[小説]ギフト ~豊中~
みんなの視線がおれに集まっているのがわかる。おれは草をむしり続けていた。
「橘~?お前に聞いてんだけど。無視しないで~」
豊中は首を伸ばし、おれの方を向いておどけた感じで改めて聞いてきた。
「・・・兄貴がいる」
おれは草をむしりながら、ぼそっと答えた。
「へぇ~!お前も兄貴いるんだ?ひとり?いくつなんだよ兄貴は」
豊中はおれの横に場所を移動してさらに質問してくる。めんどくせぇと思いながら、でも答えない方がめんどくさくなりそうだったので、6つ上の大学1年生だと正直に伝えた。
「お前弟だったんだな。俺お前は一人っ子だと思ってたよ。いつも一人で自分の世界って感じじゃん。あ、でも6つも離れてたら一人っ子みたいなもんなの?」
豊中は本当にめんどくさい。おせっかいだし、思っていることを全部言うし、全く悪気がない。全く悪気がないからこそ、鼻につくときがある。みんなからは竹を割ったような性格と言われていて、学級委員にも選ばれるほど頼りにされており、文武両道だ。おれには豊中がまぶしくて仕方ない。
「なぁ橘ぁ~?」
おれがすぐに答えずに草をむしり続けていると、160cmは超えているであろう大きな体でおれの肩を自分の肩でトンっと押した。おれはバランスを崩し、両手と右下半身が土についた。
「あっごめんごめん。大丈夫?」
そして豊中は優しい。自分の体格が同学年のみんなより大きく、ガタイがいいということをわかっている。おれの左腕をつかみ、グッと引き上げた。おれは暑い中ずっと座って作業していたこともあり、急に立ち上がらされたことで頭がくらくらした。
「ん?橘?気分悪い?」
豊中はおれのちょっとした変化にも気がついた。おれは大丈夫、とだけ答えてまた草むしりの体勢に戻る。
「ごめんな。無理すんなよ。しっかし暑いよな~!」
豊中はおれの左肩に右手を軽く置き、次に空に向かって両手を伸ばし背伸びをした。
豊中はめんどくさい。けど優しい。
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