー。一度はお聞きになったことあるのではないでしょうか。今やどんな媒体でも注意喚起がされるライフジャケットについて、ひの自然学校なりに考察してみることにしました。
ライフジャケットの有効性
そもそも、ライフジャケットはどんなことに対して有効なのでしょうか。そんな視点から…。
①何と言っても「浮く」
水辺の事故で最も致死的なことは「水没」です。つまり息が吸えず酸素が遮断されることで死に至るわけです。ライフジャケットは「ビート板で作られているベスト」とでもいいましょうか、とにかく浮くことに最もその価値があります。水面から浮いてさえいれば命が助かる可能性は飛躍的に高まります。こうした点から「水辺ではまずライフジャケット」となるわけです。ライフジャケットを活かした浮いて流れる遊びも、楽しいですよね。
②防寒
ライフジャケットの浮く部分の多くは、発泡ポリエチレンや発泡ポリプロピレンでできているものが多いそうですが、これらは良き断熱材でもあります。つまり、断熱材に常にピッタリ挟まれてる状態でもあり、防寒素材としても有益と言えます。子どもはすぐ冷えちゃいますらね、そういった意味でも水遊びを長く楽しむという理由で使えそうです。
③耐衝撃
これはオマケ的かもしれませんが、厚い発泡素材で覆われているので、衝撃を吸収してくれる効果もありそうです。足場が悪く滑って転ぶ…のはよくありそうですが、直接胸周りが石にぶつからずセーフ!なんてことも期待できるかもしれません。
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こうやって書いてみると、水遊びにマスト!と言われる所以も理解できますね。
ライフジャケットは万能か①
ライフジャケットを付ければ水辺オッケー!と思いたいところですが、そうとも言い切れません。ライフジャケット着てても意外と溺れるのです。
☆焦ってパニックになる場合。
これが一番多いかもしれません。こちらの動画をまずはどうぞ。
彼の身長は約90cm、水深はまぁ40cmくらい。それでも足が滑る→腹ばいに浮く→足一瞬つかない→焦る→水面に顔付きっぱなし→溺水…
というメカニズムです。ライフジャケット着てても、溺れます。
☆「体重や泳力<浮力」 の場合。
泳げない、もしくは浮力に対して体重が軽すぎると、うつ伏せに浮かんだ時に体をひっくり返す、起き上がる動きが浮力に負けてしまうことがあります。結果、浮いてはいるものの水中に顔を着けたままになっている→溺水。
これは一見泳いでいるようにも見えるので注意が必要そうです。先ほどの動画はこの要素も含まれているように思います。
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つまり、ライフジャケットを着てようが、着てまいが「大人の監視と万が一の救助スキル、もしくは川や海での適切な流され方のスキル」がないと決定的な効果を足さない、ことになりますね。
人間の心理で、ライフジャケットを着ると「安全安心だ!」という意識が芽生え、リスク認知が低下する傾向があります(リスクホメオスタシスというそうです)ので遊ぶ前の認識を新たにすることが重要ですね。
ライフジャケットは万能か②
楽しい水遊びについてライフジャケットがあるがゆえに「やりずらさ」「できない」遊びも存在します。例えば…
・潜る遊び
そもそも浮くものを着ているので、潜って水の世界を楽しむことは永久に阻害されます。
・しゃがんで楽しむ遊び
石ひろいやダムづくりなど、石でチョコチョコ遊ぶのも川の楽しみですが、胸にでっかいベストが着いているのでまぁやりにくいですよね。長い時間はたぶん持ちません。
さて、ライフジャケットをどう活かすか。
有効性を理解しつつ、どういうシーンにおいてライフジャケット装着すべきかどうかを最後に考えていきましょう。ここから先は、ひの自然学校が独自に考える「水遊びとライフジャケット装着についてのクライテリア」です。参考にしていただくのは歓迎ですが、あくまで私たちの考えです。
①そもそも、そこはライフジャケットが必要なところか。
「ライフジャケットの有効性」を認識したうえで、遊ぼうとしているフィールドと内容にライフジャケットが有益かを検討します。たとえば…
・そこはずっと子どものひざ下推進?腰以上になるエリアが存在する?
・流水?瀞場?
・足元の不安定性?
・天候は暖かい?肌寒い?甲羅干しがすぐできる?できない??
・子どもの装備は?防寒体制は?
・流水域であればストレーナーなど人が捕まる危険性の地形の有無?
など
②「ライフジャケットを着けない」選択をしたいときにはそのバックアップが確実に取れるか。
・救助体制と監視の人数?
・スタッフの救助スキル?
・波や離岸流のあるところ?波のない入り江?
・流水速度、河川であれば遊ぶ前後の地形や水深は?
→子どもは「決められた範囲の外側にいく生き物だ」というのが過去判例からのスタディです。範囲外の地形や水深も判断考察の対象に入ります。
遊ぶ場は浅瀬でも、5m下流が水深2mじゃ…だめですよね。
・大人が確実に安定して立っていられる地形、水量か。
・大人の監視や救助に対する子どもの人数は適正か。
・河川であれば現地や上流部の急な増水の危険性の認識あるか
→今どきは雨雲レーダーなどで河川上流部の様子リアルタイムにある程度把握できますし、このあたりは水難事故における判例のポイントにもなっているほど重要なコンセプトです。
など
この辺を判断材料として検討し、遊びたい内容や場所に応じて「ライフジャケットを着ける!」「全体的に、部分的に着けない!」と判断することもあります。
いかがでしょうか。身近で良質なクールスポットを、安全に楽しく、そして「正しく恐れて、正しく対処する」。アウトドアのリスクマネジメントは分析的に検討するCritical thikingが最も重要なスキルと言えます。
今日はライフジャケットだけを切り取りましたが、ほかにも水辺の安全を考えるポイントはいくつも。いろんな角度の情報を収集し、よりよい水遊びを楽しんでいきたいですね♪
ひの自然学校リスクマネジャー 寺田まめた