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文学トリマー #毎週ショートショートnote

「先生!今日という今日は本当に…」

「あぁわかってる」

「しかし先日から全く…」

尚も続く催促に、話の途中で電話を切った。

進んでないわけじゃない。頭の中には次の展開が何万字分も広がっている。それをうまく紙に落とし込めていないだけだ。数ヶ月家にこもり机にかじりついているのに、脳内は散らかるばかり。

仕方ない。トリマーを呼ぼう。


「あらあら大変!ほら、まずはお風呂!」

正直いつ風呂に入ったかすらわからないが、されるがまま犬か芋のようにわしわしと洗われる。
力強い指圧は固まっていた思考をほぐし、汚れと共に余計な言葉が頭からするりと消えた。

続いて髭と髪。伸び放題だった毛を整えられると、頭の中に残った言葉たちも自然とあるべきところに収まっていく。

爪を切られる頃には、止まっていた手が書きたがってうずうずし始めた。


やはりスランプを抜け出すにはこれに限る。
そうだ、思い切って主人公を動物にしてみるというのはどうだろう。書き出しはそうだな、吾輩は…


(413字)


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