海のピ #毎週ショートショートnote
ピッ..ピピッ
「ほらやっぱり!」
俺から体温計をむしり取った母ちゃんが言う。
「アンタは今日は海禁止!父ちゃんと兄ちゃんに言ってくるからここで大人しくしてて」
「そんなぁ...」
体がだるいのはわかっていたけど、元気なフリをしてここまで来た。
楽しみにしていた海。このまま帰るなんて絶対に嫌だ。
俺は母ちゃんが見えなくなったと同時に走った。
ちょっとだけでいいから...海に入りたい!
ピッ!ピピーーー!
その後の記憶は曖昧だ。覚えているのはホイッスルの音だけ。
「今思い出しても笑うよなぁ。お前あんな浅瀬で溺れるんだもん」
「いやあの時は熱もあって...」
「具合悪い奴が準備運動もなしに入るからだよ」
「それは...反省してます」
十数年後、俺はライフセーバーになった。
あの日命を救ってくれた人は、今でもこうして俺をいじってくる。
「まぁでもその縁でここにいるんだもんな。ほら、今日もお前みたいなアホがいないかしっかり見張れよ」
「...はい!」
俺はピッと先輩に敬礼をして、持ち場に走った。
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